水の門

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歌集『カインの祈り』

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一首鑑賞(4):安永蕗子「直くのみ生き来しならず」

2014年07月22日 11時18分52秒 | 一首鑑賞
直くのみ生き来しならず千万の露をおとして竹そよぐなり
安永蕗子『水の門』


 「直く」は、まっすぐに、正しく、ほどの意味である。実は安永は、女学校時代に母と教会へ通っている。聖書にも「直く」という言葉が出てきて、口語訳聖書(1954年訳)と文語訳聖書に見られるが、安永の年齢を考えると、女学校時代に教会で読んでいたのは文語訳だろう。掲出歌は、1987年刊行の歌集『水の門』に収められている。古稀を前にして人生を振り返った安永の、まっすぐには歩んでこられなかったとの述懐が、この歌には込められているようだ。
 文語訳とはやや異なるが、口語訳聖書において見れば「直く」「直き」が現れる箇所は詩篇に集中している。その殆どが、神様の前にまっすぐに歩む者、正しい者を神様はお喜びになる、といった意味で用いられていて、私などはどこか居心地の悪さを感じてしまう。
 しかし、安永の視点は少し違う。竹は空に向かってまっすぐに伸びているように見える。だが生長の過程には雨風に晒される日もあり、時にたわみながら葉についた露を払い落として、天を目指していったのだ、と。

 旧約聖書の箴言3章5~6節に、「心を尽くして主に信頼し、自分の分別には頼らず/常に主を覚えてあなたの道を歩け。そうすれば/主はあなたの道筋をまっすぐにしてくださる」(新共同訳)という聖句がある。私達は、どうあがいても完全に「直く」あることはできない。けれど、神様を見つめて自分の道を歩んでいく時、神様ご自身がその道筋をまっすぐにしてくださるという。これは、大きな恵みではないだろうか。
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