「日本の伝統文化について、プレゼンすることになったんだけど、何がいいかなあ」
4女からこんなラインが入ったのは、高田馬場のミャンマー料理屋で二人の知りあいと飲んでいた時のことでした。
4女は2日後からイギリスに行くことになっていたんですね。
(こんな直前になって…)
なんでも、学内選抜で選ばれて、在英日本企業や日本大使館を訪問し、先輩方からいろいろお話を聞くというありがたい研修旅行で、もう何か月も前から決まっていたのです。プログラムの中にケンブリッジ大学の学生との交流があり、参加者がそれぞれ「日本の伝統文化」について、何か一つずつ英語でプレゼンをするんだとか。
「茶道は? お母さんがくわしいでしょう?」
妻は子どものころから長く茶道を習っていたのです。
「それ、もう別の人にとられた」
「…」
ちょうどそのときいっしょに飲んでいたうちの一人は、某放送局でディレクターをしていて、英国にも駐在していた友人でした。
「こんな相談があるんだけど」
「そうね。柔道はどう? 今、イギリスで盛んだよ」
「柔道か…」
4女は今、大学のホッケー部で主将を務めているけれど、武道はほとんど知らないだろうし、これからインターネットで調べても、たいしたプレゼンはできそうにない。
もう一人の友人は、ミャンマーの経済自由化(彼は昨今の変化を「民主化」と呼ぶのは不適切だというのが持論でした)のずっと前から、ミャンマーでいろいろな事業に関わってきたミャンマーの専門家。ミャンマーの田舎で孤児院を開くのを手伝ったり、最近では日本にいる亡命ミャンマー人と一緒にバンド活動をしたりと、ボランティア的な活動にも力を入れている。
「こんな活動をオンエアして、ミャンマーの人たちに知らせることができたらいいなあと思ってるんですよ」
「それは面白いですね」
日曜日の夜のミャンマーレストランは、店のカラオケ目当てにやってくるミャンマー人でいっぱいです。ほとんど絶え間なく、ミャンマーの歌の(絶叫に近い)絶唱が続きます。
「ちょっとうるさいですね」
「場所変えましょうか」
次に向かったのは、最近2号店をオープンしたミンガラーバー。
「先日はどうも」
知人がママさんに挨拶します。
少し前に、1号店を借りて、コンサートを開いたんだとか。
こちらの店にはカラオケがなく、そのせいか客も少ないので、落ち着いて話をするには好都合。
ミャンマーの子どもたちに対する絵本の読み聞かせとか、バンド活動の話とか、話題は多岐に及びました。
「何か具体的な形にできたらいいですね」
夜も更けたので、その日はお開きに。
「そういえば、さっきの話だけど、折り紙なんてどう?」
友だちは、別の話をしている間も、考え続けてくれていたようでした。
「折り紙か。それなら娘もできるし、いいかもしれない。アドバイスありがとう!」
早速、帰りの電車内から娘にラインすると、
「それにする。明日千代紙を買いに行く!」
という返事が返ってきました。
(持つべきものは友達だなあ)
ケンブリッジ大学でのプレゼンがうまく行けばと思います。
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