犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

朴大統領の罷免

2017-03-12 22:16:19 | 韓国雑学

 朴大統領に対する韓国の憲法裁判所の宣告が行われる前日、社内のトイレで韓国人社員と隣り合わせになりました。

「明日は大変だね」

「えっ? あ、会議のことですか」

「違うよ。韓国で重大な発表があるでしょう?」

「ああ、そのことですか。私は別に大して関心ありませんよ」

「ウリナラの将来が気にならないの?」

「まあ、なるようにしかならないから。犬鍋さんは気になるんですか」

「いや、まあ僕にとって韓国はナメナラ(他人の国)だから…」

「ハハハ」

 かつて、韓国に駐在中に起きた大事件(IMF経済危機など)は、自分の生活にも関わるので、関心を持たざるを得ませんでしたが、日本に帰国後、早10年が経つ今となっては、隣国の政変に大して傍観者意識しか持ち得ないのもいたしかたないことです。

 彼の場合も、日本人と結婚し、当分は日本で働くつもりらしいので、これまた当事者意識が薄れているのでしょう。

 ただ、韓国にいる韓国人の友人たちのことを思うと、やるせない気持ちがします。彼らはこの混乱をどんな思いで見ているのかと。

 翌日、果たして朴槿恵大統領には、罷免が宣告されました。国民の大部分は熱狂をもってこの決定を歓迎しています。直前の新聞では、「朴槿恵反対派と賛成派で国論が二分された」というような記事がありましたが、その比率は5:5ではぜんぜんなくて、9:1ぐらいではないでしょうか。

 韓国の社説はどれも、弾劾を機に国民の一致団結を訴えています。

 北朝鮮では、自分の弟を暗殺したり、核実験を繰り返したり、ミサイルをバカスカ発射したりする、常識の通用しない独裁者が意気軒昂だし、アメリカでも予想のつかないことをする新しい大統領が出てくる、中国はというとTHAADの関連して韓国への報復を発表しています。韓国の政局が早く安定してくれないと、日本としても心配でしょうがない。

 朴槿恵が続投した場合、政局はもっと混乱しただろうから、罷免はよかったかもしれないけれど、次期大統領として最有力の文在寅が「反日、親北朝鮮」といわれているから、これも不安。どちらに転んでも、日本にとって懸念材料は多い。

 そもそも、憲法裁判所が罷免の理由として挙げた、大統領の職権濫用と、崔順実への便宜を図ったという行為が、罷免に値するほど重大なのか、国家に損失を与えたのか、私には判断がつきません。

 ただ、個人的には、このような形で政権を追われ、近い将来、逮捕・起訴が予想されている朴槿恵大統領には、同情の念を禁じ得ません。母親をテロの流れ弾で失い、父親を暗殺され、自らはこのような形で全国民から目の敵にされて追放される…。

 たんに大統領の娘に生まれただけで、特に政治的な能力に恵まれたわけでなかったのに、父親の支持者たちにおだてられ、背中を押されて政界に進出したのが間違いだったのだと思います。

 ただ、「民主化」後の政界、言論界で、国家の発展を実現した自分の父が悪しざまに言われるのが許せない、という娘としての気持ちはとてもよくわかります。

 今後、文在寅が仮に大統領になったとして、国内の不満(経済政策)や北朝鮮に対する反感を逸らすために、矛先を日本に向けるというようなことにならなければいいなあと思います。

 最後に、「日本語版」のない京郷新聞(左派)の社説を翻訳・紹介します。

京郷新聞 3月11日[社説]
新しい国に向かって大長征を始めよう

 2017年3月10日、大韓民国の民主主義の歴史は新しいページを開いた。憲法裁判所は、裁判官8人の満場一致で朴槿恵大統領の罷免を宣告した。権力を委任した国民の信頼を裏切り、憲政秩序を蹂躙した大統領に対する厳正な審判である。市民は、憲政史上初めて、不義の権力を合法的な手続きでて打ち倒した。「大韓民国の主権は国民にある」という崇高、峻厳な憲法の価値を確認した。石の一つも投げることなく、血の一滴も流さずに、名誉革命を成し遂げた。最高権力者の憲法違反と異常な状況を憲法秩序を通じて解決することで、わが国の民主主義が一歩成熟したことを示した。民主主義の勝利であり、正義の勝利であり、偉大な市民の勝利だ。

 憲法裁判所は、「大統領の違憲・違法行為は、国民の信任を裏切るもので、護憲の観点から容認できない重大な行為」と判示した。裁判官8人はただ一人の例外もなく、全員罷免に賛成した。憲裁は、非線実勢(影の実力者)崔順実の国政介入を許し、利権追求の手助けをし、大統領の地位と権限を乱用したとして、憲法および国家公務員法・公職者倫理法違反を摘示した。憲裁は、いかなる者も憲法・法律の例外ではありえないという厳しい論告で憲法の番人の役割をしっかりと果たした。

 選挙で選ばれた大統領の弾劾は、国の不幸であり悲劇である。しかしこれは朴前大統領が自ら招いたことである。彼女は憲法に反し、法を破り、主権者を欺いた。私人に過ぎない崔順実の国政壟断を放置し、国家機関を私利追求の道具として使わせて、主権者の国民を深く傷つけた。にもかかわらず率直に謝罪、反省をすることなく、弁明と小細工で最後まで国民に抗い、争うという傲慢さを見せた。過去4か月以上、国民との約束を平気で反古にし、窮地を脱することに汲々としていた姿は、とても国家指導者と呼べない体たらくであった。憲法裁判所は、「崔順実の国政介入を徹底的に隠し、疑惑が持ち上がるたびに否認し、かえって疑惑を提起したことを非難した」、「国民への談話で真相究明に最大限協力すると言ったのに、いざ検察と特検の調査ではそれに応じず、家宅捜索も拒否した」と、その罪状を並べ挙げた。そして「罷免で得られる護憲の利益が圧倒的に大きい」と述べた。史上初めて最高権力者を引きずり降ろすことで、人治から法治の時代への転換を宣言したものであり、韓国の民主主義がもはや不可逆の段階に進んだことを天下に示したのである。

 歴史的決定を引き出した主役はろうそくだった。男女、世代、地域、階層の違いを越えて数多くの市民が広場に集まり、国政の紊乱に対する峻厳な審判を求めた。市民は4・19革命から6月抗争に至るまで、いかなる独裁にも屈することなく、この国を蘇らせてきた。市民は再び民主主義を復活させ、燦爛たる市民主権の時代を開いた。世界史上稀な成熟した、名誉ある市民革命を宣言した。

 朴槿恵政権の退場により、過去50年以上、韓国保守の基盤であった「朴正煕パラダイム」も同時に終焉を告げたと見られる。今、保守勢力は朴正煕、朴槿恵に代表される「アンシャン・レジーム(旧体制)」の積弊を捨て、健全で合理的な保守に生まれ変わらなければならない。

 憲裁の弾劾決定は、霧に覆われていた政局の不確実性を解消した。60日以内に行われる次期大統領選挙には、国家システム全体を改造する新しいリーダーシップを創出するという特別な意味がある。新しいリーダーは、政治、経済、社会の全分野で積弊を一掃し、体質を根本から変える改革を断行しなければならない。積弊は、ただ朴槿恵政権の失政でできあがっただけではない。長い目で見れば分断以降続いてきたことの結果でもある。臨機応変の対応や、その場しのぎのやり方で解消できるものではない。体系的かつ構造的な改革をしなければならない。そのためには市民の多数の意思に基づき、政府と市民社会が手を携え、政党間の協力と合意を通じて根本を建て直すという姿勢で取り組まなければならない。「これが国なのか」という、ろうそく集会の鬱憤に、「これが国だ」という答えを出さなければならない。

 朴槿恵弾劾は、旧体制清算の出発点である。政経癒着の連鎖を断ち切るための財閥改革、国政壟断を放任し隠蔽した検察、政治介入を日常的に行った国家情報院など、権力機関の改革は、一時も先送りできない課題だ。より良い政治のための政党改革と、市民の意思が反映される選挙制度改革が必要である。所得の不平等、貧富の格差の解消のための経済民主化や、福祉制度の整備も急務である。政権の宣伝手段に成り下がった公営放送を本来の位置に戻すメディア改革も先送りできない。大統領職の喪失で、もはや与党と野党の区分はない。政界は、国家改造のための改革という課題を法的、制度的に後押しするために、責務を分かち合わなければならない。

 弾劾後の国を心配しているすべて人の心を一つにしなければならない。いかなる者も、対立と葛藤をあおる言行は慎まなければならない。承服以外に、他のいかなる方法も存在しない。憲裁の最終決定を、葛藤の終わりにしなければならない。弾劾が決まってがっかりし、憤慨している市民もいるが、彼らの喪失感は、より良い未来を準備する過程て癒されることを願う。政党と政治指導者たちは、「大統領候補・党代表合同会議」を開き、弾劾についての認識を共有し、市民の統合を宣言することも必要である。今、われわれは、北朝鮮の核・ミサイルの脅威と中国の高高度防衛ミサイル(THAAD)配備に対する報復、米国の保護貿易主義、韓日対立など、前代未聞の外交・安保の危機に直面している。経済環境もますます困難になりつつある。国内外の深刻な状況を切り抜けるうえで、政界は目の前の政治的打算を捨て、超党派で協力しなければならない。私たち市民は、国家の危機のたびに団結力を見せてきた。もう一度「秩序ある収拾」を通じて底力を見せなければならない時だ。

 弾劾前と後では変わらなければならない。特権と不正のない正義の社会を完成し、私たちの生活を変えていかなければならない。逆行のできない時代の課題であり、市民の命令である。われわれはみなで新しい国に向かって大長征を開始してよう。


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4 コメント

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Unknown (トムヤム)
2017-03-19 20:54:29
パクイネ前大統領に違憲行為があったとしてそれは罷免に値するものなおでしょうか。
それは大多数の国民が罷免に賛成しているのであり、その意思を尊重することが護憲だと裁判官が判断したということでしょうか。

結局のところ大統領制度を変えない限り、同じようなことが繰り返されるのではないかと思えます。

新大統領には前にもまして外交、内政、経済問題の高いハードルが待ち受けているでしょう。

それらにつまずくとき、韓国民は大統領を許すでしょうか
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七つ目の新記録 (犬鍋)
2017-03-20 23:49:17
日本のような議院内閣制にすべきだという意見が昔からありましたが、はたして世論の賛成を得られるかどうか。

朴大統領はされまでの六つの記録に加え、「初めて罷免された大統領」という七つ目の新記録達成です。

http://blog.goo.ne.jp/bosintang/e/441a40b1813a5374ac598eba71ff4630
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連邦統一政府 (スンドゥブ)
2017-03-27 16:15:35
こんにちは。

文在寅が当選すると、連邦統一政府ができるとか。
http://yoshiko-sakurai.jp/2017/03/25/6772

もしそうなら、無関心ではいられませんね。
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同胞… (犬鍋)
2017-03-30 23:31:30
北に対する韓国民の感情はなかなか理解しにくいものがあります。
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