◆高宮紀子 「無題」(イワシゲ・30×30×30cm・1997年)
◆2001年制作 (もちわら)
2002年1月20日発行のART&CRAFT FORUM 23号に掲載した記事を改めて下記します。
民具のかご・作品としてのかご⑨
「藁のかご」 高宮紀子
2002年1月20日発行のART&CRAFT FORUM 23号に掲載した記事を改めて下記します。
民具のかご・作品としてのかご⑨
「藁のかご」 高宮紀子
梅雨にさしかかる頃、大きなダンボールが3つ、家に送られてきました。新潟のYさんから送られたもので、中には重い餅米の実がついた藁がぎゅうぎゅうに詰まっていました。小さな玄関に積まれた箱を見て、その量に呆然とし、この藁を余すこと無く使えるだろうか、と思ったことを思い出します。ひとまず、お礼のメールを送りました。
そもそもYさんから、私のかごのホームページに、「大量の稲藁があるけれど、処分の期限がせまっている、誰かもらってくれないか」と連絡をくれたのが始まりでした。彼女が修了制作のために藁を取り寄せたのですが、実がついた藁が意外に重く、構造が耐えられない、とわかって断念したのです。その結果、残ってしまったのが今回の藁でした。それを引き取ることになりました。
とりあえず、何とかしなくてはと思い、藁細工をやっている柳田利中さんという人を紹介してもらい、技術を習いに行くようになりました。柳田さんの所では、細工用の藁がちゃんと準備されています。天日で干したものではなく、採った後、長い時間蒸した藁で、まだ緑色がたくさん残っています。この藁は送られてきた餅藁と違い、長さが1メートル以上はあるものです。餅藁の方が短いのですが、繊維は柔らかいということでした。
右はオヒツ入れです。編み方を習い、Yさんの餅藁で作ってみました。なるほど、餅藁は柔らかく、繊維が細いと思いましたが、それでもこれほどの大きさのかごを作ると(直径35cmぐらい)指が痛くなりました。なかなか、蓋の大きさを合わせるのができず、幾度か編み直しましたので、できた時は、指の痛みも忘れて感激しました。
藁にはひじょうに柔軟で丈夫な繊維があり、縄をなったり、編んだりすることに向いています。さまざまな物の素材として使われ、その技術も広がりがあります。稈は木槌で叩くと、ひじょうに柔らかくなりますし、そのまま使うことも可能です。身につける物、かご、道具類、敷物など、いろいろな用途の様々な組織構造の形を作ることができます。マブシ(蚕がまゆを作るように小さなしきりがいっぱいついた道具)など、知らなければ、造形作品かと思うほど面白いものもあります。
私にとって、草類の葉や茎、繊維などは続けて使ってみたい、と思うような素材です。そのままでは弱いものでも、よることで縄になり、そのままでも編むことができて、大きな物も作ることができる、その可能性が、自分に合っていると思うからです。なので、藁にはもともと感心を持っていました。しかし、これまで習ったり自分で作ったりはしていたものの、藁細工について固定的なイメージというか、ああ、やっぱり藁だな、という感じを持っていました。ところが、最近は藁という素材に対するイメージが徐々に変わってきて、美しいと思うようになりました。これは、実際にきれいな素材を使ったからかもしれませんが、藁を使っていろいろな使い方、編み方をすることで、藁という素材に対する見方が開けてきたのではないかと思っています。
ただ、新しい造形的な関係へと発展させるのは、また遠い課題です。何も知らない方が、いろいろなことができたかもしれません。民具を作ると、素材と民具との関係の方がきれいに見えて、おいそれと造形的な新しい関係を確立することはむつかしくなるような気がします。この原稿を書くまでに、藁を使った造形的な作品を目指したのですが、ついに時間切れになりました。
この作品は、イワシバと呼ばれる草の葉で作ったものです。中は空洞で、草を重ねた層だけで、できています。草をただ重ねただけではさすがに固定しないので、時々、結んだり、層を草で縫うように進むことで、草どうしがつながっています。イワシバは民具にも使われる材料と聞きましたが、縄をなうのには固く、手が切れるエッジにも油断できませんでした。それで、葉をそのまま使うことにしたというわけです。葉は巾が1cm足らずの長さが1メートルぐらいの平たいもので、細いテープ状の素材です。節もあり、固さも形状も違う藁にはどんな可能性があるのでしょうか。
最近、友人の家で韓国の藁製品を目にすることがありました。小さなかごでしたが、藁製でした。きれいな黄金色で、艶があり、太い稈のまま使ってあるのですが、柔らかそうです。日本の藁とはまた違った感じがしました。韓国の藁細工も面白いとの話ですので、当分の間、藁をめぐっての模索は続きそうです。