エリクソンの小部屋

エリクソンの著作の私訳を載せたいと思います。また、心理学やカウンセリングをベースに、社会や世相なども話題にします。

精神分析と受苦的態度

2013-10-15 03:03:59 | エリクソンの発達臨床心理

 

 精神分析の使命が、無意識裏に否定的感情がまとわりついている過去の囚われから、能動化意識化(「あっ、そういう意味があるのか」と気付くこと)することで、1人の人を解放し、将来の見通しを持てるように支援することだということが、エリクソンによって示されました。それは、別の言い方をすれば、自分を時間・空間・人間に位置づけ、どういう方向で生きていくことを願っているのか、をハッキリさせて、自分を確かにすることを手助けする、ということです。

 

 

 

 

精神分析は、エロース、すなわち、受苦的態度が、親しい関係、分かち合い、仕事、礼拝、そして、気付きに、真の意味での遊び(陽気で楽しい雰囲気)をかなり吹き込むことになる、と深く信じる基盤に立たなければ、このようにやりがいのある仕事はできなかったでしょう。その意味では、プラトンが、飛び跳ねることが、陽気で楽しい雰囲気に満ちた状況 のモデルであると教えてくれていることに戻ってみましょう。そして、全ての皆さんと一緒に私も大きく飛び跳ねることを、しっかり着地する(この本を終える)ことと合わせて、お許し頂けたらと思います。

 

 

 

 

 

 

 精神分析、ないしは、その流れにある(エリクソンの)心理療法は、非常に能動的であると同時に、非常に受動的です。臨床につきものの二律背反がここにもあります。それは、精神分析が、能動的に、受動的であることを選択するからです。エリクソンはこれを、エロース、すなわち、受苦的態度と明確に述べています。クライアントは、過去に受身で体験し、否定的情動が鬱積した過去に、今現在苦しんでいるのです。それは既に述べられている通り、能動化、意識化することによって、解放されるものなのです。

 この作業を一人でやる人もまれにあるでしょう。しかし、多くの場合、誰か相手がいて初めて出来ることなのです。その一つが心理療法でしょう。このとき、セラピストが、能動的に受動的であることを選択するからこそ、すなわち、受苦的態度を取るからこそ、クライアントは、能動的に、過去の受動的体験を受け止め直すことができるのです

 この受動的態度を、セラピストが選択し続けるためには、そのパッション(passion)、情熱を支える信頼が必要です。

 これで、『おもちゃと英知 Toys and Reasons』の全訳が完了です。

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