道歌の掛軸です。
道歌は、道徳的な教えをうたった和歌です。
全体:47.6㎝x109.2㎝、本紙(紙本):44.8㎝x27.8㎝。天保十一年。
山澤道人
身のせまる
鐘とも
しらす(ず)
入逢に
おなし(じ)事して
日をくらし
けり
ササっと髑髏が描かれています。
古来より、入相の鐘は歌に詠まれてきました。新古今和歌集には、いくつかの歌があります。
西行
またれつる入相の鐘の音すなりあすもやあらばきかんとすらん
春の夕暮れに響くもの悲しい鐘の音が、日本人の無常観に合うからでしょう。
能『道成寺』では、シテが最初に次の曲を謡い、邪鬼となって、女の哀しさと人の世の無常をうったえます。
能因
山里の春の夕暮きてみれば入相の鐘に花ぞ散りける
今回の道歌は、寂然の歌を意識してつくられたものと思われます。
けふ過ぎぬ命もしかとおどろかす入相の鐘の声ぞ悲しき
作者の山澤道人については、不祥です。
この掛軸は、美濃の大乗寺にあったものです。
大乗寺は二つあって、どちらかはわかりません。
人々は、お寺でこの道歌に接し、一日の有難さを噛みしめ、心して生きねばなりない、と自省したのでしょうか。