金沢を代表する、文ごう(豪)・「泉鏡花」は、
明治6年、
ここ・あさのがわ(浅野川)のほとりで
生まれました。
「彫金師」の父と、「能楽師」の流れをくむ母の子として、
生まれながらに
美と伝とう(統)へのかんせい(感性)を
そなえていた
きょうか(鏡花)
持ち前のセンスで、和の美しさ
と古式ゆかしさ
に こだわった、
あやしい物語を
つむぎ出しました
多くの作品を次々・生み出した、きょうか(鏡花)ですが、
彼の生まれ育ったところに
来てみると、
なるほど
と思わせるほど、町が 物語のじょうかん(情感)
に
みちています
しかし・・・
それとは別に、彼には、才能としこう(嗜好)を抜きにしても、
どうしても
書かないではいられない、
個人的なテーマ
が
ありました。
それは・・
9才で亡くなった、母へのしぼ(思慕)
と、
少年時代に、
自分を助けてくれた、
やさしい女性たち
の
おもかげです
きょうか(鏡花)は、立場は弱くとも、あい(愛)にじゅん(殉)ずる
女性の
ひたむきさや、
りん(凛)とした強さに あこがれていました
そこに、自分好みの、美しいようし(容姿)が加われば・・
もう、
さいきょう(最強)
それは、ぜひとも!その手で 作品にとどめたい、
「永遠の理想」
と
なったのです・・。
そうした・フェミニズム
は、いっかん(一貫)して
かわらず、
内弟子時代も、
売れっ子作家時代も、
きょうか(鏡花)の作品には、美しく
、
むげん(無限)にやさしい・女性が描かれました
ここに、「鏡花の初恋の人」の シャシン(写真)が あります
。
近所の時計店の娘、
ゆあさしげ(湯浅しげ)
です。
やさしい・ひとみ
、上品なほほえみ
、やわらかな・ほお(頬)
・・
少年・きょうか(鏡花)は、
この年上の幼なじみに
ほれこみ、
彼女がおよめ(嫁)にいった後も、忘れられず、
何度も
彼女をモデルに
小説を
書きました。
そして
そのついぼ(追慕)の念
は、やがて
ちょっと、
行きすぎ
のところまで、
行ってしまいます・・
それは、「鏡花・43歳」の時のこと
所用があって
かえった金沢で、
初恋の人・しげから
お手紙をもらってしまった
ことに
たん(端)を 発します
くすぶる・想いに火がついてしまった
きょうか(鏡花)は、
りえん(離縁)して
実家に帰っていた・しげに
プレゼントをおくり、
うれしくて・たまらない
気もちを、お便り
した
あげく、
しげへのおもいを、小説に 書いてしまったのです
それが、
この、「由縁の女(ゆかりのおんな)」っていう作品
です。
タイトルどおり、「鏡花ゆかりの女たち(妻・いとこ・初恋の人・母etc・・」
が
全員とうじょう(登場)
内容は、金沢に里帰りした主人公が、病にたおれた・初恋の女との
再会を
果たすべく、
あさのがわ(浅野川)の上流の、
「魔所」と呼ばれる
谷に向かう・・
そして、恋する女が、あいする母と ゆうごう(融合)していく幻想に、
コウコツ(恍惚)となる・・・
みたいな、
まんま
自伝とりそう(理想)をもりこんだ
ストーリー・・。
初恋の人の名を耳にした時の、主人公の描写なんて、こうです
「かれの胸は、
さながら川の瀬を縦に、滝となして空に輝く月ながら、
ドと魂に浴ぶる思いがした。
・・生まれて十一に恋知りそめて、
三十年に余る二十年。
寝る間もいつか忘るべき・・。」
初恋の人に、対面し、告白するシーンなんか、こうです
「生命を掛けて申します。
私は生まれました時からの約束のように
貴女を、貴女を恋い、こがれ、慕うんです。
・・・大海の潮と一所に、
片時も、この世の中に、
いや、私に、
貴女という月の 離れたことはありません。
毎夜のように 夢を見ます・・。」
初恋の女から、「奥様いるの?」と聞かれた時なんか
こんなこと・言ってます
「私は女房を持ちました。
しかし、女房は世の一切では ありません。
・・・女房のほかに貴女をお慕い申すのは、
女房と二人して、
月を見ますのも同じです。」
ちょっと、ちょっと
あなたには、東京に、「恋女房」の、すずがいなかった
あなた好みの、芸者あがりの、すずが・・、ししょう(師匠)に逆らってまで
いっしょになった、
「理想の女、魂の理解者」
である、
すず夫人が、
いませんでしたか
・・・クリンたちは、おどろき、また、あきれました。
しん(親)友・チットも、「一人の妻」として、
いつになく
げきど(激怒)。
「
よくまあ、こんなん発表できるわ
すずの気持ち、考えないのかね
憧れの女への想いなんて、
墓場まで持ってけ
すずがいないと、何もできなかったくせに。
愛妻なめんな」
と
ののしった・あげく、
しばらく・考えて、ニヤリ
・・、とわらい、
こんなことを
言いました。
「・・・
鏡花ってさあ、
菌恐怖症で、
ナマモノ食べられなかったんだよね~。
リンゴも、すずに命じて、手が触れないように剥かせたやつしか
食べなかったらしい。
・・・
もし、
私がすずで、
こんな小説発表されたら、
トイレの床をふいた雑巾をなすりつけた・リンゴを
こっそり
食べさせちゃうかも。
フフフ・・」
(ガタガタ・ブルブル・・・
)
「おにいちゃんは、ふるえなくていいんだよ」
(その29、「近江町市場で、ほたるいかソフト素干を買う」に、つづく)