新・本と映像の森 329 木村紅美『あの子が石になるまえに』2020年新聞連載
たぶん3月くらいから、日刊『しんぶん赤旗』で連載中の小説です。5月5日現在で59回ですけど、沖縄を舞台にする若い男子大学生を主人公にする小説です。
主人公の麦は中学生のころ、東日本大震災で八重山の親戚のところへ疎開した苦しい経験があります。
小説は現在の麦と9年前の過去の麦の記憶をいったりきたりしますが、麦は島の人に「セジが高い」と言われます。麦には何のことかわからないのですが「霊力」のことのようです。
ようするに「シャーマン」「巫女」の力です。宮沢賢治さんも「鳥シャーマン」と
言われますが、「恐山のイタコ」もそうですね。
シャーマン=巫女は媒介に小動物を使うようです。いまNHKテレビでやっている『未来少年コナン』のヒロイン・ラナは鳥=コアジサシを使うし、ナウシカはキツネリスのテトといつもいっしょにいますね。
宿舎に泊まっている麦のまえに、放し飼いのクジャクたちが現れます。麦はクジャクに導かれて「野底マーペー」の世界へいくようです。
最初、「タイムスリップ」とあったので、ボクはてっきり「沖縄戦」、1945年に麦がいくのかと思っていました。残酷な小説はちょっといやだなとも。
そうではなくて八重山の悲しい歴史へ麦が跳ぶんだとわかってちょっとホッとしました。18世紀、石垣島です。
いまは「第59回」=「第15章 夜の島 (5)」です。一つひとつの章がとても短くて場面転換が早い。ボクの感性にはぴったりくる小説です。
麦はいま、同年代の少女と少年を「見て」います。このあと、麦がどういう航路をたどるのか、少女と麦は会うのか。現代で麦が会った少女は誰なのか。
推理小説のようにこれからの進展と謎解きが楽しみな小説です。