今回の出張はマイ・ダーツ持参でした。大阪のダーツバーで店のマスターと勝負するためです。
仕事の後,いったんホテルに戻って着替えて出直しましたが,ダーツを忘れちゃいけないと,そっちばかりに気をとられ,手土産として持ってきたチャミスルを部屋に忘れたのに気づいたのは,阪急電車に乗ったあとでした。取りに帰ると遅くなっちゃうしな。ま,いいか,高いものじゃなし。
この日のために用意されていた(たぶん)鉄板焼きの上質ステーキをつまみに,例によって樽出しスコッチモルト。
ダーツの勝負のほうはというと…。
さすがにマスター,ダーツ歴は私よりいくぶん短いはずなのに,客のいないときは練習し放題だからか,相当な腕前になっていました。ダーツの専門雑誌も買い込み,研究も怠りない。
結局,1勝3敗で迎えた閉店間際の最終勝負には勝ったものの,通算では負け越しでした。
「で,今日もあの韓国スナックに行くの?」
「どうしようかなあ。高いからなあ」
結局,マスターとは途中で別れ,ホテルの最寄りの駅で下りたとき,あの不明朗会計のシステムをはっきりさせたいという気持ちがムクムクと盛り上がってきました。
前回もらった店の名刺があったので電話をかける。
「あーら,犬鍋さん。お待ちしてたわ。昨日はなんでいらっしゃらなかったの」
(えっ,なんでオレが今大阪にいるということを)
「…お店,まだ開いてるの?」
「犬鍋さんがいらっしゃるなら,いつまででもお待ちするわ」
(そう言われちゃ行かないわけにいかないなあ)
「オソオセヨ~,今日は特別にチジミを用意して待ってたのよ」
「なんで? 虫の報せ?」
「あらいやだ。この前来たときおっしゃってたじゃない」
(ああ,そういや次の大阪出張予定を教えてたんだ。ほとんど記憶がないが)
「約束のもの,持ってきてくれた?」
「えっ?? なんだっけ?」
「ポンテギよ。缶詰のポンテギ買ってきてくれるって言ったじゃない」
「ああ,そうだったね。実はあのあと考えたんだけどさあ、ポンテギって缶詰はまずいでしょう? 韓国に来たとき屋台で食べるのがいいかなと思って(実は忘れていただけなのだが)
ところで,この前の勘定なんだけど…」
(本題を切り出す)
「うちはね,テーブルチャージが4000円で,ビールが1000円。ちょっと高いけど,そのかわりウイスキーはほかの店より安いって評判よ」
(ふむふむ,ぼくの推理は概ね当たっていたようだな。だからどうということではないが)
ふとみると,テーブルのうえに韓国の「コンガン(健康)」という雑誌が。
「ちょっとそこのページの折ってあるところ、読んでみて。卵を割ったあと,内側に残った薄膜を焼酎で溶いたのが髪の毛にいいんだって。私の髪,細いでしょ。太くするために試してみようと思って」
「細いほうがいいんじゃない?」
「だめだめ,パーマがぜんぜんかからないのよ。それにテモリ(禿)にも効くんだって。」
「ふーん」(ぜんぜん信じていない)
「うちのお客さん,テモリが多いから,私の髪で実験して効果があったらお客さんにも勧めようと思うの」
「ぼくは大丈夫だよ」
「アハハ,そうね。でも問題は,韓国の焼酎じゃないとだめらしいのよ。日本の焼酎や,日本で売ってる真露はだめだって」
そのとき,私の頭にホテルに置き忘れられた本場の真露(チャミスル)のことが思い浮かびました。
「そうそう,今ホテルのぼくの部屋に本場のソジュがあるよ」
「チョンマル? いただいていいかしら?」
「いいよ,どうせ…(手短かに経緯を説明)。じゃちょっと取りに行って来ようか?」
「いや,お店が終わったらホテルまでいっしょに行けばいいでしょ」
(えっ? じゃ閉店までいないといけないの?)
「うーん,そうね。で,何時まで?」
「犬鍋さんが帰るまで」
「…」
でもま,せっかく日本に持ってきたものをそのままソウルまで持ち帰るのは虚しいし「液体持ち込み制限」で手荷物には入れられないし,いっそホテルの掃除アジュンマに置き土産で置いていこうかと思っていたので,渡りに船でした。
2時過ぎ、店を出ると,さっきまで小降りだった雨が本降りに。
「かさ貸してくれる?」
「いらないわよ。こうすれば」
ママさん,いきなり私の腕をとり相合い傘状態に。(ちょちょっと,会社の人に見られたらどうすんだよ)
「ホントに韓国の焼酎が欲しかったのよ。なんてラッキーなんでしょ」
酒も入って,ハイになったママが韓国なまり日本語でしゃべりまくるのに相槌を打つうち,ビジネスホテルに到着。
(まさか,部屋で飲み直しましょう,なんてことにならないだろうなあ)
ママ、入り口で私の腕を解放し、
「クロム,ヨギソキダリルッケ(じゃ,ここで待ってるから)」
ホッ。杞憂でした。
「アラッソ,チョムイッタオルッケヨ(うん,すぐ来るよ)」
3分後,インチョンの免税店で買ったプラスチックボトル5本入りチャミスルを手にぶら下げたママさん,足どり軽く新大阪の雨の中に消えて行きました。
ああ,チャミスルが無駄にならなくてよかった。
「酒を粗末にする者は,いつか酒で泣くことになる」って誰の言葉だっけ(あっ、ぼくだ)。
願わくはママの髪の毛がパーマに耐えられるほどに太くなり、客さんたちの頭が往年の賑わいを取り戻しますことを。
結局,5700ウォンで買った焼酎を無駄にしないために,5000円(テーブルチャージ4000+ビール1本)を使ってしまったのでした。
仕事の後,いったんホテルに戻って着替えて出直しましたが,ダーツを忘れちゃいけないと,そっちばかりに気をとられ,手土産として持ってきたチャミスルを部屋に忘れたのに気づいたのは,阪急電車に乗ったあとでした。取りに帰ると遅くなっちゃうしな。ま,いいか,高いものじゃなし。
この日のために用意されていた(たぶん)鉄板焼きの上質ステーキをつまみに,例によって樽出しスコッチモルト。
ダーツの勝負のほうはというと…。
さすがにマスター,ダーツ歴は私よりいくぶん短いはずなのに,客のいないときは練習し放題だからか,相当な腕前になっていました。ダーツの専門雑誌も買い込み,研究も怠りない。
結局,1勝3敗で迎えた閉店間際の最終勝負には勝ったものの,通算では負け越しでした。
「で,今日もあの韓国スナックに行くの?」
「どうしようかなあ。高いからなあ」
結局,マスターとは途中で別れ,ホテルの最寄りの駅で下りたとき,あの不明朗会計のシステムをはっきりさせたいという気持ちがムクムクと盛り上がってきました。
前回もらった店の名刺があったので電話をかける。
「あーら,犬鍋さん。お待ちしてたわ。昨日はなんでいらっしゃらなかったの」
(えっ,なんでオレが今大阪にいるということを)
「…お店,まだ開いてるの?」
「犬鍋さんがいらっしゃるなら,いつまででもお待ちするわ」
(そう言われちゃ行かないわけにいかないなあ)
「オソオセヨ~,今日は特別にチジミを用意して待ってたのよ」
「なんで? 虫の報せ?」
「あらいやだ。この前来たときおっしゃってたじゃない」
(ああ,そういや次の大阪出張予定を教えてたんだ。ほとんど記憶がないが)
「約束のもの,持ってきてくれた?」
「えっ?? なんだっけ?」
「ポンテギよ。缶詰のポンテギ買ってきてくれるって言ったじゃない」
「ああ,そうだったね。実はあのあと考えたんだけどさあ、ポンテギって缶詰はまずいでしょう? 韓国に来たとき屋台で食べるのがいいかなと思って(実は忘れていただけなのだが)
ところで,この前の勘定なんだけど…」
(本題を切り出す)
「うちはね,テーブルチャージが4000円で,ビールが1000円。ちょっと高いけど,そのかわりウイスキーはほかの店より安いって評判よ」
(ふむふむ,ぼくの推理は概ね当たっていたようだな。だからどうということではないが)
ふとみると,テーブルのうえに韓国の「コンガン(健康)」という雑誌が。
「ちょっとそこのページの折ってあるところ、読んでみて。卵を割ったあと,内側に残った薄膜を焼酎で溶いたのが髪の毛にいいんだって。私の髪,細いでしょ。太くするために試してみようと思って」
「細いほうがいいんじゃない?」
「だめだめ,パーマがぜんぜんかからないのよ。それにテモリ(禿)にも効くんだって。」
「ふーん」(ぜんぜん信じていない)
「うちのお客さん,テモリが多いから,私の髪で実験して効果があったらお客さんにも勧めようと思うの」
「ぼくは大丈夫だよ」
「アハハ,そうね。でも問題は,韓国の焼酎じゃないとだめらしいのよ。日本の焼酎や,日本で売ってる真露はだめだって」
そのとき,私の頭にホテルに置き忘れられた本場の真露(チャミスル)のことが思い浮かびました。
「そうそう,今ホテルのぼくの部屋に本場のソジュがあるよ」
「チョンマル? いただいていいかしら?」
「いいよ,どうせ…(手短かに経緯を説明)。じゃちょっと取りに行って来ようか?」
「いや,お店が終わったらホテルまでいっしょに行けばいいでしょ」
(えっ? じゃ閉店までいないといけないの?)
「うーん,そうね。で,何時まで?」
「犬鍋さんが帰るまで」
「…」
でもま,せっかく日本に持ってきたものをそのままソウルまで持ち帰るのは虚しいし「液体持ち込み制限」で手荷物には入れられないし,いっそホテルの掃除アジュンマに置き土産で置いていこうかと思っていたので,渡りに船でした。
2時過ぎ、店を出ると,さっきまで小降りだった雨が本降りに。
「かさ貸してくれる?」
「いらないわよ。こうすれば」
ママさん,いきなり私の腕をとり相合い傘状態に。(ちょちょっと,会社の人に見られたらどうすんだよ)
「ホントに韓国の焼酎が欲しかったのよ。なんてラッキーなんでしょ」
酒も入って,ハイになったママが韓国なまり日本語でしゃべりまくるのに相槌を打つうち,ビジネスホテルに到着。
(まさか,部屋で飲み直しましょう,なんてことにならないだろうなあ)
ママ、入り口で私の腕を解放し、
「クロム,ヨギソキダリルッケ(じゃ,ここで待ってるから)」
ホッ。杞憂でした。
「アラッソ,チョムイッタオルッケヨ(うん,すぐ来るよ)」
3分後,インチョンの免税店で買ったプラスチックボトル5本入りチャミスルを手にぶら下げたママさん,足どり軽く新大阪の雨の中に消えて行きました。
ああ,チャミスルが無駄にならなくてよかった。
「酒を粗末にする者は,いつか酒で泣くことになる」って誰の言葉だっけ(あっ、ぼくだ)。
願わくはママの髪の毛がパーマに耐えられるほどに太くなり、客さんたちの頭が往年の賑わいを取り戻しますことを。
結局,5700ウォンで買った焼酎を無駄にしないために,5000円(テーブルチャージ4000+ビール1本)を使ってしまったのでした。
そろそろマイ・ダーツを買うほうがいいのではないでしょうか。
「あ~ら,スンドゥプさん,もう日本に帰ったのかと思ったわ。嬉しい~」とか言われたりして(一年ぶりの駐在員クラブ参照)
帰任挨拶で散在するおそれがなくなったので。ホッとしています。