英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

アマチュア将棋名人戦

2008-10-04 22:51:30 | 将棋
 先週の土曜日(9月27日)に、アマチュア将棋名人戦が放送されました。実際に行われたのは、8月30、31日、9月1日です。

 準決勝は要所だけを、橋本七段が3位の清水上さんと小川さんとそれぞれを振り返って解説。二局とも、正着のような手がダメで、一見ダメのような手が勝ちをつかむ手だったという本当にギリギリの将棋だったようです。
 決勝は小牧毅さん(埼玉)と稲葉聡さん(兵庫)。これも壮絶な将棋でした。


                  
 後手の稲葉さんが機敏な仕掛けが功を奏したかに見えた。しかし、いろいろ含みを持たせた第1図の△5五角がどうだったのか?図から▲6三歩成と利かせた手がうまく、後手の攻めは孤立した角だけになり、▲6三歩成以下△同銀▲6七金右△7六歩▲6六銀△4六角▲3七銀△7三角▲7六金△3三桂▲6四歩△同角▲6五金…と先手の怒涛の寄り返し。戻って、第1図の△5五角では、普通に△7六歩と取り込んだほうが良かったように思う。
 以後、勝ちを急がず、じっくり押さえ込みを図る小牧さんに対し、後手の稲葉さんが必死に踏みとどまり、何とかくらいつこうとした第2図。若干、怪しい雰囲気が漂い始めていた。
                  
 第2図は△7五歩に▲7七金と引いたところ。▲7七金では▲8五金と取りたいところだが△7三桂がある。
 既にお互い30秒将棋。2図より10秒で△7三桂。当然の▲7四馬のかわしに△7七銀成▲同銀(第3図)と進む。
                  
普通の進行だが、3図で後手の手が見えない。
 「ここで、何か手があるかどうか。ちょっと厳しい局面かもしれない」と橋本七段。それに呼応するように稲葉さんが両手で顔を覆い、そして、天を仰ぐ。相当困っているように見えた。だが、2度顔を左右に振り、ぐっと力を込めて、22秒で△6五桂!(第4図)。
                 
 7七の銀取であるが、タダである。「これは…どういうことですか。ひえぇぇぇ、いや、すごい手です、これは」と橋本七段。対局相手の小牧さんも《ん?なんだこれは?》という表情。そして、すぐに意味を理解したのか、顔色が変わり、手を額にやる。
 ▲6五同馬に△8一金。7一の角を強引に取ってしまった。
「いやあっ、天才ですよ、この手は。すごい手でしたね。これはちょっと浮かばないですね。いやすごい手ですね。よくこんな手が浮かびますね。すごいですね」と絶賛。

 桂をどかせて、そこに金を打って角を捕獲。柔軟な発想だ。しかし、天才というほどすごいのか?意味は理解できたが、この手順の真のすごさが分かるには、私には時間が必要だった。
 つまり、第2図から△7三桂▲7四馬と進んだが、ここで単に△8一金と打つと、▲5二ととされ飛車角交換にはなるが、打った金が取り残されてしまう。
 そこで、第2図より△7三桂▲7四馬に△6五桂として▲同馬とさせてから△8一金と打てばいいように思える。しかし、△6五桂には▲8六金△同歩に▲5二とを決められてしまう。
 よって、第2図より△7三桂▲7四馬に△7七銀成▲同銀(第3図)を決めてから△6五桂(第4図)と跳ねたのだ。
 ちなみに第2図で先に△7七銀成とし▲同銀に△6五桂と跳ねると、小牧さんの棋風を考えると、▲7四馬(次に▲5二とを狙う)ではなく、喜んで▲7五馬と目障りな歩を払う気がする。
 唯一無二の手順だったのだ。これを秒読みの中で編み出す稲葉さんはすごい!また、瞬時に理解する橋本七段もすごい。

 天才手順が炸裂したものの、△8一金以下▲7五馬△7一金▲同とと一段落した第5図は、依然先手優勢。
                 
 30手ほど前に後手が△2二玉と上がった時に、橋本七段が気にしていたのが3四の傷(3四桂を狙われる)。そこを補修して△3四歩。それに呼応して▲7八金!……さすが日本一を争う決勝戦だ。

 その後、後手玉周辺で先手小牧さんの攻め、後手の稲葉さんの凌(しの)ぎと、必死の攻防戦が繰り広げられた。(ここら辺りは長手数となったため、手数のみの放送だった)
 特に、稲葉さんの時には堅く、時には軽く、時には強くという巧妙な受けが徐々に効いてきて、徐々に差が縮まっていく。
                 
 第6図は▲2五桂と金を取ったところ。ここでは先手の包囲網がややほぐれた感がある。ここでの第一感は△3七銀。敵飛車を攻めながら自玉の上部を厚くする味の良い手。
 解説の橋本七段は「これでいいとはいえないけれど、こう指すしか」と解説していた。そこへ飛んできたのは△8六桂!
 自玉に少し猶予ができた今、先手玉を危険な状態にしておく。先手が後手玉を攻めれば、逃げながら4四の桂馬を取り、先手玉がほぼ詰めろになるという仕組み。変な寄せは許さないという強い手だ。
 以下▲3五歩△同玉と進んだところで、「いやあ、天才ですね」と再び絶賛する橋本七段。
 これに対し、▲3七飛。これは小牧さんの力を示した手。後手玉を攻めるのは、飛車より角のほうが良いのだ。そこで、稲葉さんは△4四玉。角を見捨てて、思惑通り桂を手にした。小牧さんは29秒まで読まれて▲4七飛と角を取る。どちらの玉も危険極まりない状態になった。
 橋本七段は「小牧さんが残しているように見える」とのこと。手番は後手の稲葉さんだが、先手玉は詰まない(みたい)。後手玉は詰みそうだ。うまく詰めろ逃れの詰めろか、詰めろにならなくても、攻めながら後手玉の詰めろがはずせればいいのだが、なかなかうまくいかないようだ。(もしかしたら、深く研究すれば後手が勝ちなのかも知れないが、秒読みでは後手が勝ちにくそう)

 ▲4七飛以下、△7八桂成▲同玉△8七銀▲6九玉△6七銀▲5六桂△同銀成▲同歩△3五桂▲1七角△2四銀▲3六銀△4六金▲同飛△同歩▲3五銀……際どいながらも、先手が勝ちそうな形勢。しかし、この後、小牧さんがやや間違えて、詰むかどうかわからなくなる。
                 
 最後の山場の第7図。以下△7四玉▲6三銀投了。最後は持ち駒、2八の飛、7一のと金がすべてが関係してぴったり詰んでしまう。
 しかし、第7図で△6四同玉だったら、後手玉は詰まない。△6四同玉に▲7三銀なら△7五玉で大丈夫だった。
 最後の最後で、大きなミスをしてしまった稲葉さん、無念。それにしても壮絶な将棋だった。
コメント
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