新・本と映像の森 246 恩田陸『光の帝国 ー 常野(とこの)物語 ー』集英社文庫
2000年~2018年第18刷、283ページ、定価本体495円、原書1997年集英社。
都会のなかで目立つこと無く、ひっそりとくらす人々。彼らは東北のある場所「常野(とこの)」から来た。
彼らは自然のなかに生き、不思議な能力をもっている。
たとえば日本古典たクラシックの楽譜をすべて『しまえる』男の子。人間界の異質な悪い存在を『裏返せる』母娘。人間の将来を見通す力をもつ娘。
都会で人間に生える「草」を取る男は言う。
「毎日を大事に暮らすことさね。しっかり目を開けて、耳も掃除して、目の前の隅っこで起きていることを見逃さないことだね。そううすれば、あんたの背中には草は生えない。草の生えない人間が、世界に生えた草を取ってくれる」(p188)
大きな引き出し
二つの茶碗
達磨山への道
オセロ・ゲーム
手紙
光の帝国
歴史の時間
草取り
黒い塔
国道を降りて・・・
いちばん気に入ってるのが、連作短編集のおわり「国道を降りて・・・」。「常野」一族が集まる集いに招かれた若いカップル。チェリストの律とフルーティストの美咲。
どっかで美咲に会った感じがすると思ったら、なんだ、栄伝亜矢じゃないか。音楽にたいする姿勢、人間にたいする姿勢がそっくりだ。ここを読んで『蜜蜂と遠雷』にまったく違和感なく接続できる。
イメージとしては宮沢賢治さんの「ポラーノの広場」、もちろん空想上の方。
「常野物語」は集英社文庫で、まだ2冊ある。『蒲公英草紙』『エンド・ゲーム』。川添律さんと田村美咲さんに、また会えるかな?