韓国の尹錫悦大統領は、すったもんだの末、15日、拘束されました。
同日、尹大統領のフェイスブックには、「国民の皆様へ」という肉筆原稿がアップされたそうです。
これは同日発表された国民向け動画配信とは別物です。こちらは毎日新聞に全訳があるので、そちらをどうぞ(リンク)。
聯合ニュースに載った全文を拙訳で紹介します。(長いです)
聯合ニュース1月15日(リンク、韓国語)
[全文]尹、逮捕令状執行後、「国民の皆様へ」公開
国民の皆様へ
国民の皆さん、明けましておめでとうございます。乙巳(きのとみ)の新しい年に慶びの多いことを願っています。私は昨年12月14日に弾劾訴追されてから、一人で考える時間を多く持つようになりました。皮肉なことに、弾劾訴追されてみると、今こそ私が大統領だなという気がします。
26年の公職生活、8か月の大統領選挙運動、当選と政権引き継ぎ、大統領就任… 。就任後、夜明けから夜遅くまで、夢中で仕事に明け暮れると、私が大統領だということを考える暇もなかったようです。
公職人事、選挙公約と国政課題、懸案と危機管理など、外交、安保、経済、社会問題を本当に真剣に悩んで議論し、難しい決定をしなければならないことが多かったです。
私は学生時代から、「能力は努力」という考えで生きてきたので、とにかく懸命に、全力で働いてきました。
大統領らしく権威も持って休息したらどうかと助言する方もたくさんいらっしゃいましたが、就任後、国内外の事情が厳しかったのです。
グローバル安全保障とサプライチェーンの危機、物価高、高金利、為替レート下落という、海外発の経済危機が迫ってきました。前政府のポピュリズム(人気取り)政策による国家債務の爆発的増加、不動産政策の失敗で逼迫した家計貸付問題、所得主導成長政策による最低賃金引き上げにともなう自営業者と小商工業者、中小企業の経営悪化と貸付金問題などは、経済危機を克服するのを困難にしました。
しかし、国民の皆さんが難しい状況にもかかわらず私と政府を信じてついてきてくださったおかげで、着実に懸案と危機を解決していくことができました。
懲罰的課税政策をやめ、市場原理に忠実に不動産政策を進めた結果、住宅価格を安定させることができ、グローバル中枢国家外交と経済をつなげ、海外市場を開拓して輸出に努めた結果、昨年、過去最高の輸出実績を達成し、人口がわが国より2.5倍の日本にほぼ追いつきました。一人当たりGDPは、昨年日本を上回りました。
韓米同盟の核基盤のアップグレードと包括的戦略同盟の強化、そして韓日関係の正常化を通じた韓米日三国協力体制は、韓国経済の信認度をしっかりと支えてくれました。
今になって、安保と経済、そして社会改革のために駆け回った2年半という時間が走馬灯のように頭を巡ります。
もっと賢く、もっと傾聴して、よりよくやりとげるべきだったのにという後悔も多いです。
大統領選挙の期間、そして就任後2年半の時間を振り返ってみると、力不足の私を信じ応援してくださった国民一人一人の顔が思い浮かび、疲れた体を引きずって早朝から仕事を始める方々、寒い朝、未来のために学生かばんをしょって出かける生徒たち、貧しい中、病気の体で苦しんでいる方々への思いがよぎります。お会いして助けることができず、切ない気持ちです。
一生懸命働いてきたのに、このように職務停止状態になって初めて「私が大統領だな」と考えるようになったのは、こうした無念さのためではないかと思います。
今回の職務停止が、私の公職生活における4度目の職務停止です。検事として1回、検察総長として2回、合わせて3度の職務停止を受けました。
私の周りの人々は私に、適当に妥協して少し容易な道を探さないのは愚かだと言います。
愚かな選択の結果、職務停止になってみると、親しい人が背を向け、孤独を感じたケースもありますが、時間が経つと誤解も解け、多くの方々の応援と励ましが力になりました。
いつも変わらぬ私の愚かな決断のもとにあったのは、私の自由民主主義と法治主義に対する変わらない信念でした。
自由民主主義ではない民主主義は偽物の民主主義であり、民主主義の名前を借りた独裁と全体主義です。民主主義は個人の自由を守るための制度であり、自由民主主義は法治主義を通じて実現されるものです。
また、わが国のすべての人々の自由が共存できるための方法が、まさに法治です。法治は、自由を尊重する合理的な法と公正な司法官によって実現されます。法治主義は自由民主主義の核心です。
自由民主主義は経済において自由市場経済原理と結合し、自律と創意を通じて私たちの繁栄を成し遂げ、豊かな福祉と連帯の財源を作り出し、繁栄の好循環を作り出します。
わが国には天然資源はありませんが、優れた人的資源があり、開放的で活発な国際交易を通じて発展してきました。
今日、世界は安保、経済、原材料サプライチェーンなどで、すべての国が互いに複雑な関係を築いています。わが国の繁栄を持続し、将来の世代に引き継ぐためには、自由と法治の価値を共有する国々との連帯が特に重要です。
もちろん、わが国に敵対的な攻撃をしかけてこない国々とは、体制と価値が異なっても、相互尊重と共同利益の追求という現実的な面で協力しなければなりません。
しかし、体制と志向する価値がわが国と異なり、わが国に敵対的な影響力を及ぼして攻勢をかけてくる国々に対しては、常に警戒しながらわが国の主権を守り、主権が毀損されないようにしなければなりません。
外部の主権侵奪勢力の敵対的影響力を及ぼす工作を、常に警戒しなければならないのです。そうしてこそ、そのような勢力の影響力を遮断し、わが国が見くびられることなく、相互尊重と共同利益を実現できるのです。
私たちが警戒し、気をつけてこそ、共同繁栄と平和を享受できるのです。
第二次世界大戦以降、国連が設立され、いかなる理由であれ紛争を軍事攻撃と戦争で解決することは国際法上禁止され、防衛目的以外の戦争は禁止されました。
武器を使って血を流す軍事攻撃と戦争の挑発は国際法上禁止されたので、強大国といえども外交上の大きな負担になり、武器を使わない灰色地帯戦術が広く使われるようになったのです。
虚偽の扇動による心理戦、政治家の買収と選挙介入などの政治戦、デジタルシステムを攻撃するサイバー戦、軍事的な威嚇を裏付けに脅すハイブリッド戦術が広く使われるようになったのです。
国家機密情報や核心産業技術情報の奪取などの情報戦も、ハイブリッド戦に含まれます。したがって、現代の新しい安全保障は、軍事政治安保を超えて、経済安保、保健環境安保、エネルギー食糧安保、尖端技術安保、サイバー安保、災害保安など、非常に包括的で多様です。
軍事政治安保には、情報保護、保安と各種影響力工作の遮断が含まれます。軍事挑発と戦争は、相手国の主権を侵奪する政治行為ですが、国際法が禁止する軍事挑発と戦争を行わず、攻撃と責任主体も明確でないさまざまな灰色地帯ハイブリッド戦を主権侵奪の手段として使用することです。
特に、権威主義的独裁国家、全体主義国家は、体制維持のために周辺国をはじめとする多くの国々を属国ないし影響圏に置こうとしています。国内政治勢力の内部で、外部の主権侵奪勢力と手を握れば、彼らの影響力工作の助けを借り、政治権力を獲得するのに有利です。
しかしそれをタダで手に入れることはできません。わが国の核心的な国益を提供しなければなりません。国家機密情報、産業技術情報だけでなく、原発のようなエネルギー安保や産業競争力などを提供し、さらに自由の価値を共有する国々との連帯を崩壊させ、自ら外交の孤立化をもたらします。国益に明らかに反する反国家行為をするのです。
このような勢力が執権与党になっている時だけでなく、国会議席の多数を占有した巨大野党になる場合も、国益に反する反国家行為は継続されます。
強大な国会権力と国会独裁で立法と予算封鎖を通じ、執権与党の国政運営を徹底して封じ、国政を麻痺させます。
与野党間の政治的意見の違いと牽制と均衡というレベルを超えて、反国家的な国益放棄強要と国政麻痺、憲政秩序崩壊を押し付けます。
これはよその国の話ではありません。まさに大韓民国の現実です。
どんな政治勢力であっても、有権者の監視に置かれ、無道な悪事を続けることは難しいのですが、選挙操作によっていつでも国会の議席を計画どおりに占めることができたり、行政権を手に入れることができたりすると自信をもてば、できないことは何もないでしょう。
わが国の選挙では、不正選挙の証拠があまりにも多いのです。これを可能にする選挙管理委員会のでたらめなシステムもすべて明らかになりました。特定の人を名指しして不正選挙を処罰するには証拠が足りないからといって、不正選挙を陰謀論だと一蹴することはできません。
刀で切られ死んだ遺体が多数発見されたが、殺人犯を特定できなかったため、殺人事件ではなく正常な自然死だとは言えないのです。
正常な法治国家なら、捜査機関に積極的な捜査を依頼し、みなが協力して犯人を探さなければならないのです。
選挙訴訟の投票箱の票検査で途方もない偽の投票紙が発見され、選管委の電算システムがハッキングと捏造に無防備であり、正常な国家機関電算システムの基準に遠く及ばないのに、これを是正しようとするいかなる努力もしないだけでなく、発表された投票者の数と実際の投票者の数が一致するかどうかの検証と確認を拒否するというのなら、総体的な不正選挙システムが稼働していたということになります。
これは国民の主権を盗む行為であり、自由民主主義を崩壊させる行為です。
自由民主主義と法治主義を目指す正常な国であれば、選挙訴訟でこれを発見した大法官と選管委が捜査依頼をし、捜査に積極的に協力して、このような不法選挙行為が起きたかどうかを徹底的に確認しなければならないのです。それにもかかわらず、これを隠蔽しました。
殺害された遺体は多く発見されたが、被害者の家族に誰が犯人かを立証する資料を探しだして訴えさせ、処罰が確定しない限り、殺人事件を云々することを陰謀論と攻撃するなら、これが国家だと言えるでしょうか?
デジタルシステムと偽投票紙投入などからなる不正選挙システムは、ある国の経験のない政治勢力が一人で独自に試みて推進できることではありません。うっかり摘発されると、政治勢力が崩壊する可能性があります。一人では思いもよらないことです。あるとしてもせいぜい金品提供、利権取引、世論操作などでしょう。
しかし、投開票の不正と世論調査の捏造を結びつける不正選挙システムは、これを試みて推進しようとする政治勢力の国際的連帯と協力が必要であることを示しています。
投開票不正選挙システムは、特定の政治勢力が掌握した世論調査システムと、選管委の確認拒否及び隠蔽で構成されるものです。
殺人犯を特定できず、殺人事件を陰謀論と言い張る世論作りも、投開票不正選挙システムの一つの軸を構成します。
国民の皆さんがご存じのように、これがわが国の現実であれば、今この状況は危機でしょうか。正常でしょうか。この状況は、戦時、事変に準ずる国家緊急事態ではありませんか、違いますか。
戦時と事変が、わが国の国土空間の上で起こる物理的な状況、つまりハードウェアの危機状況であるとすれば、今の私たちの現実は、韓国のオペレーティングシステムとソフトウェアの危機状況なのです。
憲法66条では、大統領は国家元首として国家を代表し、国家の独立、領土の保全、国家の継続性と憲法を守る責務を負うとされています。
簡単に言えば、大統領に大韓民国のハードウェアを守り、オペレーティングシステムとソフトウェアを守るという責務を与えたのです。
巨大野党が国会独裁を通じて立法と予算を封鎖し、国政を麻痺させ、違憲的な法律と国益に反する非正常的法律を乱発して政府に対する不満と国論分裂を助長し、数十回の続けざまの弾劾で過失のない高位公職者の職務を停止させ、さらには自分たちの不正を捜査し、監査する検事と監査院長まで弾劾し、自分たちの不正を覆いかくす防弾立法をしゃにむに推進する状況は、大韓民国のオペレーティングシステムの亡国的危機であって、大統領はこのオペレーティングシステムを守る責任があります。
私は憲法機関である監査院長まで弾劾し、同じ憲法機関である憲法裁判所の法廷に立たせようとするのを見て、憲法を守る責務を履行するための非常措置が必要だと考えました。
巨大野党の一連の行為が戦時、事変に準ずる国家非常事態と判断し、大統領に独占的・排他的に付与された非常戒厳の権限を行使することにしたのです。
戒厳は、過去、戦争に備えるためのものに限られてきましたが、わが国の憲法は「これに準ずる国家非常事態」と規定し、戦争以外のさまざまな国家危機状況を戒厳令発動状況として想定しています。
国家危機状況において、自由民主国家の大統領が最初にすべきことは、主権者である国民に国家危機状況を知らせ、これを克服するために努力しようと訴えることです。
国家危機状況を軍と独裁的行政力だけで突破するのではなく、主権者である国民と状況を共有し、国民の協力を受けて突破しなければならないのです。
戒厳という言葉は、状況の厳しさを知らせ、警戒するという意味ではありませんか。
私は、わが国の自由民主主義と国民主権が危機状況であることをきちんと認識できない国民たちに、状況の危急性を知らせ、主権者である国民たちに目を開かせ、国会独裁の亡国的悪事を監視、批判させることにより、自由民主主義と憲法秩序を守ろうとしました。
それで国防部長官に、国会独裁を知らせ、秩序を維持するため、そして不正選挙稼働システムを国民たちに適切に知らせ、真相を把握するため、必要最小限の兵力投入を指示し、国会280人、選管委に290人の兵力が投入されたのです。
国会に投入された280人の兵力は国会前広場に待機し、またそして選管委に投入された兵力は数十人のデジタル要員だけが内部システムに接近し、残りは外部に待機し、戒厳宣布後2時間30分で国会の戒厳解除要求の議決があるとすぐに撤収し、一人の死傷者も被害なく、平和裏に終わりました。
国民の皆さん、戒厳は犯罪ではありません。戒厳は国家危機を克服するための大統領の権限行使です。
ですので、大統領の権限行事を補佐するため、合同参謀本部に戒厳課があるのです。
「戒厳=内乱」という内乱狩りフレーム攻勢で、私も弾劾訴追され、これを準備し実行した国防部長官と軍関係者たちが今拘束されています。本当に呆然とすることです。
兵力投入時間はわずか2時間ですが、2時間の内乱とういうものがあるでしょうか。放送で全世界、全国民に、始めると知らせ、3時間足らずで国会がやめろと言うと兵力を撤収してやめるのは内乱でしょうか。
合同参謀本部と戒厳マニュアルによれば、全国非常戒厳は少なくとも6~7個の師団兵力以上、数万人の兵力使用が前提となっています。
国防部長官は合同参謀本部で作戦部長と作戦本部長を務めた人で、このようなことを知らないはずがありません。
戒厳の形式を借りた対国民の訴えなので、小規模兵力で計画したのです。
国会議員と国会職員などは身分証の確認を経て国会への出入りが行われたため、戒厳解除要求決議案の審議が迅速に進み、本館と広場には数千人の人々がむしろ280人の軍を取り囲んでいました。
軍の撤収指示に従い、軍は広場にいた市民たちに丁重に挨拶して撤収しました。国会の玄関を閉じようとしましたか。あるいは暴動を計画したりしましたか。
最近、野党の弾劾訴追関係者たちが、憲法裁判所での訴追事項のうち内乱罪を撤回しました。
内乱罪が到底成立させられないので、当然の措置をしたのです。ところが内乱狩りで弾劾訴追をしておいて、裁判になってから内乱を取り下げるのなら、詐欺弾劾、詐欺訴追ではないですか。
弾劾訴追後の状況を見ても、これまで長年にわたって民主化運動をしたと自負する政治家たちにお会いしたいです。
しかし、最近多くの国民たちと青年たちがわが国の危機状況を認識し、主権者として権利と責任意識を持つようになったことを見ていると、国民に国家危機状況を知らせ、訴えることがうまくできたと思われ、国民の皆さまに深い感謝を感じます。
私は大統領に出馬する時から、わが国の大統領という地位が栄光の道ではなく荊(いばら)の道であるということをよく知っていました。
しかし、この国の自由民主主義をしっかりと立て直し、自由と法治を無視した全体主義的利権カルテル勢力と戦って、国民たちに主権を取り戻してさしあげると約束したわけなので、自分という個人がどうなっても後悔はありません。
私が独裁をして、政権延長のためにこのように戒厳をするでしょうか。こんな小規模のミニ兵力による超短時間戒厳のことです。
司法の判断がどうなるか私にはわかりませんが、国民の皆さんはこの戒厳が憲法を守り、国家を生き延びさせるためのものであったのかどうかを、よくご存じだと私は信じます。
かつては大統領の独裁に国会議員たちが抵抗して民主化闘争をしましたが、今、世界のどの国の憲政史にも類例のない「なんでも阻止」の国会独裁の悪事に対して、憲法を守る責務を与えられた大統領として当然抵抗して戦わなければならないのです。
国家機能を正常化させ、自由民主主義を守るためです。
捜査権のない機関に逮捕令状が発付され、正常な管轄ではない裁判官買いによって進行し、法律による押収・捜索制限を裁判官が任意に解除する違法・無効の令状が発付され、それを執行するのだといって数千人の機動警察を動員し、1級軍事施設保護区域に無断侵入し、大統領警護官を令状執行妨害で現行犯逮捕しようとする昨今の司法の現実を見ながら、私が26年間経験した法曹界がこのようなものだったのかと、あきれるばかりです。
自由民主主義を軽視する人々が権力の刀を握るとどうなるのか、わが国が今深刻な亡国の危機状況にあるという私の判断は間違っていなかったという苦々しい確信が強まります。
自由民主主義と法治は、コインの表裏をなします。自由民主主義を実現する法治は、形式的法治、小細工の法治ではありません。
こうした法治は、人民民主主義独裁、全体主義国家で自由を抑圧するために悪用される法治です。
法は自由民主主義憲法精神を実現するために作られなければならず、いったん作られた法は多数決の支配ではなく、少数者保護と個人権益保護に徹底を期さなければならないのです。
わが国の左派運動圏も自分たちが主流でない時はこのような法治主義の保護に頼ってきましたが、国会絶対多数議席を占めた後は、実質的な法治より多数決の民主が優先し、法治国家的統制より民主的統制を押し出しています。
私は検察総長時代、民主党政権のこのような無法的悪事をまともに経験しました。こうなると法律家、法曹人は政治権力の手先に転落するのです。
しかし、国民の皆さん、頑張ってください。主権者である国民の皆さんがしっかりした権利と責任意識をもってこれを守ろうと努力すれば、この国の未来は明るく希望があります。
国民の皆さん、ありがとうございます。
同日、尹大統領のフェイスブックには、「国民の皆様へ」という肉筆原稿がアップされたそうです。
これは同日発表された国民向け動画配信とは別物です。こちらは毎日新聞に全訳があるので、そちらをどうぞ(リンク)。
聯合ニュースに載った全文を拙訳で紹介します。(長いです)
聯合ニュース1月15日(リンク、韓国語)
[全文]尹、逮捕令状執行後、「国民の皆様へ」公開
国民の皆様へ
国民の皆さん、明けましておめでとうございます。乙巳(きのとみ)の新しい年に慶びの多いことを願っています。私は昨年12月14日に弾劾訴追されてから、一人で考える時間を多く持つようになりました。皮肉なことに、弾劾訴追されてみると、今こそ私が大統領だなという気がします。
26年の公職生活、8か月の大統領選挙運動、当選と政権引き継ぎ、大統領就任… 。就任後、夜明けから夜遅くまで、夢中で仕事に明け暮れると、私が大統領だということを考える暇もなかったようです。
公職人事、選挙公約と国政課題、懸案と危機管理など、外交、安保、経済、社会問題を本当に真剣に悩んで議論し、難しい決定をしなければならないことが多かったです。
私は学生時代から、「能力は努力」という考えで生きてきたので、とにかく懸命に、全力で働いてきました。
大統領らしく権威も持って休息したらどうかと助言する方もたくさんいらっしゃいましたが、就任後、国内外の事情が厳しかったのです。
グローバル安全保障とサプライチェーンの危機、物価高、高金利、為替レート下落という、海外発の経済危機が迫ってきました。前政府のポピュリズム(人気取り)政策による国家債務の爆発的増加、不動産政策の失敗で逼迫した家計貸付問題、所得主導成長政策による最低賃金引き上げにともなう自営業者と小商工業者、中小企業の経営悪化と貸付金問題などは、経済危機を克服するのを困難にしました。
しかし、国民の皆さんが難しい状況にもかかわらず私と政府を信じてついてきてくださったおかげで、着実に懸案と危機を解決していくことができました。
懲罰的課税政策をやめ、市場原理に忠実に不動産政策を進めた結果、住宅価格を安定させることができ、グローバル中枢国家外交と経済をつなげ、海外市場を開拓して輸出に努めた結果、昨年、過去最高の輸出実績を達成し、人口がわが国より2.5倍の日本にほぼ追いつきました。一人当たりGDPは、昨年日本を上回りました。
韓米同盟の核基盤のアップグレードと包括的戦略同盟の強化、そして韓日関係の正常化を通じた韓米日三国協力体制は、韓国経済の信認度をしっかりと支えてくれました。
今になって、安保と経済、そして社会改革のために駆け回った2年半という時間が走馬灯のように頭を巡ります。
もっと賢く、もっと傾聴して、よりよくやりとげるべきだったのにという後悔も多いです。
大統領選挙の期間、そして就任後2年半の時間を振り返ってみると、力不足の私を信じ応援してくださった国民一人一人の顔が思い浮かび、疲れた体を引きずって早朝から仕事を始める方々、寒い朝、未来のために学生かばんをしょって出かける生徒たち、貧しい中、病気の体で苦しんでいる方々への思いがよぎります。お会いして助けることができず、切ない気持ちです。
一生懸命働いてきたのに、このように職務停止状態になって初めて「私が大統領だな」と考えるようになったのは、こうした無念さのためではないかと思います。
今回の職務停止が、私の公職生活における4度目の職務停止です。検事として1回、検察総長として2回、合わせて3度の職務停止を受けました。
私の周りの人々は私に、適当に妥協して少し容易な道を探さないのは愚かだと言います。
愚かな選択の結果、職務停止になってみると、親しい人が背を向け、孤独を感じたケースもありますが、時間が経つと誤解も解け、多くの方々の応援と励ましが力になりました。
いつも変わらぬ私の愚かな決断のもとにあったのは、私の自由民主主義と法治主義に対する変わらない信念でした。
自由民主主義ではない民主主義は偽物の民主主義であり、民主主義の名前を借りた独裁と全体主義です。民主主義は個人の自由を守るための制度であり、自由民主主義は法治主義を通じて実現されるものです。
また、わが国のすべての人々の自由が共存できるための方法が、まさに法治です。法治は、自由を尊重する合理的な法と公正な司法官によって実現されます。法治主義は自由民主主義の核心です。
自由民主主義は経済において自由市場経済原理と結合し、自律と創意を通じて私たちの繁栄を成し遂げ、豊かな福祉と連帯の財源を作り出し、繁栄の好循環を作り出します。
わが国には天然資源はありませんが、優れた人的資源があり、開放的で活発な国際交易を通じて発展してきました。
今日、世界は安保、経済、原材料サプライチェーンなどで、すべての国が互いに複雑な関係を築いています。わが国の繁栄を持続し、将来の世代に引き継ぐためには、自由と法治の価値を共有する国々との連帯が特に重要です。
もちろん、わが国に敵対的な攻撃をしかけてこない国々とは、体制と価値が異なっても、相互尊重と共同利益の追求という現実的な面で協力しなければなりません。
しかし、体制と志向する価値がわが国と異なり、わが国に敵対的な影響力を及ぼして攻勢をかけてくる国々に対しては、常に警戒しながらわが国の主権を守り、主権が毀損されないようにしなければなりません。
外部の主権侵奪勢力の敵対的影響力を及ぼす工作を、常に警戒しなければならないのです。そうしてこそ、そのような勢力の影響力を遮断し、わが国が見くびられることなく、相互尊重と共同利益を実現できるのです。
私たちが警戒し、気をつけてこそ、共同繁栄と平和を享受できるのです。
第二次世界大戦以降、国連が設立され、いかなる理由であれ紛争を軍事攻撃と戦争で解決することは国際法上禁止され、防衛目的以外の戦争は禁止されました。
武器を使って血を流す軍事攻撃と戦争の挑発は国際法上禁止されたので、強大国といえども外交上の大きな負担になり、武器を使わない灰色地帯戦術が広く使われるようになったのです。
虚偽の扇動による心理戦、政治家の買収と選挙介入などの政治戦、デジタルシステムを攻撃するサイバー戦、軍事的な威嚇を裏付けに脅すハイブリッド戦術が広く使われるようになったのです。
国家機密情報や核心産業技術情報の奪取などの情報戦も、ハイブリッド戦に含まれます。したがって、現代の新しい安全保障は、軍事政治安保を超えて、経済安保、保健環境安保、エネルギー食糧安保、尖端技術安保、サイバー安保、災害保安など、非常に包括的で多様です。
軍事政治安保には、情報保護、保安と各種影響力工作の遮断が含まれます。軍事挑発と戦争は、相手国の主権を侵奪する政治行為ですが、国際法が禁止する軍事挑発と戦争を行わず、攻撃と責任主体も明確でないさまざまな灰色地帯ハイブリッド戦を主権侵奪の手段として使用することです。
特に、権威主義的独裁国家、全体主義国家は、体制維持のために周辺国をはじめとする多くの国々を属国ないし影響圏に置こうとしています。国内政治勢力の内部で、外部の主権侵奪勢力と手を握れば、彼らの影響力工作の助けを借り、政治権力を獲得するのに有利です。
しかしそれをタダで手に入れることはできません。わが国の核心的な国益を提供しなければなりません。国家機密情報、産業技術情報だけでなく、原発のようなエネルギー安保や産業競争力などを提供し、さらに自由の価値を共有する国々との連帯を崩壊させ、自ら外交の孤立化をもたらします。国益に明らかに反する反国家行為をするのです。
このような勢力が執権与党になっている時だけでなく、国会議席の多数を占有した巨大野党になる場合も、国益に反する反国家行為は継続されます。
強大な国会権力と国会独裁で立法と予算封鎖を通じ、執権与党の国政運営を徹底して封じ、国政を麻痺させます。
与野党間の政治的意見の違いと牽制と均衡というレベルを超えて、反国家的な国益放棄強要と国政麻痺、憲政秩序崩壊を押し付けます。
これはよその国の話ではありません。まさに大韓民国の現実です。
どんな政治勢力であっても、有権者の監視に置かれ、無道な悪事を続けることは難しいのですが、選挙操作によっていつでも国会の議席を計画どおりに占めることができたり、行政権を手に入れることができたりすると自信をもてば、できないことは何もないでしょう。
わが国の選挙では、不正選挙の証拠があまりにも多いのです。これを可能にする選挙管理委員会のでたらめなシステムもすべて明らかになりました。特定の人を名指しして不正選挙を処罰するには証拠が足りないからといって、不正選挙を陰謀論だと一蹴することはできません。
刀で切られ死んだ遺体が多数発見されたが、殺人犯を特定できなかったため、殺人事件ではなく正常な自然死だとは言えないのです。
正常な法治国家なら、捜査機関に積極的な捜査を依頼し、みなが協力して犯人を探さなければならないのです。
選挙訴訟の投票箱の票検査で途方もない偽の投票紙が発見され、選管委の電算システムがハッキングと捏造に無防備であり、正常な国家機関電算システムの基準に遠く及ばないのに、これを是正しようとするいかなる努力もしないだけでなく、発表された投票者の数と実際の投票者の数が一致するかどうかの検証と確認を拒否するというのなら、総体的な不正選挙システムが稼働していたということになります。
これは国民の主権を盗む行為であり、自由民主主義を崩壊させる行為です。
自由民主主義と法治主義を目指す正常な国であれば、選挙訴訟でこれを発見した大法官と選管委が捜査依頼をし、捜査に積極的に協力して、このような不法選挙行為が起きたかどうかを徹底的に確認しなければならないのです。それにもかかわらず、これを隠蔽しました。
殺害された遺体は多く発見されたが、被害者の家族に誰が犯人かを立証する資料を探しだして訴えさせ、処罰が確定しない限り、殺人事件を云々することを陰謀論と攻撃するなら、これが国家だと言えるでしょうか?
デジタルシステムと偽投票紙投入などからなる不正選挙システムは、ある国の経験のない政治勢力が一人で独自に試みて推進できることではありません。うっかり摘発されると、政治勢力が崩壊する可能性があります。一人では思いもよらないことです。あるとしてもせいぜい金品提供、利権取引、世論操作などでしょう。
しかし、投開票の不正と世論調査の捏造を結びつける不正選挙システムは、これを試みて推進しようとする政治勢力の国際的連帯と協力が必要であることを示しています。
投開票不正選挙システムは、特定の政治勢力が掌握した世論調査システムと、選管委の確認拒否及び隠蔽で構成されるものです。
殺人犯を特定できず、殺人事件を陰謀論と言い張る世論作りも、投開票不正選挙システムの一つの軸を構成します。
国民の皆さんがご存じのように、これがわが国の現実であれば、今この状況は危機でしょうか。正常でしょうか。この状況は、戦時、事変に準ずる国家緊急事態ではありませんか、違いますか。
戦時と事変が、わが国の国土空間の上で起こる物理的な状況、つまりハードウェアの危機状況であるとすれば、今の私たちの現実は、韓国のオペレーティングシステムとソフトウェアの危機状況なのです。
憲法66条では、大統領は国家元首として国家を代表し、国家の独立、領土の保全、国家の継続性と憲法を守る責務を負うとされています。
簡単に言えば、大統領に大韓民国のハードウェアを守り、オペレーティングシステムとソフトウェアを守るという責務を与えたのです。
巨大野党が国会独裁を通じて立法と予算を封鎖し、国政を麻痺させ、違憲的な法律と国益に反する非正常的法律を乱発して政府に対する不満と国論分裂を助長し、数十回の続けざまの弾劾で過失のない高位公職者の職務を停止させ、さらには自分たちの不正を捜査し、監査する検事と監査院長まで弾劾し、自分たちの不正を覆いかくす防弾立法をしゃにむに推進する状況は、大韓民国のオペレーティングシステムの亡国的危機であって、大統領はこのオペレーティングシステムを守る責任があります。
私は憲法機関である監査院長まで弾劾し、同じ憲法機関である憲法裁判所の法廷に立たせようとするのを見て、憲法を守る責務を履行するための非常措置が必要だと考えました。
巨大野党の一連の行為が戦時、事変に準ずる国家非常事態と判断し、大統領に独占的・排他的に付与された非常戒厳の権限を行使することにしたのです。
戒厳は、過去、戦争に備えるためのものに限られてきましたが、わが国の憲法は「これに準ずる国家非常事態」と規定し、戦争以外のさまざまな国家危機状況を戒厳令発動状況として想定しています。
国家危機状況において、自由民主国家の大統領が最初にすべきことは、主権者である国民に国家危機状況を知らせ、これを克服するために努力しようと訴えることです。
国家危機状況を軍と独裁的行政力だけで突破するのではなく、主権者である国民と状況を共有し、国民の協力を受けて突破しなければならないのです。
戒厳という言葉は、状況の厳しさを知らせ、警戒するという意味ではありませんか。
私は、わが国の自由民主主義と国民主権が危機状況であることをきちんと認識できない国民たちに、状況の危急性を知らせ、主権者である国民たちに目を開かせ、国会独裁の亡国的悪事を監視、批判させることにより、自由民主主義と憲法秩序を守ろうとしました。
それで国防部長官に、国会独裁を知らせ、秩序を維持するため、そして不正選挙稼働システムを国民たちに適切に知らせ、真相を把握するため、必要最小限の兵力投入を指示し、国会280人、選管委に290人の兵力が投入されたのです。
国会に投入された280人の兵力は国会前広場に待機し、またそして選管委に投入された兵力は数十人のデジタル要員だけが内部システムに接近し、残りは外部に待機し、戒厳宣布後2時間30分で国会の戒厳解除要求の議決があるとすぐに撤収し、一人の死傷者も被害なく、平和裏に終わりました。
国民の皆さん、戒厳は犯罪ではありません。戒厳は国家危機を克服するための大統領の権限行使です。
ですので、大統領の権限行事を補佐するため、合同参謀本部に戒厳課があるのです。
「戒厳=内乱」という内乱狩りフレーム攻勢で、私も弾劾訴追され、これを準備し実行した国防部長官と軍関係者たちが今拘束されています。本当に呆然とすることです。
兵力投入時間はわずか2時間ですが、2時間の内乱とういうものがあるでしょうか。放送で全世界、全国民に、始めると知らせ、3時間足らずで国会がやめろと言うと兵力を撤収してやめるのは内乱でしょうか。
合同参謀本部と戒厳マニュアルによれば、全国非常戒厳は少なくとも6~7個の師団兵力以上、数万人の兵力使用が前提となっています。
国防部長官は合同参謀本部で作戦部長と作戦本部長を務めた人で、このようなことを知らないはずがありません。
戒厳の形式を借りた対国民の訴えなので、小規模兵力で計画したのです。
国会議員と国会職員などは身分証の確認を経て国会への出入りが行われたため、戒厳解除要求決議案の審議が迅速に進み、本館と広場には数千人の人々がむしろ280人の軍を取り囲んでいました。
軍の撤収指示に従い、軍は広場にいた市民たちに丁重に挨拶して撤収しました。国会の玄関を閉じようとしましたか。あるいは暴動を計画したりしましたか。
最近、野党の弾劾訴追関係者たちが、憲法裁判所での訴追事項のうち内乱罪を撤回しました。
内乱罪が到底成立させられないので、当然の措置をしたのです。ところが内乱狩りで弾劾訴追をしておいて、裁判になってから内乱を取り下げるのなら、詐欺弾劾、詐欺訴追ではないですか。
弾劾訴追後の状況を見ても、これまで長年にわたって民主化運動をしたと自負する政治家たちにお会いしたいです。
しかし、最近多くの国民たちと青年たちがわが国の危機状況を認識し、主権者として権利と責任意識を持つようになったことを見ていると、国民に国家危機状況を知らせ、訴えることがうまくできたと思われ、国民の皆さまに深い感謝を感じます。
私は大統領に出馬する時から、わが国の大統領という地位が栄光の道ではなく荊(いばら)の道であるということをよく知っていました。
しかし、この国の自由民主主義をしっかりと立て直し、自由と法治を無視した全体主義的利権カルテル勢力と戦って、国民たちに主権を取り戻してさしあげると約束したわけなので、自分という個人がどうなっても後悔はありません。
私が独裁をして、政権延長のためにこのように戒厳をするでしょうか。こんな小規模のミニ兵力による超短時間戒厳のことです。
司法の判断がどうなるか私にはわかりませんが、国民の皆さんはこの戒厳が憲法を守り、国家を生き延びさせるためのものであったのかどうかを、よくご存じだと私は信じます。
かつては大統領の独裁に国会議員たちが抵抗して民主化闘争をしましたが、今、世界のどの国の憲政史にも類例のない「なんでも阻止」の国会独裁の悪事に対して、憲法を守る責務を与えられた大統領として当然抵抗して戦わなければならないのです。
国家機能を正常化させ、自由民主主義を守るためです。
捜査権のない機関に逮捕令状が発付され、正常な管轄ではない裁判官買いによって進行し、法律による押収・捜索制限を裁判官が任意に解除する違法・無効の令状が発付され、それを執行するのだといって数千人の機動警察を動員し、1級軍事施設保護区域に無断侵入し、大統領警護官を令状執行妨害で現行犯逮捕しようとする昨今の司法の現実を見ながら、私が26年間経験した法曹界がこのようなものだったのかと、あきれるばかりです。
自由民主主義を軽視する人々が権力の刀を握るとどうなるのか、わが国が今深刻な亡国の危機状況にあるという私の判断は間違っていなかったという苦々しい確信が強まります。
自由民主主義と法治は、コインの表裏をなします。自由民主主義を実現する法治は、形式的法治、小細工の法治ではありません。
こうした法治は、人民民主主義独裁、全体主義国家で自由を抑圧するために悪用される法治です。
法は自由民主主義憲法精神を実現するために作られなければならず、いったん作られた法は多数決の支配ではなく、少数者保護と個人権益保護に徹底を期さなければならないのです。
わが国の左派運動圏も自分たちが主流でない時はこのような法治主義の保護に頼ってきましたが、国会絶対多数議席を占めた後は、実質的な法治より多数決の民主が優先し、法治国家的統制より民主的統制を押し出しています。
私は検察総長時代、民主党政権のこのような無法的悪事をまともに経験しました。こうなると法律家、法曹人は政治権力の手先に転落するのです。
しかし、国民の皆さん、頑張ってください。主権者である国民の皆さんがしっかりした権利と責任意識をもってこれを守ろうと努力すれば、この国の未来は明るく希望があります。
国民の皆さん、ありがとうございます。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます