遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

インドネシア、影絵人形劇人形、ワヤン・クレ(2体)

2024年02月23日 | 古面

先回のインドネシアの人形劇、ワヤン・ゴレに引き続いて、やはり、ジャワ島、バリ島で演じられる影絵人形劇、ワヤン・クレで用いられる扁平な人形(ワヤン・クレ)2体です。

クレ(皮)を使ったワヤン(芝居)が、ワヤン・クレなのですね。

右:長さ 49.0㎝、左:48.9㎝(支持棒込み)

扁平な人形は、水牛の皮で作られています(木製の物もあります)。

かなり使い込まれた品で、あちこちに損傷があります。

右の品:

反対側も全く同じ造りです。

全体に細かな穴がたくさんあけられています。これが、影絵劇で絶大な効果を発揮します。

風化して薄くなってはいますが、細かに彩色が施されています。夜の上演ですし、人形は白幕の向こう側で動くので、彩色は本来不要なのですが・・・スクリーンの裏側は、あの世であるとされ、あの世では色の付いた美しい世界が現世では白黒にしか見えない、ということを表すと言われている(Wipipedia)のだそうです。 

人形の中央には、水牛の角で作った棒が固定されています。ボディにそって緩やか曲がりながら、先に行くほど細くなり、上部は曲線になって頭部を固定しています。下端はとがっていて、人形使いが台座に挿して使うこともできるようになっています。

人形の反対側も、まったく同じように水牛の棒がクリを固定しています。では、棒は裏と表に一本ずつ使われて、人形を挟み込んでいるのでしょうか。

棒の下方を見ると、棒は二つに割れて、そこに人形が挟まっているではありませんか。ず~っと上まで同じで、頭部をぐるっと固定する細い所まで、すべて二つに割った角なのです。高度な細工です。

この棒のおかげで、人形はしなやかな動きが可能となるのですね。

しかし、激しい動きも多くあります。

耐えかねて、折れてしまったのですね。

右腕は失われています。

腕についていたはずの、二本の竹繰り棒もありません。

 

左側の品についても同じです。

こちらは、衣裳の損傷が酷い。

やはり、棒は折れています。

2本の繰り棒も失われています。

 

このように満身創痍のワヤン・クリですが・・・

光を受けると、がぜん、生き生きとしてきます。

細かな穴も実に効果的。まるで、伊勢型紙です。

人物の表情まで、浮かび上がります。

損傷はほとんどわかりません。

腕飾りも浮かび上がります。

破れた衣服にもそれなりの風情が。

貴婦人の役柄なのでしょうか。

全部見えてしまわない分、想像力がかき立てられます。

影絵の魅力ですね(^.^)

 

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インドネシア、人形劇人形、ワヤン・ゴレ(5体)

2024年02月21日 | 古面

先回のブログで、インドネシアの仮面劇、ワヤン・トペンで使われる仮面を紹介しました(この仮面のことも、ワヤン・トペンと呼ぶ)。

インドネシアでは、人形劇も非常に盛んです。扁平な人形を使った影絵芝居(ワヤン・クリ)と通常の人形劇(ワヤン・ゴレ)とに大別されます。

今回紹介する品は、ワヤン・ゴレで使用された人形です。

なお、ワヤンは元々、「影」の意味でしたが、「劇、芝居」を表すようになりました。したがって、ワヤン・トペンは、トペン(仮面)を用いた芝居となります。

ワヤン・ゴレは人形劇、さらには人形劇で使われる人形を表します。

故玩館には、5体のワヤン・ゴレがあります。

 

大きさ(長さ):53㎝、55㎝、68㎝、71㎝、74㎝。

いずれの人形も、かなり長い間使われてきた物です。

極彩色に塗られていたはずですが、長年の間に、ギラギラが薄れ、我々にもあまり違和感がありません。

どぎつい人形というより、喜怒哀楽を秘めた人間に近いものになっている感じがします。

衣裳はいろいろですが、この人形はジャワ更紗をまとっています。あちこちに穴があき、ほころびが目立ちます。

人形の動きを生み出すのは、肩と肘の関節。

掌に付けた細長い竹棒(40㎝ほど)で動かします。

首はスポンと抜けます(人形殺人事件ではありません(^^;)

胴の中は刳り貫いてあって、そこへ太い棒が通り、首を挿す様になっています。

棒の下部を回せば、顔が動きます。

人形遣いの手は二本しかないのに、どうやって3つを動かすのでしょうか。人形使いは、人形の首下につけた主軸棒を左手でもち,右手で人形の両手につけた棒を自在に操るのです。すごい技ですね。

また、心棒の先は尖っています。これを、舞台下の台座に挿して固定することもできます。

ワヤン・ゴレは、人気の高い伝統演劇ですから、上演頻度も高く、かなり洗練されたものでしょう。一度、現地で見たいですね。

骨董の世界では、土俗的な物はずっと素通りしてきました。しかし、戦前、世界を股にかけて活躍した大骨董商、山中商会の目録に、インドネシア人形劇の人形が載っていました。今回の品によく似ていたと思うのですが、例によって、行方が知れません(^^;  探し出せたらまた、報告します。

 

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古面46 インドネシア仮面劇、ワヤン・トぺン

2024年02月19日 | 古面

引き続き、インドネシアの仮面です。

 

幅 15.6㎝x 長 18.3㎝ x 奥 15.7㎝。重 192g。インドネシア(ジャワ島、バリ島)。20世紀前半。

インドネシアのジャワ島、バリ島で行われている古典仮面劇で使われる面です。ワヤン・トペン(仮面劇)呼ばれる民衆芝居は、12世紀か、それ以前からジャワ島で行われてきたもので、その後、バリ島へも伝わりました。

役柄に応じて、非常に多くの種類の面があります。そのうちの一枚(名称不明)です。

見る角度によって、表情が変わります。喜怒哀楽など、劇の要素を満たすことができそうです。

これまで紹介してきたエスニックな仮面の多くには、おどろおどろしい形相で、人間を超えた霊的な力を備えたいとの願望がこめられていました。

ところが、今回の仮面は人間の顔です。誇張はあるものの、目、鼻、口、髪、眉、髭など、人間の特徴を備えています。

表側は、鑿跡が残らないよう、きれいに磨かれ、その上に白、黒、肌色の彩色が施されています。裏側は深く彫られ、面をつけた時に安定するようになっています。大きな丸い目の下に、切れ込み(演者のための目)がいれてあります。演者は声を出さないので、口穴は開いていない物が多いです。

薄く作られており、軽いので、面を被って演技をするのに向いています。

完成度の高い面と言えます。

大きさや重さも、日本の能面とよく似ています。

面の下側が水平になっていて、

直立します(何か意味がある?)。

長い間、使い込まれたのでしょう。

パカっと二つに割れたのをくっつけてあります。

顎の部分が一部、凹形に切れ込まれています。

よく見ると鎹のような金具で留めてあります。割れが広がらないようにしているのでしょう。

ところで、この凹は何のためにあるのでしょうか。

インドネシアの仮面芝居では、演者は声を発しません。音楽と語りによって、劇は進行します。人形浄瑠璃の人形のかわりに、仮面をかぶった人間が演じる人間浄瑠璃なのですね(^^;

トペンでは、この凹部木片などを差し込み、それを口にくわえて面を顔に固定するのです。日本にも、祭礼に使われる面では、口に咥える物があります。一方、バリ島では、ゴム紐を使って被ります。

今回の面には、両耳の下にも小さな穴があいています。凹と穴の両方があるのです。

ジャワとバリの共通仮面??(^^;

能は世界最古の舞台演劇と言われてきました。

しかし、インドネシアの仮面劇に席を譲らねばならないかも。

猿楽まで遡れば、能が勝ち?

ところが、トペン劇のルーツも相当古そう。

簡単に勝負はつきそうもありません(^.^)  

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古面45 蘭陵王面はガルーダ!?

2024年02月17日 | 古面

今回の品は、日本の舞楽で使われる蘭陵王面(レプリカ)です。

先回のブログで、インドネシアの霊鳥、ガルーダを取り上げました。そして、元々、インドのヒンドゥー経の聖鳥が長い年月の後、インドネシアに渡ってガルーダとなり、さらに仏教に取り入れられて守護神、迦楼羅と変化してきたことを述べました。

日本では、迦楼羅像の他に、古代に大陸から伝わった伎楽で使われる迦楼羅面が知られています。

迦楼羅面(東大寺、重要文化財)

これは後に烏天狗面へと変化していきました。

一方、伎楽の後、日本独自の舞踊として、舞楽が興りました。舞楽に用いられる仮面の中でも、飛びぬけて特異な物が蘭陵王面(羅陵王面、陵王面)です。

幅 20.2㎝x 長 34.5㎝ x 奥 15.2㎝。重 712g。木粉-樹脂製。現代。

蘭陵王は、よく演じられ、我々には馴染み深い舞楽です。

『仮面の美』(熱田神宮、平成16年)

名古屋の熱田神宮での大規模な展示会の図録です。熱田神宮も古面を多く所蔵しています。

蘭陵王面はどうして生まれたのでしょうか。一説によれば、この面は、たぐい稀な美男であった北斉の蘭陵王長恭が、兵士達を鼓舞するために醜い面をつけて戦いにのぞんだという故事に由来しているとのことです。

事の真偽はさておき、この面は日本の仮面の中でも、飛びぬけて奇怪です。

醜い顔にくわえて、

吊り顎がブラブラ動きます(本来は、眼も動く)。

今回の品はレプリカですが、経年の剥げなども表現されています。

いったいこの品は何でできているのでしょうか。木製にしては重いし、質感も冷たい。

片隅に傷をつけて(^^;  顕微拡大してみました。

表面の黒塗料の下に赤塗料、その下は白粉が塗られています。奥に見えているが本体。どうやら、木の粉を糊か樹脂で固めてあるようです。水で濡らしても軟化しませんから、樹脂ですね。触感はひんやり、木にしては重い、という手取り感覚がうなずけます。

面の裏側には、粗い布(麻?)が貼り付けてあります。どうやら、乾漆の面を模しているようです。確かに、古代の伎楽面には、木造の他に乾漆造の物があり、裏面は布で補強されています。しかし、少し後に興った舞楽で用いられる舞楽面は、ほとんどが木彫です。蘭陵王面も当然、木彫。やはり、レプリカの時代考証は、中途半端なのですね(^^;

さて、今回のブログの本題はこれからです。

奇怪な蘭陵王の頭の上には、さらに奇怪な生き物が乗っています。

上の図録の蘭陵王面にも、必ずこの生き物が。

どうやら、生き物がグッと頭をもたげている面(右頁)と這っている面(左頁)とに大別できるようです。

この生き物は龍とされています。龍が王権を象徴しているからです。

しかし、翼を広げた様子は、どうみても龍ではなく、鳥に見えます。霊鳥ガルーダと考える方が自然だと思うのですが・・・・・。

先回の本家、ガルーダと並べてみました。

頭の上の生き物だけでなく、眼が飛び出た顔自体もガルーダ的ですね。こりゃあまるで、ダブルガルーダ(^.^)

2体のガルーダが、

トイレの悪霊を退治してくれるので安心です(^.^)

 

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古面44 バリ島ガルーダ仮面(補遺版)

2024年02月16日 | 古面

ブログをアップした後、なにげなく図録を繰っていたら、天理大学の所蔵品のなかに、故玩館のガルーダと非常によく似た品を見つけました。末尾に追記として載せましたので御覧ください(2024/2/16)。


 

今回は、よく知られた品、ガルーダです。

幅 25.6㎝x 長 20.8㎝ x 奥 26.3㎝。重 672g。インドネシア。20世紀前半。

ガルーダは鳥の姿をしたヒンドゥー教の戦いの神で、神鳥、聖鳥とされています。長い年月を経て、インドから東南アジア、東アジアに広がっていきました。ガルーダは、人間の身体、鷲頭、嘴、鉤爪、大きな翼をもつています。不老不死で、毒のある蛇を退治してくれることから、無病息災、家内安全の神として大変人気があります。
なお、伎楽で使われた迦楼羅面は、仏教に取り入れられて変化したガルーダ面です。

原色で毒々しく彩色された金ぴかのガルーダが、我々が普通に目にする物です。歴史風土の違いを考慮しても、感覚的にはなかなかなじめない人が多いと思います。

今回の品は、古いガルーダ面です。色は退色し、塗りは剥げ、木部の風化がすすんでいます。かなりの年月を経ているので、ケバケバしい感じは全くありません。故玩館の日本の古面に混じっても、それほど違和感を感じません。

戦前に請来された品でしょうか。

手の込んだ彫りです。

長~い舌や入り組んだ牙は、くっ付けてあります。

 

少し小さいですが、被れないことはありません。

が、上部に二つ穴があいているので、壁などに掛けたのでしょう。

なぜか内部にも赤彩色が。

耳も付けてあります。

聖鳥の風格は十分ですね。

 

【追記】

故玩館には仮面関係の書籍・図録類が70冊以上あります。そのうちの一冊、『変貌の道具 仮面』(天理大学、昭和55年)に、今回のガルーダとよく似た面が載っていました。

すべて、天理大学所蔵の仮面です。

この頁は、インドネシア、バリ島の神事劇で用いられる仮面です。

その中の一つを拡大してみると、

ガルーダではありませんか。

しかも、今回の品と非常によく似ています。

赤、黒、白、金泥を用いた彩色も同じです。

図録の解説によると、「バロンとランダ」という神事劇で、悪の魔性、ランダに立ち向かうため、善の象徴、バロンが、いろいろな仮面をつけて踊る場面で使われます。ガルーダ、豚、牛、虎、獅子などです。霊鳥であるガルーダをつけたバロンの舞いは、悪の力と対決するにはうってつけなのでしょう。

故玩館のガルーダも、バリ島で実際に使われた物と思われます。一度、これを被って、悪に立ち向かいたいものです(^.^)

追追記:故玩館には100枚ほどの古面がありますが、素性のわかる品はほんの数枚です。今回のガルーダで一枚増えました(^.^)

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