私の持っている三輪田米山の書の中で、一番、年老いた時の作品です。
『ちはや布留神乃い可幾尓はふくつも
秋丹ハあへすうつろひ尓々り』 米山八十六翁書
「ちはやふる神のいかきにはふくつも
秋にはあへすうつろひにけり」(紀貫之『古今和歌集』巻五、秋下)
「千早振る神の斎垣に這う葛も
秋にはあえず移ろいにけり」
神社の垣根に生えている生命力の強い葛も、秋の移ろいには逆らえず、木々の紅葉と同じように葉色が変わってしまった
三輪田米山は、88歳まで長生きした人です。今回の品は、最晩年に近い、86歳の書です。以前に紹介した85歳の書『夏衣』に較べると、心なしか、トツトツとした感じが増しています。また、文字の横張りもおとなしくなったような気がします。
最晩年、88歳の書も残されているので、何とか頑張って入手したいと思っています(^.^)
さて、今回の書は、古今和歌集、紀貫之の和歌をしたためた物です。例によって、この歌を艶めいて解釈する説もありますが、ここは素直に、上述の意とするのが良いと思います。
神聖な神社の垣根にまとわりつく葛だから、神の力を得て、いつまでも緑色を保っているはずだ。しかし現実には、秋になると、季節の移ろいには抗しきれず、他の木々や草花と同じように、衰え、色が変わってしまった。
この葛は、神職の家に生れ、星雲の志を持ちながらも、長子として、家と神社を守る道を、ずっと一人で歩まざるをえなかった米山の姿そのものではなかったでしょうか。