ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

埼玉県議会がインボイス廃止を求める意見書を可決した

2024年12月21日 10時20分00秒 | 国際・政治

 今日(2024年12月21日)に報じられたことですが、これには驚きました。それとともに中途半端にも思えました。朝日新聞社が今日の6時付で「インボイス廃止求める意見書、自民県議団が主導し可決 埼玉県議会」(https://digital.asahi.com/articles/ASSDN3QTPSDNUTNB00BM.html)として報じています。

 昨日の午後、埼玉県議会でのことです。インボイス制度の廃止を求める意見書案が提出され、埼玉県議会自由民主党議員団、埼玉民主フォーラム、日本共産党埼玉県議会議員団、無所属改革の会の各会派、および無所属議員のうちの3氏が賛成し、成立しました。なお、埼玉県議会公明党議員団および無所属県民会議は反対しています。

 意見書では、上記朝日新聞社記事によると「経理事務などが小規模事業者に過大な負担となっていることや、国の支援措置が不十分なことなど」が理由としてあげられています。また、上記朝日新聞社記事の表現を借りるならば「意見書では、エネルギー価格や原材料費の高騰によって小規模事業者などの経営は厳しさを増していると指摘。インボイス制度にかかる負担を求めることができる状況にないとして、『経営の持続化や県内の経済活性化の重要性を考えると、制度そのものを廃止することが最良の策と言わざるをえない』としている」とのことです。付け加えるならば、埼玉県議会自由民主党議員団の白土幸仁政調会長は、おそらく本会議終了後の記者会見か何かの席であると考えられますが「中小企業の負担は政府が思っている以上に大きい。政府への批判ではなく、地方の声を届けるべきだという判断だ」と語ったそうです。

 しかし、記事でも指摘されていますが、自由民主党は政権与党として消費税・地方消費税の税率引き上げやインボイス制度の導入を推進してきました。国レヴェルだけでなく、地方レヴェルでもそうであったはずです。それが、県議会であるとは言え、廃止を求めるという立場にまわったことは、実のところ票田からの反発が大きく、これを受け止めざるをえない状況になったということなのでしょう。

 それだけではありません。実は、現在開かれている埼玉県議会には、インボイス制度廃止の「意見書の提出を求める請願が共産2県議の紹介で先に出されていた。だが、委員会で自民から動議が出て、継続審議になった」とのことでした。つまり、請願の趣旨と意見書の趣旨とは同じものであったということになります。敢えて、という表現がピッタリであると思われますが、埼玉県議会自由民主党議員団は今月12日ひ開かれた議会運営委員会に意見書の案を出しました。この委員会には17人の委員がいますが、埼玉県議会自由民主党議員団が主導した上で「4会派14人の議員の連名」により本会議に提出されたということです。それなら最初から請願の採択に賛成すればよかった話で(これは意見書に反対した議員のコメントとしても掲載されています)、面子なのかな、などとも考えました(あれこれあるのはわかります)。

 記事には意見書に反対した議員の意見も掲載されています。引用しながら紹介しますと、まず、埼玉県議会公明党議員団の萩原一寿議員が本会議で「廃止となると、これまで定着に向けて進めてきたところから一転して困難をきてしてしまうのではないか。廃止ではなく丁寧に現場の声を聞きながら改善を求めていくべきだ」と述べています。また、無所属県民会議の松坂喜浩議員は「負担が増えたとの声は把握している」としつつ「制度廃止は政治への信頼を大きく損ねる。小規模事業者の厳しい経営環境は、エネルギー価格や原材料費の高騰などさまざまな要因がある。県議会は省力化や価格転嫁の支援を国に求め、経営悪化の要因の解消のためにこそ声を上げるべきだ」と述べました。両者の意見は、埼玉県議会が2022年および2023年に「小規模事業者の負担軽減策などを求める意見書」を採択したことと関連があると思われます。

 賛成、反対のどちらにも一理があるでしょう。ただ、肝心なことを忘れてはいけません。

 一つは、インボイス方式の廃止を訴えるのであれば、軽減税率の廃止も訴えることこそ合理的です。インボイスは、消費税の中核と言える仕入税額控除を確実に行うために必要とされます。軽減税率のない、つまり税率が一つしかなければ、インボイス方式でなくても(そう、かつて日本で行われていたアカウント方式であっても)よいかもしれませんが、複数税率となると正確な仕入税額控除が難しくなります。それなら、税率を一つに戻すほうが事業者にとっても楽ですし、消費者も混乱しないでしょう。

 もう一つ、実はこちらのほうが重要なのですが、日本と同じように付加価値税型の消費税を導入している国の圧倒的多数はインボイス方式を採用しており、事業者の規模を問わずインボイス発行業務を行っています。慣れていますし、こなしてきたのです。日本だけは、消費税を導入してから長らくアカウント方式を続けていましたし、最初からインボイス方式を採用できなかったのです。事務負担がどうのこうのという声がこれほど大きく叫ばれているのも日本だけでしょう。

 私は、このブログで何度か、日本人には付加価値税型の消費税を扱うだけの能力がないと書いてきました。残念ながら厳然たる事実であることを、埼玉県議会の意見書採択は示しています。ただ、埼玉県議会は消費税に関する日本国民の無能を自覚していないと思われます。だからインボイス方式の廃止という中途半端な意見書に賛成したのでしょう。

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