≪カナ群々≫
カナ文字で書かれるのは
日本語にないことがら
ことばがなかったのは
そんなことはしなかったから
たとえば コメンテイター
あれは お話をする人ではなく
作られている 筋書きどおりに
ことばを並べていく 役者さんら
筋書き作りと おはなし模様の
取り仕切りは 演技ビジネス
≪二三歩≫
やっと駆け上がって来たとき
電車のドアは 閉まっていた
もう間に合わない 頭は真っ白
とたんに 自分の体が
真っ黒な ハトに
途中で もう二三歩
速く歩いていたら
そのときの 自分の位置を
確かめていたら
ハトと呼ばれずに
済んだかもしれない
≪地主≫
その地にしっかり居を構えてこそ 地主
自ら農業に従事する 精農型が
地主の原型ではなかったのか
土地を商品に仕立てたのは
その土地にまったく関係のない人々による売り買いから
それには 農地改革というもっともらしい名がついていた
土地は 切り 売り されるようになり
名刺の半分の狭さの土地も
買えば地主になれる
地主は自分のその土地に
足を踏み入れるどころか
その目で見たこともない
小々地主たちが 自分の土地を
何かに逆らうだけの 道具に使いはじめたとき
その土地は 豊かな実りとはほど遠い
薄汚い紙切れに姿を変えていく
≪無償≫
それは 償い無しということか
償うとは 罪や借りを返すこと
もともと罪も借りもないのに わざわざ無しと言い立てられる
そのとき しっぽには化けの字が付いている
教育の無償化という言葉は そもそもおかしい
言葉を使いまわしているうちに
どこかでねじ曲がってしまったような
私立の学校の無償化というのは さらにおかしい
この無償は 授業料を納めさせないということだろう
先生が 給料を受け取らないということではあるまい
無償と言っておきながら 私企業に公金を支給する
この償いは どうするのだろう
無償という 奇妙な言葉は
どこかがいい加減な ぶしょうとも読めそう
ぶしょうの兄弟に ずぼらというのがある
≪実験≫
実験は 予想どおりになるかどうかを
確かめる方法
予想外のことがわかれば
それも成功
予想どおりにならないと 失敗と言ってしまうのは
そう言わないと責められるからか
失敗を褒める奇妙な習慣が いつの間に幅を利かせている
実験ではない本番が 実験と呼ばれることもありそう
それも 言葉は便利という実験か
≪自然保護≫
保護という行為は
限界を引きずりながら 広がります
できるかぎり それには線が引けません
保護という行為から
産業という呼び名の 別のものも生まれます
行為から名目への 目立たない変身です
この変身は ささやかではあっても
また別の人の 暮らしを支えます
それによって保護されるのは
初めの保護対象とは
ほとんど関わりがありません
樹を保護するかたちで
人間が保護されているのです