今回と次回は、「いろはうた続き文句酒論餅論」の前編、後編です。下戸から上戸へ、上戸から下戸へ、それぞれ、いろは64文字のいろは歌で意見をするというものです。今回は、「前編 下戸から上戸への意見」です。
いつの時代も、酒にまつわる話は尽きませんね。
いろはうたつヾきもんく酒ろん餅ろん前編
(いろはうた続き文句酒論餅論前編)
○下戸より上戸のかたへゐけんくさ(下戸より上戸の方へ意見草)
い いかに上戸衆ききたまえ(いかに上戸衆聞きたまえ)
ろ ろんハむやくのことなれバ(論は無役の事なれば)
は はやへもがつてんいたされよ(はやへも合点致されよ)
に にが/\しくハさけのくせ(苦々しくは酒の癖)
ほ ほんらやうまでもとりちらし(本領までも取り散らし)
へ へいぜいよろしきひとがらも(平生よろしき人柄も)
と とほうもなきハなまゑひぞ(途方も無きは生酔いぞ)
ち ちへふんべつもかきくもり(知恵分別もかき曇り)
り りはつな人もどんになり(利発な人も鈍になり)
ぬ ぬきミくるひのあぶなさよ(抜き身狂いの危なさよ)
る るいをもとめてよをわかし(類を求めて夜を明し)
を をさへつしいつ日をくらし(抑えつ強いつ日を暮らし)
わ われをあしきとおもへども(我を悪しきと思えども)
か かんにんならずよひつぶれ(堪忍ならず酔いつぶれ)
よ よいとししてもつくさるヽ(よい年しても尽くさるる)
た たわいせうねもあらばこそ(たわい性根もあらばこそ)
【たわい】正体なく酒に酔うこと。
れ れいぎさほうもとりおいて(礼儀作法も取り置いて)
そ そでないことをこねまハし(然で無い事をこね回し)
【然で無い】そでもない。然るべきでない。悪い。不都合な。
つ つねのこヽろハ入レかわり(常の心は入れ替わり)
ね ねしつこじつのむりやりに(捻付故実の無理やりに)
【捻付】<= 捻付ける
【故実】<= 故事付ける
な ないつわらひつくだをまき(泣いつ笑いつクダをまき)
ら らんしゆのはてハけんくわする(乱酒のはては喧嘩する)
む むようのつひへおほきゆへ(無用の費え多きゆえ)
う うとくな人もひんになる(有徳な人も貧になる)
ゐ ゐるいきるいもなくなれば(衣類着類も無くなれば)
の のみたをれとハもふすなり(飲み倒れとは申すなり)
於 おんなハことにミくるしや(女は殊に見苦しや)
く くちはしたなくしやべりつヽ(口はしたなく喋りつつ)
や やさしきこへもたかくなり(優しき声も高くなり)
ま まていな人もどんになる(まていな人も鈍になる)
【まてい】丁寧な、礼儀正しい
け けしからざりし大わらひ(けしからざりし大笑い)
ふ ふぎなる事のいでくるも(不義なる事の出来るも)
こ これミなさけのしわざなり(これみな酒の仕業なり)
江 えひてよろめきかへるさハ(酔いてよろめき帰るさえ)
て てあしを人にひつぱられ(手足を人に引っ張られ)
あ あさましかりしていたらく(浅ましかりし体たらく)
さ ざしきの内乃ありさまハ(座敷の内の有様は)
き きたなしむさやとひと"/\に(汚しむさ宿人々に)
【むさい】不潔な
ゆ ゆびさしそしりにくまれて(指さし誹り憎まれて)
め めひきはな引きらわれる(目引き鼻引き笑われる)
【目引き鼻引き】声を出さずに、目や鼻でで合図して、相手に自分の意志を知らせるさま。
み みハやまひつき内そんじ(身は病付き内損じ)
志 志するときにハこうくわいす(死するときには後悔す)
ゑ ゑきハすこしもなかるべき(益は少しも無かるベキ)
ひ びんぼうするもこれゆへぞ(貧乏するもこれゆえぞ)
も もはやこれからきんしゆして(最早これから禁酒して)
せ せいもんたてヽさかづきを(誓文たてて盃を)
す すきと手にハとるまいと(すきと手には取るまいと)
【すきと】全く(・・・ない)
京 京からつヽしミたもふべし(今日から慎み給うべし)