クリンの広場

たまっこくりんのおもいのたけ

「伯爵の釵」泉鏡花の金沢描写~クリン家ドライブ能登半島旅行・18

2017-08-11 | 旅行記

 さて 百万石の中心地に やってきました

金沢じょう(城)です  (となりは兼六園


 金沢じょう(城)の場所には、もともと・一向宗の

「金沢御堂」があった


とか、

けんろくえん(兼六園)のまわり方 だとか・・・

 かいておいてもいいかな、と 思うこともあります。

が、

 これだけ、メジャーな かん(観)光地

 クリンごとき・初めておとずれた者が、いまさら

ガイドブックをなぞったところで、はじまらない 

 ここからは、金沢・一 知名度がある、文ぴつ(筆)家、

 いずみきょうか(泉鏡花)先生に、おでまし・いただき、


先生から、

おしろと けんろくえんの

周辺あんない(案内)を

していただくことに します


 「では、きょうか先生、おねがいいたします「あいよ。」




<泉鏡花「 伯爵の釵」(はくしゃくのかんざし)より、金沢部分・抄録>



舞台:大正時代の金沢

主人公:美人女優「紫玉」



 「 このものがたりの起った土地は、清きと、美しきと、二筋の大川、

市の両端を流れ、

真ん中に 城の天守なお高くそびえ、

森黒く、濠蒼く、

国境の山岳は重畳(ちょうじょう)として、湖を包み、

海に沿い、橋と、坂と、辻の柳、

甍(いらか)の浪の町を抱いた、北陸の都である。


 地方としては、これまで経歴(へめぐ)ったそこかしこより、

観光にあたいする名所が

夥しい、

と聞いて、

中二日ばかりの休暇を、

 紫玉は この土地に居残った。

そして、

一人でそっと、


町中を見つつ そぞろに来た。


 真っ先に志したのは、城の櫓(やぐら)と境を接した、

三つ二つ、

全国に指を屈するという、

景勝の公園であった。

     

 公園の入口に、樹林を背戸に、蓮池を庭に、柳、藤、桜、山吹など、

飛々に 

名に呼ばれた茶店がある。

 紫玉が、いま腰を掛けたのは 柳の茶屋というのであった。

が、

紅い襷(たすき)で、色白な娘が運んだ、

煎茶と煙草盆を袖に控えて、

さまで嗜むともない、

その

伊達に持った煙草入を 手にした時、


「……あれは女の児だったかしら、それとも男の児だったろうかね。」


と思い出したのはそれである。


<紫玉の回想>


  大通りは一筋だが、道に迷うのも一興で、そこともなく、

裏小路へ

紛れ込んで、

低い土塀から瓜、茄子の畠の覗かれる、

荒れ寂れた邸町

一人で通って、


まるっきり人に行合わず。

 

 低い山かと見た、樹立ちの繁った 高い公園の下へ出ると、

坂の上り口に

社(やしろ)があった。


 宮も大きく、境内も広かった。が、砂浜に鳥居を立てたようで、

拝殿の裏崕(うらがけ)には

鬱々たるその公園の森を負いながら、

広前は一面、

真空なる太陽に、礫(こいし)の影一つなく、

ただ白紙を敷詰めた

ありさま……

 

 横に公園へ上る坂は、見透しになっていたから、

涼傘のままスッと鳥居から抜けると、

紫玉の姿は 

色のまま鳥居の柱に 

映って通る。


 ……そこに屋根囲いした、大いなる石の御手洗があって、

青き竜頭から湛えた水は、

且つすらすらと玉を乱して、

颯(さっ)と

簾に噴き溢れる。


その手水鉢の周囲まわりに、ただ一人……

 その稚児が居たのであった。

 「娘さん、町から、この坂を上る処に、お宮がありますわね。」


「はい。」
「何と言う、お社です。」
「浦安神社でございますわ。」

と、片手を畳に、娘は行儀正しく答えた。


「何神様が祭ってあります。」

 「お父さん、お父さん。」と娘が、つい傍に、

蓮池に向いて、

(じんべ)という膝ぎりの帷子で、

眼鏡の下に内職らしい網をすいている半白の父を呼ぶと、

急いで眼鏡を外して、

コツンと水牛の柄を畳んで、台に乗せて、それから向直って、丁寧に辞儀をして、


「ええ、浦安様は、浦安かれとの、その御守護じゃそうにござりまして。水をばお司りなされます、竜神と申すことでござります。」


 「竜神だと、女神ですか、男神ですか。」


「さ、さ。」と老人は膝を刻んで、

あたかも

この問を待構えたように、

「その儀は、とかくに申しまするが、いかがか、いずれとも

相分りませぬ。

 この公園のずッと奥に、真暗な巌窟の中に、一ヶ処

清水の湧く井戸がござります。


古色の夥しい青銅の竜がわだかまって、井桁に蓋をしておりまして、金網を張り、

みだりに近づいては なりませぬが、

 霊沢金水(れいたくこんすい)と申して、これがために

この市の名が起りましたと申します。


これが奥の院と申す事で、

ええ、あなたさまが御意の浦安神社は、

その前殿と申す事でござります。


御参詣を遊ばしましたか。」

 「あ、いいえ。」と言ったが、すぐまた稚児の事が胸に浮んだ。


それなり一時 言葉が途絶える。


 森々(しんしん)たる日中の樹林、濃く黒く森に包まれて

城の天守は

前に聳(そび)ゆる。


 茶店の横にも、見上るばかりの槐(えんじゅ)榎(えのき)の

暗い影が

樅(もみ)楓(かえで)を

薄く交えて、

藍緑の流れに

群青の瀬のあるごとき、

たらたら上あがりの径がある。


滝かと思う蝉時雨。

 光る雨、輝く木の葉、この炎天の下蔭は、

あたかも

稲妻に籠る穴に似て、

もの凄いまで寂寞(ひっそり)した。 …… 」

 




 このあと、主人公「紫玉」は、けんろくえん(兼六園)下で、

こじきぼうず(乞食坊主)

呼び止められ、

 そいつの虫歯を、はくしゃく(伯爵)にもらった

お気に入りのかんざしで

チョッチョッ・・

ちりょう(治療)する


そんな

気色わるいはめに

おちいります・・



そして

その後、

かいい(怪異)が、、


みたいな、ストーリー。


それが、

『伯爵の釵』


です。


 ちょっと・なんかい(難解)だけど、どくとく(独特)のリズムで

よむ人を

むげん(夢幻)の世界に 

ひきずりこむ


きょうか(鏡花)先生の

金沢あんない(案内)・・


一度でも

金沢をおとずれたことの

ある人なら、

まぶたのうらに

各シーンが うかんでくることでしょう・・




「おまかせして、よかったね 「バッチリだったな。」








(その19、「兼六亭で治部そば」に、つづく)






コメント (4)
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