2023/9/7-10 川内・下田を巡る山谷の沢旅
川内下田・今早出沢~魚返りの大滝~青岩~東又沢~大ブナ沢~1096峰~西の沢~室谷川
一ノ俣沢橋の袂で夜を明かす
朝、ここで雨が降っていないのは初めてだ
3時間ほどの仮眠であったが、寝起きは良かった
それはもちろん、これから始まる沢旅への期待がそうさせたのだ
-川内・下田を巡る山谷の沢旅-
秘境の先へ
青の別天地
深懐の森と夜
静淵の時
山谷を繋ぎ、巡る理由
「そこに身を置いてみたい」
ただそれだけのことだった
2023/9/7
今日はアプローチ
一ノ俣沢橋から右岸の踏み跡に入り、一ノ俣沢を遡る
何度か辿った道なので記憶のままに遡っていったら、一ノ俣乗越に至る枝沢の手前を詰めてしまい余計なヤブコギをこなすことになってしまう
なんとか尾根に乗って獣道を北進すれば、明瞭な踏み跡の一ノ俣乗越
踏み跡を下っていくが倒木などで隠された場所もあるので、注意深く下る
窪をいくつか渡りながら右(北)へトラバース気味に下降していくとアカバ沢の流れ
この流れを下っていくとナメとともに今早出沢に合流する
今早出は水量が少なかった
この夏の猛暑と新潟の少雨が原因だろう
それでも見上げれば青空、足元には金色の流れが煌く
流れに浸りながら行くのが、実に気持ちいい
5年前に泳いだ瀞場は渇水に加えて、大岩が鎮座しており腰を濡らす程度の通過
横滝も水流少なく、容易に直登
折角だからと甌穴の中に入ったり、積極的に水と戯れ遅い夏休みを楽しむ
あとは淡々と流れを遡り、ガンガラシバナを望む右岸草地に幕を張る
ガンガラシバナ右方ルンゼは、渇水で流れが目視できない
それにしてもこの迫力
今早出を遡った者のほとんどがそれに目を奪われるだろう
ささやかな焚火で夜を過ごす
星夜を肴に今宵は「奥の松」
寝不足で闇が満ちる前から睡魔に襲われる
明日は関東地方に台風が接近するらしい
その影響もあって新潟も終日好天は望めないだろう
岩峰のシルエットに明日を思い、残りの薪を全てくべる
火勢が増し辺りの草木がオレンジ色に染まり、時に爆ぜる
迫る闇に抗っているかのようであった
2023/9/8
-秘境の先へ-
ガンガラシバナを横目に今早出沢の本流を行く
流れを詰めると、スラブ状にガレや大岩が堆積する
前衛の3つの滝は概ね右から小さく巻くように進んだが、3つ目の草付トラバースは一歩が悪い
魚返しの大滝
過去の記録では左壁からとある
クランク状に佇立する壁に滝の流れは概ね二条
当初は左水流の左を走るクラック沿いで想定
下部のバンドを右上しクラック下まで
少し登ってみたが、かなりのヌメりでちょっと怖い
一旦退く
次に取付いたのは、そこからさらに左の岩壁
傾斜はキツいが、岩は乾いている
そして途中に灌木が生え、その上も草が使えそうであった
空身の荷揚げ
荷揚げの労力とリスクを考慮し10mで一区切りとした
下部はスタンスが少ないので慎重に
灌木に手が届けば、強引に身体を上げられる
ここから右に移動し、少し安定した場所で最初の荷揚げ
そこからは左上気味に草と岩のミックスを行く
草付は土が外傾して堆積、さらに締まっているのでキックステップが切りずらい
バイルと念のため装着していたチェーンスパイクが活躍
やや被った上部岩場基部の灌木でビレイ、荷揚げ
ここからバンドを落ち口にトラバースして滝上
これにて大滝は終了、一息つく
大滝上からは大岩の間を越え、すぐにゴルジュ状
続く第二ゴルジュも含めて左から巻く
一旦河原になり右からの流れを合わせる
このころから風が強まり、雨が落ちてきた
雨具を着込んで先を急ぐ
いくつか滝を越えると、6m滝が左から落ちる
ここは少し本流を遡ってからの巻きで、この支流へと入る
狭いルンゼ状を行くと5m滝、ここは念のため空身で登り荷揚げする
滝上から窪状を詰めていくと開放的なスラブが見える
青岩(青い岩盤)だ
-青の別天地-
その昔、残雪を利してここに立った時はあったが、これほど広大な岩盤とは思い至らなかった
藪尾根に囲まれた中にあって唯一といっていい開放的な癒しの空間
異空間の佇まいであった
雨はあがったものの未だ風は強い
藪を風よけに小休止し、早々大川支流の東又沢へと下降した
東又沢は3度ほど懸垂下降を要したが、それ以外は特筆することなく下降には適していた
但し、下部では流木の堆積が膨大でまるで迷路のようだった
流木ゾーンを越えると穏やかな流れに岩魚が走る
左にぶなの森を見るようになると大ブナ沢との出合も近い
しかし、大ブナ沢に水流はなく涸沢と化していた
予想外の事態であったが、5分ほど歩くと水流は復活し安堵する
ここからは右に左に幕場を探しながら行く
深懐のぶなの森は木木が連なり沢を覆う
-深懐の森と夜-
二又ぶなの袂に居住まいを定めて宵の支度に入る
今夜だけ、この森の仲間に入れてもらう
騒めく、ぶなの木々
流れは瑞々しい音を奏で、焚火のゆらぎが空間を支配する
深懐の森の一夜はそうして更けていった
2023/9/9
朝陽の眩しい渓を行く
空は高く、秋を予感させる
晴やかな朝だった
穏やかなゴーロを行くと両岸が迫る
この20mの滝は右から、空身と荷揚げで通過する
その上の3mは右から巻く
大岩脇の8m多段滝は右岸から小さく巻き、6m柱状節理を越えて右に932コルへ詰める支沢を分け、左に水量の多い支沢を分ける
そして現れる10m滝
この時点で標高は770m
1096mピークまでは約320mの高低差だった
-葛藤と我慢-
ここで一考
10m滝はいかにも悪そうなので、右岸尾根から巻きの一択
まずは支尾根に上がりその先を偵察しようと考え、尾根に取り付く
藪はそれほど濃くなくチェーンスパイクの威力を存分に味わい快適に上がる
そしてその先、谷筋には幾筋ものスラブが山肌を走る
大きな滝が見えたわけではないし、森に入ればなんとかなるだろうとは思った
一方、すでに支尾根に上がっている自分
そしてこれから川床に下り戻ってから谷を登り直す労力
完結性より安全性を採用し、尾根を詰めることにした
今となっては「あの時、自分は妥協したのだ」という思いもある
しかしながら、後悔はない
とはいえ、そこから駒形山の北1096m峰までの道のりはヤブが次第に濃くなり苦労する
我慢の3時間半となった
1096峰からは安堵をもって取り組める
遠く、青岩が見える
あそこから歩いてきたと思えば感慨深い
西の沢下降は駒形山へと向かう途中の鞍部手前から谷筋に下る
しばらくは、ぶな林の窪を下る
いくつか窪を合わせるとナメ滝が続く
明るく気持ちのいい景観である反面、足元は非常に滑る
藪がある所は藪を手掛かりに下る
懸垂下降は4か所(計6回)
50m1本だったので、上流部の二つの大滝は2ピッチに分けた
540mあたりの河原に幕場を求めて本日の行動は終了
今日はヤブコギと足元の悪い下降でくたびれた
辺りに薪がゴロゴロしていたが、今日の焚火はなしとして早々に横になる
見上げれば、月が微笑んでいた
2023/9/10
今日は下山日
青空に口元も緩む
本音で言えば、下山したら何を食べようかなどという邪な想いもあったことを告白しておく
西の沢も中流部以降は穏やかになる
順調に下降を続け、室谷川に至る
出合の8m滝は左岸側の立ち木を使って懸垂下降
さて、ここからはこの沢旅のエピローグ
室谷川だ
-静淵の時-
スラブを穿がつ流れを泳ぎ下る
自然の妙なる造形に見惚れる
はぁぁぁ、ほぉぉぉ、とか言葉にならない感嘆詞が思わず口をつく
そして、日差しに揺らぎ輝く水面
流れに浸かりながら静かにゆっくりと進む
透き通った流れを手ですくって口にすれば、わずかに甘い
ザックを浮袋にラッコ泳ぎで空を見上げる
静かな時の流れに、これはもう最高の終わり方ではないか
もう、これで満足してもいいのではなかろうか
「山の納め方」を考える歳になって、そう思うこともある
人の行路は山谷にも近し
山谷を繋ぎ、巡るもう一つの理由
旅は死ぬまで終わらない
歩くのさ、この足で
sak
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