次は,鄭大均が「外国人が日本人の美徳について記した最も印象的な文の一つ」と評している文章です。
数えて十五年になります。そのころ私は京城に住んでいて,たまたま東京へ旅行中でした。
ある日,宿である東京鉄道ホテルに東京駅から電話がかかりました。東京駅から私へ電話のかかる用事などは思い当たりません。誰か名前の似た人へ掛け違ったのではないかと危ぶみながら,私はその電話に出ました。
「実は,あなた様へ宛てられた電報が,こちらに配達されておりますが,あちこち問い合わせましたところ,そちらに御滞在ということで,それでお知らせするようなわけです。もう追っかけ二時間にもなるのですが――」
(略)私は恐縮しながらも電報と聞いては心が急いで,
「それはとんだ手数をおかけしました。申しかねますが,御面倒ついでに一つ電文を読んでいただけませんか」と,頼み言ったことでした。
「よろしいですとも,ちょっとお待ちになって――」
何かためらう気配が見えて四,五秒経ちました。
「いまお読みしますが――どうかお気を落とされませんように――,あまりいいお報せではないようですが――」
受話器を通して聞こえる打ち沈んだ憂わしげな声――,京城を発つ前に小さい男の子を入院させて来たばかりです。直感で,私には電文の内容が分かった気がしました。
「ありがとう,御心配要りませんから,どうぞ読み上げて下さい」
落ち着いたつもりでそうは答えたものの,その時,私の声は心持ち震えていたかもしれません。
電文はやはり想像の通りでした。入院中の男の子が息を引き取ったと報せてありました。
十年経ち,十五年経っても,私にはその日その鉄道職員の声を忘れることができません。他人の不幸,他人の悲しみを,そのまま自分のものとなすことのできる――その真情,その良識こそは,私が命をかけて,わが郷土,わが祖国に移し植えたいと願うところのものです。そのゆえに敢えて私は,日本の「善」を識ると自負するのです。
(金素雲『中央公論』1951年11月号,金素雲『こころの壁』所収/鄭大均『日本(イルボン)のイメージ』より再引用
実は,この文章,韓国の新聞で紹介されました。(→日本語版,韓国語版)
詩人で随筆家の金素雲は日本を旅行中、東京ステーションホテルに泊まった。ある日、東京駅から連絡を受けた。あて先が間違っていて、ホテルに行くはずの電報が東京駅に届いたという。
多忙で時間がないから読み上げてほしいと頼むと、駅員は「ご迷惑をおかけして申し訳ない」とためらう様子だった。後にその電報はソウルにいる息子の死を知らせるものだったことがわかったという(『木槿通信』)。
他人に迷惑をかけることは、日本人が社会生活で最もタブー視していることのひとつだ。他人に面倒をかけ、気を使わせ、煩わせることは全てこれに該当する。
「ご迷惑をおかけして申し訳ない」なんて,どこにもないんだけど。この筆者,いったいどういう読解力をしてるんだか。
数えて十五年になります。そのころ私は京城に住んでいて,たまたま東京へ旅行中でした。
ある日,宿である東京鉄道ホテルに東京駅から電話がかかりました。東京駅から私へ電話のかかる用事などは思い当たりません。誰か名前の似た人へ掛け違ったのではないかと危ぶみながら,私はその電話に出ました。
「実は,あなた様へ宛てられた電報が,こちらに配達されておりますが,あちこち問い合わせましたところ,そちらに御滞在ということで,それでお知らせするようなわけです。もう追っかけ二時間にもなるのですが――」
(略)私は恐縮しながらも電報と聞いては心が急いで,
「それはとんだ手数をおかけしました。申しかねますが,御面倒ついでに一つ電文を読んでいただけませんか」と,頼み言ったことでした。
「よろしいですとも,ちょっとお待ちになって――」
何かためらう気配が見えて四,五秒経ちました。
「いまお読みしますが――どうかお気を落とされませんように――,あまりいいお報せではないようですが――」
受話器を通して聞こえる打ち沈んだ憂わしげな声――,京城を発つ前に小さい男の子を入院させて来たばかりです。直感で,私には電文の内容が分かった気がしました。
「ありがとう,御心配要りませんから,どうぞ読み上げて下さい」
落ち着いたつもりでそうは答えたものの,その時,私の声は心持ち震えていたかもしれません。
電文はやはり想像の通りでした。入院中の男の子が息を引き取ったと報せてありました。
十年経ち,十五年経っても,私にはその日その鉄道職員の声を忘れることができません。他人の不幸,他人の悲しみを,そのまま自分のものとなすことのできる――その真情,その良識こそは,私が命をかけて,わが郷土,わが祖国に移し植えたいと願うところのものです。そのゆえに敢えて私は,日本の「善」を識ると自負するのです。
(金素雲『中央公論』1951年11月号,金素雲『こころの壁』所収/鄭大均『日本(イルボン)のイメージ』より再引用
実は,この文章,韓国の新聞で紹介されました。(→日本語版,韓国語版)
詩人で随筆家の金素雲は日本を旅行中、東京ステーションホテルに泊まった。ある日、東京駅から連絡を受けた。あて先が間違っていて、ホテルに行くはずの電報が東京駅に届いたという。
多忙で時間がないから読み上げてほしいと頼むと、駅員は「ご迷惑をおかけして申し訳ない」とためらう様子だった。後にその電報はソウルにいる息子の死を知らせるものだったことがわかったという(『木槿通信』)。
他人に迷惑をかけることは、日本人が社会生活で最もタブー視していることのひとつだ。他人に面倒をかけ、気を使わせ、煩わせることは全てこれに該当する。
「ご迷惑をおかけして申し訳ない」なんて,どこにもないんだけど。この筆者,いったいどういう読解力をしてるんだか。
でも成功を祈る内容ではない。成功を祈るは、単なる皮肉である。
記事にした人の読解力がゼロか、故意なのか。
いずれにしてもマスコミの姿勢としては疑問。
http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=90303&servcode=100§code=100