歯痛には次の3種類がある。
①原発性歯痛:歯牙、歯周囲組織に器質的変化があるもの。最も多い。通称は虫歯。
②続発性歯痛:全身性疾患(白血病、敗血症、梅毒、糖尿病)の一部分症状。
③放散性歯痛:歯牙および歯周囲組織に隣接する器官の疾患により、歯にも原因があるように感じられる疼痛。眼、耳、鼻の疾患に由来することが多い。
針灸治療は、虫歯(齲歯)由来であれば、神経興奮そのものなので、あまり効果が期待できない。続発性歯痛であれば原疾患の治療を優先させる。しかしながら放散性歯痛のように、歯周囲組織に痛みの原因があれば、効果が期待できる。そしてこのタイプの痛みは歯科が苦手としている歯肉の充血も針灸の適応である。
1.客主人移動穴刺針(柳谷素霊著「秘法一本針伝書」)
①体位:痛む歯を上にした側臥位。口を閉めさせておく。響いたら、口を閉じたまま「ウーッ」と発声させるように指示しておく。
②取穴:耳前頬骨弓の上縁を指で触診しつつ前方へ指を移動する。側頭動脈と頬骨弓との分かれ目より1.5寸で、一筋越せば指頭に陥没の部を触れるところ。
③刺針:寸3の#2にて、針を頬骨弓をくぐらせるようにし、針柄をほとんど皮膚に接触させるくらいにして、徐々に刺入、1~2寸刺して痛む歯に針の響きが得たら、針を揺り動かす。「ウーッ」と患者が言えば抜針。抜針後はただちに指頭で刺針部位を圧迫(青あざを予防)。もし出血斑ができたら、マグレインを貼ると退色が早くなる。
※近年、東洋療法学校協会編「経穴経絡学」では、客主人穴のことを上関穴と改称した。それなりに根拠はあるだろうが、客主人のニュアンスが失われたことが残念である。客主人の意味は、<頬骨を隔てて主人である下関穴と対照的な処で、主人と同じ重要な賓客>といった意味になる。本稿では上関ではなく客主人と称することにした。ちなみに客主人の主治は、上奥歯痛くらいなのに対し、下関の主治は上奥歯痛・顎関節症Ⅰ型とⅢ型、顔面麻痺などが思いつく。使用頻度としては下関の方がはるかに高く、下関はやはり”主人”の価値があるといえる。
2.客主人移動穴刺針の治効理由
1)上顎神経刺激
上述の素霊一本針を行うと、針先は頬骨弓の深部で、上顎神経を刺激できるようだ。素霊の一本針では、水平刺しているようだが、上顎神経に近づけるためには針先は鼻尖に向けて斜刺した方がよい。上顎神経は、前歯槽神経や後歯槽神経に分岐するから、上歯痛(奥歯でも前歯でも)効きそうだ。ただし虫歯には効かず、放散性歯痛に対する効果だろう。この場合の放散性歯痛とは、第一に側頭筋の過緊張があげられる。
2)側頭筋刺激
上記刺針で、刺入点直下にあるのは側頭筋であり、針先に当たるのも側頭筋である。側頭筋の深部には側頭頭頂筋(顔面神経支配)があるが、今日では退化していて役割を失っている。側頭筋の運動針は、側頭筋中に刺針した状態で、力を入れて咬む動作をさせることである。ちなみに側頭頭頂筋は表情筋に分類され、ウサギなどの動物が外敵を察知しようと耳介を動かす意味がある。
側頭筋にトリガーが発生すると。上歯痛が生ずることがあることがトラベルらにより確かめられている。上前歯となるか上奥歯となるかは、側頭筋トリガーの位置により異なる。
下歯痛の針灸治療ブログ
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