雨宮智彦のブログ 2 宇宙・人間・古代・日記 

浜松市の1市民として、宇宙・古代・哲学から人間までを調べ考えるブログです。2020年10月より第Ⅱ期を始めました。

本と映像の森(第3) 16 伊藤悠『シュトヘル悪霊』小学館、全14巻

2021年03月17日 13時43分36秒 | 本と映像の森
本と映像の森(第3) 16 伊藤悠『シュトヘル悪霊』小学館、全14巻


 歴史マンガの傑作です。始まりは現代日本。主人公は男子高校生須藤。前に3巻までを紹介した「本と映像の森 259」(2013年7月執筆)をコピーします。


 で、このとき書かなかったことを、そのあとで書くことにします。


「2013年07月30日 23時07分34秒 | 本と映像の森
本と映像の森 259 伊藤悠『シュトヘル』《週刊「ビッグコミックスピリッツ」連載》、小学館、2009年4月初版、210ページ、定価本体590円


 やっぱりコミックはいいですね。文字だけの小説や文学とは「情報量」が格段に多いです。もちろん、映画やアニメと同じで「情報量」がでかいのも善し悪しですけど。


 最初は、現代日本の男子高校生が「見た」、中世の戦場の夢から始まります。夜、カラオケへ集まる友達たち、遅れてくる主人公の「須藤」。


 「須藤君 学校 なんで 来ないの?」
 「なんか すげえ リアルな夢 見るの オレ
  家 燃え放題 人 死に放題で…起きらんねえの」


 そこに居た見知らぬ女子。


 「誰?」
 「先週転校してきたスズキさん。須藤くんの写メール見て急に来るって…」


 そのスズキさんをなぜか「お持ち帰り」するはめになった須藤。


 楽器製作所の自宅(両親は楽器が売れなくて蒸発中)で、最近、自分が作ってしまったおかしな形の楽器をスズキさんが見て「おねがい 楽器 さわらせて」と言う。


 その弦も張っていない楽器から音が聞こえて…


 時空を転換して、雨の降りしきるなか、彼は、なんと若い全裸の女性と化して、縄で首くくられた状態から地上に落ちて息を吹き返す。


 目の前に、女子高生のスズキさんと同じ顔の少年がおかしな服を着て立っていて、
 「また きみに会えて うれしい! おかえり シュトヘル」と言う。
 
 周りの「悪霊がよみがえったぞ!」「殺しなおせ」という兵士たちを殺して、2人は隠れ家に逃げ延びます。


 そこで女子高生スズキさんに似た少年「ユルール」が語る長い物語が始まります。
 
 物語の主人公として、まず、勃興するモンゴル族の下で働くツォグ族の族長の子で長男のハラバルとその弟、ュルールが登場します。


 ハラバルは体格もよく武力にたけ、「西夏国」を攻めるモンゴル族の将軍の下で武功をたてます。


 ところが弟の10才のュルールは武力には興味なく、文字や音楽が大好きです。2人の母は「西夏国からツォグ族の族長に嫁したけど、モンゴルに反抗した罪で母はモンゴルの大ハンに奪われ帰って来てュルールを生んだ、つまりュルールの本当の父はモンゴルの大ハンということになります。





 そして、もう1人の主人公が、西夏国の城壁都市「霊州」防衛戦で戦った、あまり強くない女兵士「スズメ」です。彼女は、戦友たちがモンゴル=ツォグに全員、残虐に殺される中、偶然、生き延びてしまい、壁に戦友たちが死体として血とともに「展示」されたところに,狼たちが来るところに遭遇してしまいます。


 彼女は,戦友たちの肉体が狼たちに食われないように、必死でたたかい、狼たちの族長との必死の戦闘で、自分を変身させます。


 「悪霊 シュトヘル」として。
 



 武力で国と仲閒を滅ぼされ敵を殺して復讐しようとする、西夏国の女、シュトヘル(悪霊)と、文章と音楽で自分たちの生きたことを伝えようとする少年、ユルール,


 どう考えても、気のあうはずもない、合意できるはずもない2人の、めぐりあい、からみあいがテーマの物語です。


 そして、「なぜ、モンゴルの大ハンは、西夏国の文字まですべて滅ぼそうとするのか?」





 13世紀初頭の中国大陸、モンゴル、金国(北宗を滅ぼした)、南宗、西夏などの国と民族と個人が織りなす、生と死の物語です!


 …たぶん、この項目、続きます。文字が好きな(ぼくと同じ「活字中毒」の)ユルールの思いを、次回,語りたいと思います。


 友人から借りた物語ですが、現代日本の高校生「須藤君」は、なかなか登場しないようです。第3巻で出てくるようですので、そこまで行ったら紹介します。」


 このとき書かなかったことのいくつか。

 まずユルールの文字とそれが意味する自分たちが生きていたことへの思い。


 シュトヘルは文字を教えた西夏族の生き残りの長ガジに言う。


 「生きて全部
  覚えておけ、ガジ。」
 「その手段を
  お前は持った。」
 「息の根が止まっても
  生きてもらうぞ、ガジ。」
 「お前らが生きていることに
  わたしとあの人の
  生きて死ぬ意味が全部ある」


 そして、シュトヘル(魂は男の子スドー)がユルールに言う。


 シュトヘル「続きを書いてもいいか。」
 ユルール「続き?」
 シュトヘル「わたしがお前の
       ことを書く。
       わたしがお前に
       出会ったことも書く。」
 ユルール「そこで、何度でも
       出会うんだね。」
 シュトヘル「そこで、俺たちは
       ずっと一緒だ。」
( 『第14巻』p19~20 )


 こういう文句を読んでしまうと泣けてくる。まるでスドーはボクみたいだ。


 14巻全部はとても紹介しきれない。別のときにやれたら他の魅力的な人たちも紹介したい。


 大ハン・テムジンや西から来た白人女性ヴェロニカ・・・・・・。




 2番目に現代とのタイムトラベル的つながり。西夏女シュトヘルが現代の高校生須藤で、現代の女子高生鈴木さんが西夏の少年ユルールなのだが、いわばトランスセクシャルな設定なのに、物語自体にはそういう雰囲気が不思議に何も無い。


 ユルールもシュトヘル(スドー)の男女性別など気にしていない。それでいいのだと思う。それを気にしすぎるのは呪縛だという感じがする。


 物語のひとまずの終わり、現代で、たぶん須藤の述懐モノローグ。


 「記された文字は
それだけでは語らない。

人がふれて
そこにー

出来事と心が
生き返る。何度でも

だから人をー


  いつも静かに
  文字は待っている」







 なお巻末の「居酒屋あの世フォーエバー」はとてもいい。傑作ギャグだと思う。


 一色登希彦/マンガ:小松左京/原作『日本沈没 15』の居酒屋「雑種天国」での出演者打ち上げ飲み会シーンのようなノリで、ボクは共感する。