水の門

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歌集『カインの祈り』

澤本佳歩歌集『カインの祈り』
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一首鑑賞(19):高尾文子「いのち見に来よ来よとさそふ降誕月を」

2015年11月05日 13時43分25秒 | 一首鑑賞
永遠の真日(まひ)のやうなるいのち見に来よ来よとさそふ降誕月を
高尾文子『約束の地まで』


この歌集の歌が作り溜められた間に、高尾には孫が誕生している。桜の咲く季節に生まれた赤子を見に行こうと高尾の心は踊る。その心持ちを表したのが掲出歌である。折しも時は十二月――。彼女は赤子の生命を「永遠の真日のやうなるいのち」と詠い、その命を見に「来よ来よ」と繰り返す。高尾がカトリックの信徒であることを考え合わせると、このリフレインは讃美歌「神の御子は今宵しも」 (Adeste Fideles/O Come All Ye Faithful。『讃美歌21』では259番「いそぎ来たれ、主にある民」) を踏まえているのだろう。『讃美歌21』より一節の歌詞を引く。

   いそぎ来たれ、主にある民、
   み子の生まれし ベツレヘム。
   うたえ、祝え、天使らと共ともに。
   来たりて拝(おが)め、来たりて拝め、
   来たりて拝め、いざ、共に。


高尾は赤子を心底いとおしみ、このようにも詠う。

  天からのよき贈りもの すこやかにきつちりと生え揃ひし乳歯
  ちさき夢そだてよ佳き児に糧となる本えらびをり聖夜近づく


一方、齢を重ねる高尾には心痛む別れもあったようだ。歌人の小高賢への挽歌の最後尾に次の歌が置かれている。

  ノエル、ノエル、ノエル、こよひの歌声に忘れえぬ死者みな帰りこよ

「忘れえぬ死者みな帰りこよ」の<みな>に注目したい。高尾には惜別の思いに見送った幾人もの人があったのだ。あるいは実際には会わずに既に眠りに就いている先達も、その中に含まれるのかもしれない。「ノエル…」のリフレインは、やはりクリスマスの讃美歌である「まきびとひつじを」(The First Noel)に登場する。逝く人もあれば、入れ違いに生を受ける者もいる。クリスマスの讃美歌を歌う頃、高尾はイエスの降誕の恵みを噛みしめ、同時にこの世を先に旅立った方々に思いを馳せる。
「まきびとひつじを」の最終節にはこうある。(『讃美歌21』258番)

   われらもこよいは 歌声合わせて
   平和をもたらす 主イエスをたたえよう。
   ノエル、ノエル、ノエル、ノエル、
   主イエスは生まれた。


(主イエスは私達のためにお生まれになったんです。ご一緒にお祝いしようじゃありませんか…!)そう心の内で叫ぶ高尾の声が聞こえてくるかのような一首である。
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