遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

「どうだ」、それとも「なぁんだ」の巨大埋木細工、仙桃置物

2019年12月18日 | 漆器・木製品

20年位前の話です。大阪で、月一回、ある研究会がもたれ、参加していました。メンバーは10人ほどでしたが、結構な強者(つわもの)ぞろい、その中にどういうわけか弱者(よわもの)の私も。毎回、スピーカーが話題を提供し、それをネタに喧々諤々の議論というわけです。趣旨は壮大。21世紀の新しいオピニオンの創出というもので、季刊、300頁余の雑誌にまとめ、書店で販売していました。

研究会は夕方からで、それまで時間があります。まず、東洋陶磁美術館をみて、そのあと近くの老松骨董街をぶらぶらするのが常でした。同じ骨董街でも、日本橋や青山と違って、さすがに大阪、庶民的です。高級品を扱う店でも、一見してビンボーコレクターとわかる私にも、虫けら扱いではなく、普通に応対してくれます(^.^)

何度もウロウロしているので、この界隈には親しみがあります。ビルの谷間に埋もれている神社やイワクありげな祠を見つけると、何だか得をしたような気になり、チャリ銭をなげ入れ、また、ブラブラ。

この日もあちこち見歩いたのですが、ピンとくるものがありません。今日はダメか・・・細い路地にある、開いているのかわからない店に入りました。いかにも骨董屋然とした主人が一人・・・客はなし。やはり、品物もパッとしません。

ふと上を見上げると、棚の最上段に見たこともない黒い塊が座っているではありませんか。

「あれは売りもんやありまへん」

「ちょっと見せてくれませんか」

「何ですか、これ?」

「埋木や。こんなん後にも先にも初めてや」

「いくらくらいするものなんですか?」

「売りもんやないで、値はないわ。100万出す人もおれば、1000円でもいらんていうのんもおるやろ」

・・・・・・・うーん、こまった。こういう言い方の場合、店主はこちらに値踏みをさせてるいるんですね(^^;)

「三でどうですか?」

「そりゃキツイわ」

「じゃあ、五で」

こういうこともあろうかと、いつもカバンにしのばせている風呂敷に包んで、そそくさと店を出ました。

 

非常に大きくて重い真っ黒な埋木細工の置物です。

凄い存在感です。

 

こちら向き(反対側)が正面でしょう。

長 27.5㎝ x 幅 11.2㎝ x 高 17.8㎝。 重量 3.1㎏。

 

前から

 

上から

 

下から

底が平になっています。

 

枝、葉の部分はかなりしっかり彫られています。

 

 

筋状の疵は、植物由来の品である痕跡でしょう。木目は全く観察できません。

 

 

これは、いったいどういう物だろう。ひょっとして大名道具か?

会議中、机の下に置いた風呂敷包みが気になって仕方がありません。

この日のスピーカーは、国立民俗学博物館名誉館長梅棹忠夫氏。今からすれば晩年に近く、目が不自由でしたが、知的好奇心は旺盛でした。話題は、お賽銭とお布施。さすがに、日本民俗学・文化人類学の泰斗。目のつけどころが違います。朝晩の散歩時の神社へのチャリ銭の投げ入れから始まって、日本の宗教、文化まで幅広く、深いお話でありました。

おー、そういえば今日、普段、神社などにいったこともない私が、大都会の真ん中で、チャリ銭をはたきました。

なるほど、そのおかげで、この品をゲットできたのか・・・・・これからは、骨董漁りに出かける時はチャリ銭をポケットにいれておかねば(^^;)

 

ついに、「どうだ」と自慢できる埋木をゲットできました。

名付けて、「どうだの埋木」。

 

それにしても、この埋木、真っ黒です。今までに見てきた埋木とはずいぶん違います。

石炭?石炭なら細工をするうちに、割れてしまいます。炭化はすすんでいますが、木の性質が保たれているのしょう。  

そこで、ハッと気が付きました。ジェットです。

女性の喪服にあしらわれる、漆黒の宝石(黒玉、黒琥珀)と言われる物です。日本では、ネックレスが一般的です。イギリスのビクトリア女王が、夫君の服喪に際して着用したことで有名になりました。西洋では、mourning jewelryとよばれ、女性のコレクターアイテムのひとつです。

産地は、アフリカ、アメリカ、中国など。しかも通常の埋木と違って、海底から採れるのだそうです(海埋木)。

そこそこの値がするジェットですが、中国産となるとなぜかダラ安。

もし、今回の品が中国産なら・・・・・・・「なぁんだの埋木細工」になってしまいます(*.*;)

 

ところで、これはいったい何の形なのでしょうか?

最初は仏手柑と思ったのですが、どうも違う。

色々調べたところ、中国の故事に登場する幻の果物「仙桃」に行きつきました。

崑崙山に住む女神、西王母が、3000年に一度実を結ぶという仙桃の木を管理し、不老長寿を願う漢の武帝に与えたという故事です。

すると、今回の品は中国製か?当然、ダラ安?

もう少し、お賽銭を気張ればよかった!?

 

気を取り直して、しかるべき所へ置いてみました。

今できの物にはない品格と風格が備わっていると感じるのは欲目でしょうか。

 

 

書の掛け軸と取り合わせてみました。

「どうだ」とか「なぁんだ」なぞにとらわれてはいかんぞ、と諭されているのかも知れませんね。

 

【掛軸 悠】古田紹欽(1911-2010):仏教哲学者。鈴木大拙門、禅の思想を研究。仙厓の研究家としても知られる。

コメント (6)
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