別の記事ですが、こちらも紹介します。
もしも大切な人が、医療事故に遭ってしまったら?患者・家族と医療をつなぐNPO法人「架け橋」が始動
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20120704-00000302-wedge-soci
WEDGE 7月4日(水)18時29分配信
あなたや大切な人が、もしも医療事故に遭ってしまったら? 事故とまでいかなくても、病院の対応などについてなんとなく釈然としなかったり、疑問に感じたりすることがあるかもしれない。そんな時、真摯に向き合ってくれる人が病院内にいてくれたなら、どんなにか心強いだろう。
いきなり医療事故などというと、遠い世界のことのように感じられるかもしれないが、実はこれが意外と多い。「医療事故の全国的発生頻度に関する研究」報告書(厚生労働科学研究 平成18年3月)によると、有害事象の発生の比率 は6.8%(入院患者)。
特定機能病院を含む18病院を対象に行われた研究であり、この場合の有害事象とは、次のとおりである。
有害事象の定義(※)
(1)患者への意図せぬ傷害(injury)や合併症(complication)で、
(2)一時的または恒久的な障害(disability)を生じ、
(3)疾病の経過でなく、医療との因果関係(causation)が認められるもの
※)厚生労働科学研究 医療事故の全国的発生頻度に関する研究報告書
~平成17 年度 総括研究報告書(H18 年3 月) 主任研究者 堺 秀人~より
「医療の良心を守る市民の会」(永井裕之代表)が、日本における年間退院患者数の統計をもとにおこなった試算によると、医療における有害事象での年間死亡者数は約4万人。厳密には有害事象のすべてが事故と呼ばれるわけではない。そして現在、日本における医療事故の件数を全国的に網羅したデータはないため、あくまでも目安であるが、交通事故による年間死亡者数よりも多いとなると、いつ遭遇してもおかしくないことが想像できるだろう。
その数を減らすための努力は行われているのだろうか。
小さな声からはじまった、あるひとつの取り組みをご紹介したい。
医療事故で息子を失った一人の女性が、仲間たちと一緒にスタートさせた活動が今年、また新たな一歩を踏み出した。
■なぜ死んでしまったの?
「お腹が痛い」と、少し前まで泣き叫んでいた息子の理貴くんを連れて、豊田郁子さんは東京都内のある病院の夜間救急外来に駆け込んだ。2003年3月のことだ。しかし、24時間小児救急体制を敷いたその病院で、医療事故により理貴くんは不幸にも還らぬ人となってしまった。
豊田さんは理貴くんが亡くなった直後のことをこう振り返る。「どうして息子が死ななければならなかったのか、知りたい一心でした」。しかしその時なぜか病院は、そんな家族の願いとは真逆の対応をとっていた。
「今思うと一番驚いたのは、息子が亡くなった直後から病院の人たちの態度というか、雰囲気が突然変わったことなんです」。それまではごく普通に接してくれていた看護師も、メモを取りながらの事務的なやりとりのみとなってしまった。
「看護師さんは明らかに上から指示されて、何かを記録するために私についているという感じでした」
■置き去りにされ二重、三重に傷つく家族
悲しみにうちひしがれた豊田さんに対し、その後も病院側の対応のまずさは続く。
入院後数時間で亡くなったため警察を呼んだのは病院側だったのに、理貴くんの死因に関して何の説明もないままに1カ月以上が過ぎた。カルテ開示を求めると応じたものの、豊田さんが最も不審に感じていた理貴くんへの診療対応の遅さについての認識は病院側にはなかったという。
一方で、新聞報道されたあと即座に行われた記者会見では、病院側は診療対応の遅さと診療体制のミスを認めていた。この時点で理貴くんの死から2カ月以上が経っていた。
しかも不思議なことに、会見は豊田さんたち家族に対してきちんと向き合ってミスを認めるよりも先に行われていた。事故調査委員会による報告書の説明も記者会見が先で、家族に説明があったのは会見から13日も経ってからのことだった。
しかし残念ながらこれは、特別にレベルが低い病院での、特に対応が悪かった事例というわけではない。人間が関わる限りミスは一定の割合で発生する。そして、医療事故に遭ってしまった人やその家族には、豊田さんと同じような経験をしている人が多い。もっとも説明を受けるべき立場にいながら、なぜか置き去りにされてしまうのだ。
大切な人を納得のいかない状況で亡くしたり、自らの健康を損なったりした医療事故の被害者の多くは、なぜそんなことになってしまったのか分からない苦しみを味わい、そのうえ病院側からの扱いにも傷つけられ、二重、三重の被害を受けたと感じていると、豊田さんは言う。
■病院が努力してくれている姿勢が見えていたら
現在豊田さんが理事長を務める、患者・家族と医療をつなぐNPO法人架け橋では、医療者と患者・家族の間の信頼関係を築くことを目的に、医療従事者へ、コミュニケーションや対話促進のためのサポートや啓発活動を行っている。今年4月にNPO法人となり、さらに活動を充実させている最中だ。
「重大な事故がおきてしまった時には、まず第三者に入ってほしいと感じるのではなくて、その場で一緒にいたスタッフから声をかけてもらいたいんです。でもその人たちもショックを受けてしまって、声をかけられないかもしれない」と、豊田さん。
また、こうも言う。「私たちの知らない間に事故調査委員会が立ち上がって病院の中で調査されていたのに、そのことを伝えてもらえませんでした。病院が努力してくれている姿勢が見えていたら、気持ちがずいぶん違っていたと思うんです」。
このような経験から架け橋ではまず、医療者側への啓発活動や患者相談を担当する人のための研修で、間接的に患者や医療事故被害者、その家族への支援を行うことからスタートしている。
■故清水陽一さんとの出会い
架け橋の活動のきっかけは、ある一つの出会いからだった。
2004年、悲しみのただ中にいた豊田さんに、「患者の視点で、医療安全に関わってもらえないだろうか」と持ちかけたのは、現在豊田さんが患者相談支援員として勤める新葛飾病院の前の院長、故清水陽一さんだ。
清水さんは、「うそをつかない医療」を病院の理念に掲げ、「逃げない、隠さない、ごまかさない」の三原則の実践に取り組んでいた。「人は弱いもの。自分も弱いから、いつ隠したり、ごまかしたりしてしまうか分からない。だから患者の立場で見張っていてくれる人が必要だ」と、ことあるごとに話していた院長だった。
豊田さんはそんな院長のもと、約1年をかけて患者支援室を立ち上げた。そしてここで、直接医師や看護師に相談できない患者さんからの相談や、ときには苦情にも対応する一方で、医療従事者からの患者さんへの対応に関する相談を受けるなど、患者と医療者の“架け橋”としての仕事を開始した。
■大事なのは、そこにいる当事者が対応すること
「最初の頃は、患者さんと何かトラブルがあると『相談室さんお願いね』、みたいに丸投げされることもありましたが、大事なのは、そこにいる当事者が対応することなんです。病院の人間は中立じゃないから第三者を入れてほしいというのは、話がこじれて敵対関係になってしまってからのこと」と、豊田さんは言う。
患者支援室には、職員たちも気軽に相談に訪れる。医事課からの相談に応える豊田さん(左)
患者支援室では患者さんや家族からの相談を直接受ける場合もあるが、病院のスタッフがしっかり患者さんに向き合えるようにするサポートを大切にしている。つまり対話の場をつくることだ。
対話の場が用意されることで、患者さんや家族は安心できる。豊田さん自身、そのような場すら用意されなかった辛い経験をしているからこその視点だ。
また、医療者側の当事者も、実はきちんと向き合いたいと思いながらできずにいると、大きなトラウマとなってしまうことがあるのだという。向き合える場をつくることは、双方にとってプラスとなるのだ。
患者支援室が立ち上がって7年。今では、職員が自分たちでできる限り対応をし、対応しきれないところをチームでサポートしあうという体制ができている。
最初はこのような仕事が病院内で成り立つのかと心配もしたが、杞憂におわった。「スタッフが、自分がダメージを受けてしまって患者さんのサポートが難しいときに、一緒に入ってくれてありがとうと言うんです。やってみて初めて分かったことでした」。
■患者を支援する人を支援する
患者支援室を立ち上げた翌年、ここで患者や患者家族と向き合うことの大切さなどをテーマにした職員向けの研修会も始まっていた。
その取り組みをもっと院外に向けて行おうと、今の架け橋の前身「架け橋~患者・家族との信頼関係をつなぐ対話研究会」が立ち上がったのは2008年のこと。全国3都市で、医療事故被害者や医師、法律家などを講師とした患者支援相談員養成講座を行うなどの活動も始まった。
そして今年4月、「患者・家族と医療をつなぐNPO法人 架け橋」が設立された。メンバーは、医療事故の被害にあった家族、医療者側で事故を起こしてしまった当事者、医師、法律家、医療コミュニケーションの研究者など。
これまでの研修をさらに充実させていくこと(普及活動)と、患者相談窓口などで患者の相談を受ける立場の人へのサポート、そして患者・家族と医療従事者のよりよい関係やコミュニケーションなどに関する研究を3本柱で行っていく予定だ。
■正直に言ったら訴訟が増えるのでは!?
そんなきれいごとを言ったって、医療ミスやインシデントを起こした当事者が正直に話したりしたら、訴訟が増えてどうしようもなくなるのでは? という心配も頭をかすめる。ところがそうではない。架け橋副理事のひとりで、自らも医療事故で母親を亡くしている川田綾子さんは、「なぜそのようなことになったのかが分かった方は、訴訟を起こすまでいかないという傾向があることが、最近の調査では分かってきています」と言う。
また社会保険相模野病院では、ミスやインシデントをきちんと報告し、患者側にも隠さず話すという取り組みを行ってきているが、この方針にしてからの方が職員も増え、逼迫していた財政も黒字に転換し、経営は順調なのだそうだ。
もちろん、隠さず話すということが経営に直結しているとは一概には言えないが、少なくとも良い方向へと変化する要因の一つといえるだろう。
院長の内野直樹さんは、職員の意識が変わり、職員アンケートではこの方針を続けた方がいいという回答が100%であったと、今年5月に行われたNPO法人架け橋の設立シンポジウムで報告している。
■息子の死を無駄にしない
豊田さんはいま、病院での患者支援員としての仕事、架け橋の理事長としての仕事に加え、さらに患者団体のサポートも行うなど、さまざまな活動に日々とびまわっている。その原動力は、やはり9年前の医療事故から来る部分が大きい。「私たちの活動が、医療者間、医療者と患者のコミュニケーションが充実するきっかけになれば、息子の死を無駄にしないことになるのではないかと思っています」。
「架け橋」のホームページ
http://www.kakehashi-npo.com/
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いきなり医療事故などというと、遠い世界のことのように感じられるかもしれないが、実はこれが意外と多い。「医療事故の全国的発生頻度に関する研究」報告書(厚生労働科学研究 平成18年3月)によると、有害事象の発生の比率 は6.8%(入院患者)。
こう書かれていますが、有害事象と医療事故は違います。有害事象と医療事故を一緒にするような中途半端な記事を書いているのがどうかと思うのですが・・・。有害事象は薬であれば薬物との因果関係がはっきりしないものを含め、薬物を投与された患者に生じたあらゆる好ましくない, あるいは意図しない徴候,症状,または病気をいいます。有害反応(adverse reaction)は、病気の予防、診断、治療に通常用いられる用量で起こる好ましくない反応であり薬物との因果関係があるものを指します。要するに医療を受けているうえで生じたあらゆる好ましくないものは想定の範囲であっても「有害事象」と言います。
僕たちのような抗癌剤治療医は「有害事象」は常に起きていることになります。
そういった記者さんの不勉強なところは気になりましたが、豊田さんの話はその通りだと思いました。
いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。