「学術研究は、成功するかしないか前もってわからないところが、古い沈没船の引き揚げに似てますね」
「違う、ちがう、学術研究は報酬をもらいながらやっていて、成功しなくても当たり前のように思われていそうだが、沈没船引き揚げは成功しなけりゃ無報酬なんじゃよ」
「教育と教養の違いを教えてください」
「行動を表しているのか、目的を表しているのかの違いじゃ。今日行くと今日用、わかるじゃろ」
「だじゃれですか」
「そんなわかりきったこと、いちいち聞かんのも教養のかけらなんじゃが、N町は無教養街になり果てたのぅ」
「技能検定の受験参考書にもずいぶん親切に書かれているのがありますね」
「そりゃ商売じゃからなぁ」
「親切すぎて読み違えるのもあります。一つひとつの手法に、手順も含めた説明が書いてあって、その項目の終わりにまた手順だけを箇条書きにしてあるのです。はじめの説明と、あとの手順書とは、内容の同じことが繰り返されているのですが、読者はそれに気づかずに、説明に続いて次の手順が示されているものと思ってしまうのです」
「この通りやってみなさいと、ポイと渡されれば、そういう間違いも出るじゃろう」
「とにかく順番に読んでそのとおり進めていけばよいものと思い込んでいる人に、読み違えを気付かせるには、どうしたらよいでしょう」
「宗教と同じで、頭がいったんそっちを向いてしまうと、振り返らせるのは難儀じゃのぉ。読み方にこだわるのは、スラックスを裏返しにはいてしまったのを、脱がずに履きかえようとするのと同じとでも言ってみたら、おこるかの」
落としどころという言葉があるじゃろう」
「もめごとや話し合いのとき、まあこの辺でというあれですね」
「そう、あれなんじゃ。あれではわからんから妥協点、決着点などという人もいるが、点と言ってしまうのもピッタリこんのう」
「点でなければ、場所ですか」
「目に見えないものの呼び名は難しい。そうそう、場所といえば、今場所の相撲でなぁ、土俵の中にいるうちから、押しこくられて落ちるところを探している弱い力士がいたぞ」
「けがをしないような負け方を工夫しても、勝ち星は上がりませんね」
「今場所の相撲、いかがですか」
「むきになって星を落とす力士もおるなぁ」
「相撲は力を出してきれいに取ってくれなければ、見ていて面白くありませんね」
「そうじゃ、荒くれ獅子や客寄せおやまのような力士も、見ていて気色が悪いがのぉ」
「すぐれたリーダーってのは、どういう人なんでしょう、自分が先にったって、どんどんやってのける人ですかねぇ」
「いや、最高のリーダーの条件は自分が何もしないこと、という説もあるぞ」
「する経験だけでなく、させる経験もないと、リーダーにはなれないのでしょうね」
「経験だけでなく、だいじなのはさせる工夫なんじゃよ」
土のないところでも 花は咲く
生物活動の影響を受けてできた物質層の 土壌と
生産活動によってできた コンクリートとは
別世界と思ったら
そんなことにはお構いなしに
根っこが相手にしていたのは
水と空気だった
「政治にはふた通りあって、行った事実を残したい政治と、世の中を少しでも良くしたい政治があるようじゃが」
「残したいほうは私の気持ちが勝っていて、良くしたいほうは公の気持ちが勝っているとも言えそうですね」
「ところが、何かしようと思っても、公の気持ちにこだわり過ぎると、嫌がる人の自由も認めなければならなくなるので、なかなかうまくいかんのう」
「古典ちゅうのは、作者がはっきりしているもんなんですかぇ」
「古典落語はみな作者不明で、作者を気にしないものだと言った人もいるがなぁ、作者不明は落語に限らんじゃろう」
「作者自身が、これは古典ですとは言えませんものねぇ」
「そうじゃ、なんでも資格ちゅうもんは自分で決めるものではない。ノーベル賞を自分で待ち望んでいるなんぞは滑稽の限りじゃよ」