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編む植物図鑑 ⑦ 『ヤシ科』  高宮紀子

2017-10-19 09:37:45 | 高宮紀子
◆写真 5 ココヤシの帽子

◆写真 1

◆写真 2

◆写真 3

◆写真 4

◆写真 6

◆写真 7

◆写真 8

◆写真 9

◆写真 10

2008年4月10日発行のART&CRAFT FORUM 48号に掲載した記事を改めて下記します。

 編む植物図鑑 ⑦ 『ヤシ科』  高宮紀子

 ヤシ科の植物は編み組みに多く使われています。私が知っているだけのヤシ科の編み組み品を並べても全体から見ればほんの僅かであると思います。今回はその僅かな種類を紹介します。

 ◆ トウ:
 昔から使われてきたかごの素材にトウがあります。これもヤシ科の植物です。皆さんのお家の中にトウ製のかごや家具をお持ちの方がおられるかもしれません。トウで様々な生活道具が日本でも作られてきました。
 トウはつる性のヤシで、東南アジア、南アメリカ、アフリカの一部に分布していますが、素材としても輸出されています。その種類が多いこと。なんでも東南アジアだけでも600種があるとか。日本では残念ながら植物園の温室でしか生育しているのを見たことがありません。
 写真1はカンボジアからの絵ハガキ。Iさんから旅の思い出とともに送られてきました。この辺は竹類も豊富なので、周りに見えるかごは竹かごのようです。写真の真ん中にトウらしきものを抱えている人が見えます。トウはその太さにもいろいろな種類があるので、加工方法もいろいろでしょうが、写真のようなものですと、まず棘がついた外側の皮を取り乾燥させて材料にします。トウの素材としての特徴は水に浸けると柔らかくなること、柔軟性があること、そして長さです。植物としての長さも別格で100メートルを超えるものもあるとか。
 写真2は昔よく見かけた日本のお風呂屋さんの脱衣かご。池袋で今も作られているところを見せてもらいました。使用しているのはインドネシアから輸入された太いトウ。色や太さ、長さにばらつきがいろいろで、いいかごにするのには素材を選ぶことから始まるとか、編むのは体力勝負なたいへんな労働ですが、水気に強く丈夫なかごです。
 竹かごもそうですが、もともとトウ製品は職人さんの領域でした。その後、編むことが好きな人の需要も高まりました。浅草橋に小西貿易というトウの問屋さんがあります。小売りもしていて、店の中にはものすごくトウに詳しい店員さんがいます。ここで扱うトウは太いものから細いものまでいろいろですが、ベニトウという違う種類も扱っています。弾力性のあるトウで光沢のある皮がついています。

◆ シュロ:
 写真3.日本でもっとも身近なヤシ科の植物だとシュロがあげられるでしょう。昔からその繊維でシュロ縄、タワシ、箒、その他、かごや帽子、蓑が作られています。近畿地方だと和歌山のシュロ箒が有名で今でも愛好家が多いです。値段が高く高級品ですが、使った人によると掃除機よりいいとか。他に九州などにもたくさんの民具があります。
シュロの葉を編んで作られたのが蝿たたき。柄つきのまま、葉を少し編んで面を作って作りました。
 長くて丈夫な葉は子供達の虫かご作りなどに大活躍。今はバッタやコオロギを編む人の素材にもなっています。
 シュロの樹は以前から比べるとずいぶんと関東でも当たり前のように見かけるようになりました。これも温暖化のせいでしょう。シュロをよく使う人に聞くと、シュロの中にも葉が大きく広がっていて硬く葉先が折れていないものがあるとか。トウジュロ、ワジュロという種類の差か、と最初は思っていました。でも生えている場所によっても編みやすいものがあるらしいということがわかったのは最近。バスケタリーのクラスの生徒さんのMさんのは柔らかく編みやすい静岡産でした。

◆ クバ:
 沖縄、小笠原などにビロウというヤシがあります。別名クバといい、いろいろな生活道具が作られていました。写真4のように柄をつけたまま、葉を丸く形づくって水汲みに使ったり、マットや団扇や笠、かご、鍋なども作ります。沖縄に行かれた方なら、ひょっとしてクバの葉を伸ばして乾燥させて団扇を作る工程をご覧になった方がいるかもしれません。
 クバはシュロと葉が似ていますが、シュロと違って根元まで葉と葉の間が裂けていません。それなので、くるっと葉を巻いて止めつけるだけで鍋や柄杓ができてしまう便利な素材です。

◆ ココヤシ:
 南方のいろいろなところでは大活躍の植物です。住んでいる人が家族用、自分用の樹を所有しているとか。ご存知の通り、実は食用になります。この実の皮はほとんど繊維質なので、縄を作ったり、たわし、敷物などの生活用具を作ります。ほかに燃料などに使われますが、葉は屋根材、マット類の他、即席のかごを組む無くてはならない素材です。写真5はココヤシの葉の軸を縦に裂いてそのまま葉を取らずに組んで編んだ帽子です。ハワイに滞在した時に拾った葉で作りました。この帽子は縁から組んで、真ん中のトップを編み、また縁側へ端を出して終わるという面白い編み方で作られています。ココヤシは葉が大きいため、このように葉の真ん中の軸をそのまま残すという特徴的な編み方で、たくさんのかごが作られています。

◆ パンダナス:
 写真6はハワイ島の岬です。ここへは2002年にビジティング アーティストで一ヶ月ほど滞在しました。写真の下の崖にへばりつくように生えているのがパンダナス、ラウハラと呼ばれています。このパンダナスには種類があり、山にも生えているものがあります。海辺のものは質がいいとされていますが、樹としては小さいもので葉も硬い。
 葉を使っていろいろなかご、帽子類、マット類などが作られています。

 葉には鋭いとげがあるため(写真7)、葉の加工に時間がかかります。棘は葉の両端、真ん中にもあってこれをまずナイフで削り取ることから始まります。
 棘を取った後は平らになるようにローラーをかけて乾燥させます。それを均一の幅に切ってかごなどを編む素材にします。(写真8)編み手の庭には必ず1本は植わっていて、作業小屋が近くにあります。乾燥させるのはもっぱら小屋の中。たくさんの材が天井から下がっています。
 ハワイ島ではコーヒーの栽培が盛んで、ひじょうに質のよいコーヒー豆、例えばコナコーヒーなどを産出します。この事業を手伝うため、多くの日本人が移住しました。コーヒーの実は赤くなってから摘み取るのですが、実ごとに赤くなるタイミングが違います。だから手で判断しながら摘み取ります。高い所ははしごに登って、腰から下げたコーヒーバスケットに摘み取った実を入れました。
 おじゃましたお家の納屋にラウハラ製のコーヒーバスケットが残っていました。写真のはずいぶん昔のもので、歴史を感じさせます。(写真9)
 写真10はラウハラとココヤシのかご作りなどを紹介した私のバイブル的な本です。写真11はラウハラ製の団扇と亀。小さなものですが、きちんと組むのは以外と難しい。ラウハラ製の帽子の材は5mm幅、またはそれ以下の細い材を使うので組むのも大変です。ハワイのネイティブの編み手には州の日本でいえば人間国宝がいます。
 ハワイ島での一ヶ月は驚きの連続でした。自然に驚き、そして植物を楽しみ、またそこに住む人と出会うというのは自分の考え方、生き方を豊かにしてくれます。日本でもいろいろな編み手の方とお会いしたいところですが、時々難しい問題がある場合もあります。外国では私自身が外国人だということで珍しがってもらえるということが手伝っているのだと思いました。


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