◆左ゾウリ、右ワラジ
◆写真 3
◆写真 4
◆写真 5
民具のかご・作品としてのかご(25)
『ゾウリとワラジ』 高宮紀子
民具のかご・作品としてのかご(25)
『ゾウリとワラジ』 高宮紀子
このシリーズ22号にもゾウリのことを書きましたが、今回はゾウリとワラジについて書いてみます。
テレビの時代劇を見ていると、その当時に使われたであろう、履物や笠などの被り物、蓑などが必ず出てきます。藁細工の先生から、“そういう時はドラマの話よりもそっちの方が気になります”、と言われ、いつしか私も気になるようになりました。そう言われてみると、いろいろな編み組み品が出てきます。例えば、ゾウリとワラジ。履物ですから、昔も必需品、大きくは映りませんが必ず出てきます。
時代劇では間違いないと思いますが、よくゾウリのことをワラジと呼んでいるのを聞いたことがあります。似たような形をしているためと、ワラジという言葉の方が古そうだからなのか理由はわかりませんが、時々聞きます。ゾウリは、鼻緒がついている、つっかけ式のもので足指の間に緒をはさんで、ぺたんぺたんと音をさせて歩きます。これに対し、ワラジは足の裏にぴったり着けて履くタイプのものです。全体の作り方も少し違います。
先日、人から聞いて、箱根町立郷土資料館にワラジ展を見に行きました。箱根は難所、昔の旅人はその山を越す前に、気分を引き締めて一泊して休み、あくる朝にはワラジも新しくしたそうです。資料館には珍しいワラジコレクションの展示もあり、また実際にワラジを作ってみるという企画も用意されていて、楽しむことができました。参加はできませんでしたが、後日、箱根をゾウリで歩くという体験ツアーも行われました。
ここでゾウリとワラジの構造について説明します。ゾウリもワラジも芯縄(ゾウリの中を取っている縦の縄)を足の指や台にかけて、本体を編みます。違う所がいくつかあるのですが、まず大きいのは芯縄のこと。ゾウリの場合は必ず2本の縄を交差させて編みますが、ワラジの場合は交差しません。芯縄を交差させないで編んでいき、最後に芯縄をそのまま全部ひっぱらないで、何か工夫をします。
例えば返しと呼ばれる大きなループ。(上のワラジの写真の下の部分)これは芯縄を長く残して、からめたり、根元をとめたりして、二つの大きなループとして残し、足首に固定する紐を通します。その他、足の裏にぴったり着けるために、本体と足を結ぶ紐を固定する乳という小さなループをいくつか付ける、といった工夫があります。普通、2つとか、4つなのですが、多いもので8つの乳があるもの、また逆に乳が無く、紐を編み込んでいくタイプもあります。中国や韓国にも同じような形のワラジがあり、やはり最後に残った芯縄を残し、ループとして伸ばしたり、全体を編み込んだりしています。
ワラジとゾウリの違いは芯縄だけでなく、緒を付ける位置も違います。ワラジの場合はただ編地から出た芯縄を交差させて指の間にひっかけるので、足の指先は地面についています。現在では指が土につく履物なんて考えられませんが、昔はそれで歩きました。ゾウリの場合は緒の位置はぐんと内側にきますから、足は地面にはつきません。それでも歩くと土だらけになりますが。
ゾウリやワラジには、それぞれいろいろなバリエーションがたくさんあります。地域ごとに生活も異なるので、その必要性からいろいろな形が生まれました。雪の上で履くものや、儀礼、そして神事や修行に使うもの、それぞれ面白いものが多くみられます。
この写真(写真3)は日常生活用のゾウリの一つ、こんこんぞうりと呼ばれるスリッパ型のゾウリです。これは芯縄を交差させて編むゾウリの基本構造と同じですが、違いは甲の所です。
以前、友人からこんこんぞうりの作り方を習いました。藁製ですが、芯縄をポリ紐で、布を細く切って藁の束に巻きつけたもので編みます。教えてくれた人はわざわざ群馬県の六合村(くにむら)という所に行ってこんこんぞうりを習ってきました。村には教える人がいて作り方を指導してくれるそうです。藁だけを使って作るよりは、カラフルな布が使えるので、今日風なおしゃれな履物になり、遠くからも習いに来ていたそうです。
ゾウリと違うのは、甲の組みの部分を作るため、つま先を編む時に1束ずつ1往復だけ編み、後はそれぞれの藁の先を編まずに残しておきます。それらが何束かたまったら、甲の部分を組んでしまいます。つまり先っぽの足先を入れる部分を先に作り、足が乗る部分の残りを編みます。
(写真4)このスリッパ型のゾウリは東北の方でも見ることができ、ゲンベイゾウリという名前が付けられて藁だけで作られています。後日、このゾウリを習う機会がありました。
これは私が作ったゲンベイゾウリです。こんこんぞうりと同じ作り方ですが、布を巻いていませんので、ちょっと足を入れる具合がよろしくない。でも慣れれば足裏指圧のようです。
藁だけで作ると素朴で気に入りましたが、地元の人は便所ぞうり、なんて呼んでいます。こんこんぞうりのように布で巻くと藁の先が見えなくきれいですし、編みも簡単ですが、藁だけで編むと藁の束がばらばらになってとてもたいへんでした。(写真5)
以前、自分のホームページでこんこんぞうりのことを書いたら、ある方から山形のゾウリを送ってもらいました。このゾウリもスリッパ型ですので、作り方はゲンペイゾウリと少し似ています。でも甲のところが違います。組の部分は少ないのですが、中央をきれいに編んでまとめています。これもスリッパの形ですが、なんと洗練された形だと思いました。
ゾウリとワラジも芯縄を台や自分の足指にかけて編んでいる所を見ると、まるで織物のようにも見えます。芯縄をひっぱれるあたり、テンションをかけて編む織物と同じです。ただし形を広げたり、縮めたりしながら編めるので少し自由がききます。そして違うのは、立体になることです。
今年、一株だけですが、庭でお米ができました。売っているものに比べたら、小さいし、実の入りが悪いのですが、まあ一応できました。それで取れた藁で注連縄を作りました。これだけのことなのですが、やってみるとすがすがしい気持ちでした。