遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

山澤道人『道歌「身のせまる」』

2024年05月03日 | 文人書画

道歌の掛軸です。

道歌は、道徳的な教えをうたった和歌です。

全体:47.6㎝x109.2㎝、本紙(紙本):44.8㎝x27.8㎝。天保十一年。

山澤道人

身のせまる
 鐘とも
  しらす(ず)
   入逢に
おなし(じ)事して
 日をくらし
     けり

ササっと髑髏が描かれています。

 

古来より、入相の鐘は歌に詠まれてきました。新古今和歌集には、いくつかの歌があります。

西行
またれつる入相の鐘の音すなりあすもやあらばきかんとすらん
                       
春の夕暮れに響くもの悲しい鐘の音が、日本人の無常観に合うからでしょう。


能『道成寺』では、シテが最初に次の曲を謡い、邪鬼となって、女の哀しさと人の世の無常をうったえます。 

                  
能因
山里の春の夕暮きてみれば入相の鐘に花ぞ散りける

    
今回の道歌は、寂然の歌を意識してつくられたものと思われます。

けふ過ぎぬ命もしかとおどろかす入相の鐘の声ぞ悲しき

 

作者の山澤道人については、不祥です。

この掛軸は、美濃の大乗寺にあったものです。

大乗寺は二つあって、どちらかはわかりません。

人々は、お寺でこの道歌に接し、一日の有難さを噛みしめ、心して生きねばなりない、と自省したのでしょうか。

コメント (6)
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