ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

第208回国会に衆議院議員提出法律案第53号として出された「民法の一部を改正する法律案」

2022年09月26日 07時00分00秒 | 法律学

 夫婦の氏をどのようにするかは、ここ何十年か議論され続けています。国の法制審議会も、1996年2月26日に決定した「民法の一部を改正する法律案要綱」(以下、法律案要綱)において選択的夫婦別姓制度の採用を打ち出しています。次のとおりです。

 「第三 夫婦の氏

 一 夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫若しくは妻の氏を称し、又は各自の婚姻前の氏を称するものとする。

 二 夫婦が各自の婚姻前の氏を称する旨の定めをするときは、夫婦は、婚姻の際に、夫又は妻の氏を子が称する氏として定めなければならないものとする。

 第四 子の氏

 一 嫡出である子の氏

 嫡出である子は、父母の氏(子の出生前に父母が離婚したときは、離婚の際における父母の氏)又は父母が第三、二により子が称する氏として定めた父若しくは母の氏を称するものとする。

 二 養子の氏

 1 養子は、養親の氏(氏を異にする夫婦が共に養子をするときは、養親が第三、二により子が称する氏として定めた氏)を称するものとする。

 2 氏を異にする夫婦の一方が配偶者の嫡出である子を養子とするときは、養子は、1にかかわらず、養親とその配偶者が第三、二により子が称する氏として定めた氏を称するものとする。

 3 養子が婚姻によって氏を改めた者であるときは、婚姻の際に定めた氏を称すべき間は、1、2を適用しないものとする。

 三 子の氏の変更

 1 子が父又は母と氏を異にする場合には、子は、家庭裁判所の許可を得て、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その父又は母の氏を称することができるものとする。ただし、子の父母が氏を異にする夫婦であって子が未成年であるときは、父母の婚姻中は、特別の事情があるときでなければ、これをすることができないものとする。

 2 父又は母が氏を改めたことにより子が父母と氏を異にする場合には、子は、父母の婚姻中に限り、1にかかわらず、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その父母の氏又はその父若しくは母の氏を称することができるものとする。

 3 子の出生後に婚姻をした父母が氏を異にする夫婦である場合において、子が第三、二によって子が称する氏として定められた父又は母の氏と異なる氏を称するときは、子は、父母の婚姻中に限り、1にかかわらず、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その父又は母の氏を称することができるものとする。ただし、父母の婚姻後に子がその氏を改めたときは、この限りでないものとする。

 4 子が15歳未満であるときは、その法定代理人が、これに代わって、1から3までの行為をすることができるものとする。

 5 1から4までによって氏を改めた未成年の子は、成年に達した時から一年以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、従前の氏に復することができるものとする。」

 しかし、20世紀に提案されたにもかかわらず、現在に至るまで実現していません。

 法律案要綱の中には、21世紀に入ってから民法の改正として実現した部分もあり、例えば、相続分における嫡出子と非嫡出子との差別を撤廃する部分もあり、これは2013年の最高裁判所大法廷決定を経て民法第900条第4号ただし書きの削除として実現しています。その意味において、選択的夫婦別姓制度の採用は残された課題であり続けた訳です。

 このところ、毎年のように改正されている民法ですが、所有者不明土地問題を睨んだ改正は政府・与党の側から積極的に進められるのに対し、親族法の改正はあまり進まないように見受けられます。民法第900条や第733条の場合は最高裁判所大法廷の判決または決定を受ける形での改正が行われましたが、夫婦同姓を定める第750条については最高裁判所大法廷が合憲とする決定を下しています。

 こういう状況にしびれを切らしたということでしょうか、選択式夫婦別姓に関する法律改正案が内閣提出法律案として実現しないからか、第208回国会において、野党側(会派は立憲民主党・無所属、国民民主党・無所属クラブ、日本共産党、れいわ新選組)から衆議院議員提出法律案第53号として「民法の一部を改正する法律案」が提出されました。

 法律案は、次のようなものです(なお、衆議院のサイトから引用したことをお断りしておきます。また、漢数字は原則として算用数字に改めています)。

 

 民法(明治29年法律第89号)の一部を次のように改正する。

 第749条中「第790第1項ただし書」を「第790条第1項(子の出生前に父母が離婚したときに係る部分に限る。)」に改める。

 第750条中「夫又は妻の氏」を「夫若しくは妻の氏を称し、又は各自の婚姻前の氏」に改める。

 第790条第1項中「、父母の氏」の下に「(子の出生前に父母が離婚したときは、離婚の際における父母の氏)又はその出生の際に父母の協議で定める父若しくは母の氏」を加え、同項ただし書を削り、同条第2項を同条第5項とし、同条第1項の次に次の3項を加える。

 2 前項の協議が調わないとき又は同項の協議をすることができないとき(次項及び第四項の場合を除く。)は、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。

 3 子が称する氏を第一項の協議で定める場合において、父母の一方が死亡し又はその意思を表示することができないときは、子は、他の一方が定める父又は母の氏を称する。

 4 子が称する氏を第一項の協議で定める場合において、父母の双方が死亡し又はその意思を表示することができないときは、家庭裁判所は、子の親族その他の利害関係人の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。

 第791条第2項中「父母と」を「父母の双方と」に、「許可を得ないで」を「規定にかかわらず」に改め、「父母の氏」の下に「又はその父若しくは母の氏」を加え、同条第4項中「前3項」を「前各項」に改め、同項を同条第5項とし、同条第3項中「前2項」を「前3項」に改め、同項を同条第4項とし、同条第2項の次に次の一項を加える。

 3 子の出生後に婚姻をした父母が氏を異にする夫婦である場合には、子は、父母の婚姻中に限り、第1項の規定にかかわらず、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その父又は母の氏を称することができる。ただし、父母の婚姻後に子がその氏を改めたときは、この限りでない。

 第810条を次のように改める。

 (養子の氏)

 第810条 養子は、養親の氏(氏を異にする夫婦が共に養子をする場合において、養子が15歳未満であるときは、養親の協議で定めた養親の一方の氏、養子が15歳以上であるときは、当事者の協議で定めた養親の一方の氏)を称する。

 2 氏を異にする夫婦の一方が配偶者の嫡出である子を養子とする場合において、養子は、前項の規定にかかわらず、養子が15歳未満であるときは、養親とその配偶者の協議で定めた養親又はその配偶者の氏(配偶者がその意思を表示することができないときは、養親が定めた養親又はその配偶者の氏)、養子が15歳以上であるときは、当事者の協議で定めた養親又はその配偶者の氏(配偶者がその意思を表示することができないときは、養親と養子の協議で定めた養親又はその配偶者の氏)を称する。

 3 養子が婚姻によって氏を改めた者であるときは、婚姻の際に定めた氏を称すべき間は、前2項の規定を適用しない。

   附 則

 (施行期日)

 第1条 この法律は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、次条の規定は、公布の日から施行する。

 (法制の整備等)

 第2条 政府は、この法律の施行の日までに、この法律を施行するために必要な法制の整備その他の措置を講ずるものとする。

 (経過措置)

 第3条 この法律の施行前に婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、婚姻中に限り、配偶者との合意に基づき、この法律の施行の日から2年以内に、別に法律で定めるところにより届け出ることによって、婚姻前の氏に復することができる。

 2 前項の規定により父又は母が婚姻前の氏に復した場合には、子は、父母の婚姻中に限り、父母が同項の届出をした日から3月以内に、別に法律で定めるところにより届け出ることによって、婚姻前の氏に復した父又は母の氏を称することができる。この場合においては、この法律による改正後の民法第791条第4項及び第5項の規定を準用する。

 [注:上の「3月」は英語のMarchの意味ではなく、3か月のことです。

     理 由

 最近における国民の価値観の多様化及びこれを反映した世論の動向等に鑑み、個人の尊重と男女の対等な関係の構築等の観点から、選択的夫婦別氏制を導入する必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

 

 内容は法律案要綱とほぼ同一と考えてよいでしょう。しかし、与党側で行われている事前審査(何日か前の朝日新聞朝刊においても取り上げられています)のために、選択式夫婦別姓制度は、少なくとも現在の衆議院議員の任期が終了するまで、実現することはないものと思われます。「選択的」という言葉が付されているように、夫婦が同姓にするか別姓にするかはその夫婦が決めればよいだけの話です。

 世界を見渡せば姓(あるいは氏、名字)がないところもありますので(例、アイスランド、ミャンマー、モンゴル)、こうしたところからすれば夫婦同姓か夫婦別姓かなどという議論は馬鹿らしいものと思われるかもしれません(但し、父称などの存在を見落としてはなりませんが)。日本の歴史を見れば、姓を名乗ることができなかった身分があった時代もありますし、天皇から新たに姓を与えられたという事例も少なくありません。


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