イラスト:タガログ語の1~10の言い方
日本において国語は日本語であり、多くの人にとって母語も日本語です。日本では日本語以外に公用語とされている言語はありません。
日本人にとって、当たり前のことですが、世界ではぜんぜん当たり前ではない。
たくさんの言語が話されていて、そのうちのいくつかが公用語に定められている、という国のほうが多い。
前にも書きましたが、国語、母語(母国語)、公用語の辞書における定義は以下。
国語:その国で標準的な言語として認められている言語
母語:生まれ育った場所で、自然に覚えたことば〔国の場合は母国語ともいう〕
公用語:いくつかの言語が行われている国で、公の場で使うことが認められている言語
たとえば、D(三女の夫、フィリピン人)の場合は…
Dは、タガログ語、イロカノ語、イフガオ語、英語の4つをしゃべります。
フィリピンの国語はフィリピノ語です。
フィリピノ語は、フィリピンの支配民族、タガログ族の言語であるタガログ語を、フィリピンの国語にするために少し改良したもので、タガログ語とほとんどいっしょ。初等学校の授業は、フィリピノ語で行われます。
イロカノ語は、Dが出生したバギオで話されている言語です。
イフガオ語は、Dのお母さんが生まれ育った地域の言語。お母さんの母語です。
英語は、かつてフィリピンを支配していたアメリカの影響で使われるようになり、今もフィリピンの公用語になっています。
Dの母語は何かというと、本人に聞いてもはっきりしない。
というのは、Dのお父さんはマニラ出身で、母語はタガログ語。
お父さんはイロカノ語もイフガオ語もわからないので、家庭内はタガログ語。
しかし、Dは両親の仕事の都合で、幼少期に母方の祖父母のもとで育てられ、小学校1年生までイフガオ語の世界で暮らしていました。
小2からはバギオに戻り、小学校の授業ではフィリピノ語、友だちとの間ではタガログ語またはイロカノ語を使っていた。
小学校高学年になると、授業は英語で行われるようになり、民族語は、週一回、「民族語の時間」にだけ教えられる。
高校、大学は授業はすべて英語、友だちとの会話はタガログ語かイロカノ語。ただし、イロカノ語にはいくつかの方言があり、バギオで話されているのはベンゲット方言。
大学を卒業後、一時、アブラ地方で働いていたことがあり、そこで話されているイロカノ語はイロコス方言で、Dはイロコス方言もできるそうです(ただし、ベンゲット方言との違いはアクセント程度)。
現在、Dは電話でお母さんと話すときはイフガオ語、お父さんや妹たちと話すときはタガログ語です。
Dには3人の妹がいますが、いちばん下の妹はイフガオ語はできず、タガログ語と英語を話します。イロカノ語は学校の「民族語の時間」に習っただけで、片言。
兄弟間でも、育った環境によって、言語にこんなふうな違いがあるんですね。
まとめると、今日本に住んでいるDの母語はイフガオ語またはタガログ語、母国語はフィリピノ語、母国の公用語は英語。ほかにイロカノ語の2種類の方言を話す、ということになります。
フィリピンで二番目に多い話者数をもつセブアノ語(セブ島など)はわからない、とのことです。
また、フィリピンで書き言葉があるのが、英語とフィリピノ語(タガログ語)のみ。他の民族語はもっぱら話し言葉として通用しているとのことです。
今、Dは日本人と結婚し、日本で生活し、職場(中学校)でも英語教師以外の人との間は日本語を使っているそうですから、日本語力もめきめきと上達しています。
娘(私の孫)との間は、できるだけ英語を使うようにと言っていますが、日本語で話すことが多い。タガログ語は、数を数えるときに教えたりしていますが、孫の母語は日本語になりそうです。
母語(mother tongue)はもともと「お母さんの言葉」ですから、仕方がないでしょう。
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