おすし屋さんの湯飲みの余興でよく書いてある、魚偏の文字の数々。
当て字で笑いを誘うのが大半ですが、ではこれは?
「鰾」
とんちを働かせようと座禅を組んで頭をくりくりしてもさっぱりアイディアがわきまません。
寒風吹きすさぶ代々木上原の夜20時。路地裏の軒先にさがった提灯にこの字が書いてあったら、
読めないけれど入れてください!と懇願したくなります。
答えは、”ウキブクロ”
辞書を引くと載っているので、当て字というわけではなさそうですが、
とても頓知ではひらめきそうにありません。
ですが、ゆったりとした間取りに、気さくでいなせなお兄さんと、
地元の人の舌を裏切るわけにはいきませんから、おいしい料理をいつも考えています、という
大将がいるお店は、なかなかに一ひねりしたおいしいものが並んでいます。
その一つが牡蠣の塩辛。一夜干しに近い食感は、水分が抜けた張りと旨みの凝縮で、
蛍の透かし彫りに味がひき立ちます。
お刺身には、初鰹が勝浦から。一緒に真鯛が並び、飾り包丁が入っているのも、なるほど刺身の一芸かと思わせます。
そして今日一番の驚きは、真鯖の西京漬けでした。
発酵感が真っ直ぐなお味噌は、個性の強い鯖の身深くまでしみこみ、
脂が酸化したり、血の臭みが顔を出したりする余地もありません。
上手につけてはるわ、と京都言葉を真似たくなる上品さで構えてみたくもなる
隙の無い焼き物です。
しかも580円。幸せです。
後輩と四方山話の数々に、一ひねりの皿を並べて、
ちょいとおなかも心もあたたまる、代々木上原「うきぶくろ」の夜でした。