ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

租税法講義ノート〔第3版〕準備 24 相続税その1 相続税と贈与税との関係、相続税の性質、納税義務者(1)

2017年09月24日 20時50分53秒 | 法律学

 1.相続税と贈与税との関係

 日本の相続税および贈与税は、いずれも相続税法に規定されている。日本の国税は、ドイツにならい、租税ごとに独自の法律を根拠とするのであるが、その例外が贈与税である。勿論、これには理由がある。贈与税は相続税を補完するものと位置づけられているため、独立した法律ではなく、相続税法において定められているのである。

 相続税は、人の死亡によって財産が移転する機会に、その財産に関連して課される租税である。この機会の典型は法定相続(狭義の相続)であるが、遺贈および死因贈与※※も含まれる。

 ※遺贈とは、単独行為たる遺言によって遺産を処分することをいう。民法第964条は「遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。ただし、遺留分に関する規定に違反することができない」と定め、包括遺贈(遺産の全体またはその何分の1として行う遺贈のこと。同第990条により、包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有する)も特定遺贈(特定の物や権利、または一定額の金銭を与える遺贈をいう)も認める。

 ※※死因贈与とは、贈与者の死亡によって効力を生ずる契約である。単独行為に基づくものでない点において遺贈と異なるが、民法第554条により、原則として遺贈の効力に関する規定(同第991条以下、同第1031条以下)が準用される。

 これに対し、贈与税は、生前贈与によって財産が移転する機会に、その財産に関連して課される租税である。相続税のみが存在し、贈与税が存在しないとすると、生前に財産を贈与すれば相続税の負担を簡単に回避できる。そのために、贈与税が設けられた。贈与税が相続税の補完税としての性格を有するとされるのは、このような歴史的経緯によっている。

 そのため、相続税と贈与税とが共通の取り扱いを受けることもある。財産の評価が典型的である。

 なお、シャウプ勧告は、両税を統一するような累積的取得税の採用を勧告した。実際に採用されたのであるが、3年ほどで廃止された。しかし、両税の統合が世界的傾向となっている。

 

 2.相続税の性質―遺産税か遺産取得税か―

 既に述べたように、相続税は人の死亡によって財産が移転する機会に着目して課される租税である。しかし、相続そのものについての考え方が分かれることもあり、相続税についても制度の組み立て方が分かれ、相続税の性質を分けることになる。

 一つのモデルは遺産税である。これは英米法系のものであり、人が死亡した場合に、彼の遺産を対象として課税する。これは純粋な財産税である。他にもいくつかのタイプが存在するが、いずれにせよ、被相続人の遺産そのものの額に注目している。被相続人が生存している間に蓄積した富の一部を、彼の死亡にあたって社会に還元すべきである、という思考に基づく。次にあげる遺産取得税に対して「富の世代間の継承を歪め」ないという利点を持つのであるが※※、三木義一教授が述べるように、この思考は、結局、被相続人の死亡をきっかけとして過去の所得を把握し、遡及して課税することと変わりがなく※※※、租税回避や租税逋脱などがあったことを前提とするかのような説明にもなっており、かなり問題があるものである※※※※

 ※ここにいう彼は男性も女性も含む。日本における古語の用法である。

 ※※小西砂千夫『財政学』(2017年、日本評論社)75頁。

 ※※※実際に、所得税や財産税などの後払いというような説明がなされることもある。

 ※※※※三木義一『よくわかる税法入門』〔第4版〕(2006年、有斐閣)251頁を参照。三木義一編著『よくわかる税法入門』〔第11版〕(2017年、有斐閣)258頁[奥谷健担当]も、ほぼ同一の内容である。

 もう一つのモデルが遺産取得税であり、日本の相続税法の基本ともなっている。ヨーロッパ大陸法系のものであり、こちらのほうが世界的潮流ともなっている。遺産取得税は、被相続人ではなく、相続人に着目する。相続などの機会によって被相続人の遺産を、いわば不労所得として入手した相続人の担税力に注目するのである。この考え方によると、相続税は所得税の補完税という意味合いを帯びることになる。そうであるならば、所得税として扱ってもよいように思われるかもしれないが、取得財産の評価額が往々にして巨額になることなどから、所得税とは別の体系にしたということになる。

 相続人間の納税負担の公平などに鑑みれば、遺産税方式よりも遺産取得税方式のほうが優れている。大日本帝国憲法時代の相続税は遺産税方式であったが、日本国憲法の下における相続税は、シャウプ勧告を受けて遺産取得税方式に移行した。しかし、1958(昭和33)年改正で、遺産取得税方式を基本としつつも遺産税方式を加味した日本独自の方式に変更された。これは、法定相続分課税方式による遺産取得税方式と言われており、日本国憲法制定後も農村での長子相続が続いていたこと(純粋な遺産取得税方式では長子の納税負担が過度に重くなる)、遺産分割を隠蔽または仮装する例が多かったことから※、遺産についていかなる分割が行われようとも相続税の総額がほぼ同じになるように設計された制度である。ただ、この法定相続分課税方式による遺産取得税方式は、実際の算定がかなり複雑になる上に、不合理な結果を生み出しているのであるが、これについては「25  相続税その2  相続税の課税物件、課税標準および税額の計算」において取り上げる※※

 ※小西・前掲書75頁は、遺産取得税方式が一般的に「相続者を増やすことで税負担を小さくする誘因が働くこと」ものであることを指摘する。

 ※※金子宏『租税法』〔第十八版〕(2013年、弘文堂)536頁においても述べられているように、「平成20年度税制改正の要綱」において純粋な遺産取得税の体系に戻すことが予定されていた。しかし、2009年度からの施行は見送られた。なお、この記述は同書〔第二十二版〕(2017年、弘文堂)にはない。

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