この記事は2009年11月に書いたものです(2010年11月15日現在)。なので田丸氏の記事は今期の竜王戦とは直接関係ありません
なお、「ソフト指し」疑惑の話題から、2ちゃんねるからここにたどり着いた方の中には、プロ棋士についてよくご存じない方が多いと思われるので、補足の記事をアップしましたので、そちらのほうも読んでいただけるとうれしいです。
11月11日号の『田丸の眼』で、驚くべき内容が記されていました。いえ、「驚く」というよりは「呆れる」と表現したほうが適切です。
リポートのタイトルから察せられると思いますが、田丸八段が書かれたものです。第6回なのですが、今まで読んでいませんでした。
で、今回、眼を引いた理由はテーマが「対局で携帯電話、パソコン持参の問題点」とあったからです。
まず、「対局で携帯電話、パソコン持参の問題点」という見出しから、何か引っかかりました。
「~~の問題点」という表現は、「~という現状において、~という問題点がある」。あるいは、「今後~という事態が予想されるが、~という問題点がある」というニュアンスでつけられると私は認識しています。
今回の見出しを、この考えに当てはめると、「現在、対局において携帯電話、パソコンが持参されている現状において、いくつかの問題点がある」。あるいは、「今後、携帯電話、パソコンが持参される中で対局が行われる状況が予想されるが、その場合、いくつかの問題点がある」というニュアンスになります。
まあ、これは、「重箱の隅をつつく」趣が強いです。とにかく、記事を読みましょう。
その記事は
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まず、4年前の棋士会で、小林宏六段が
「対局で携帯電話、パソコンを持参するのは問題ではないかと、私は以前から思っていました。
こうした電子機器を使えば、公式戦の棋譜を検索することができます。表現は悪いですが、対局中いわゆるカンニングも可能です」
と問題提起しました。
そして、これに対して3つの考え方(対処法)を示しました。
①全面的に禁止(持参することを禁止)
②条件付で持参を認める(対局場の管理者が預かる)
③持参を無条件で認める(現状維持、使用を認めるわけではない)
で、翌月の棋士総会の議題にも上がり、「電子機器の持ち込みは原則として止めるべきだ」という意見が多かったが、議論はそれ以上進展せず、理事会一任で継続審議となった。
しかし、その後、棋士会や総会で論議されたことはない。
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悠長というか、怠慢というか…。
いや、将棋道を、そして、棋士を信頼しているのかもしれません。そんな、ずるいことを棋士がするはずないと。
ところが、田丸八段は、この後の文章で、
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私は対局の昼休みに、将棋会館の事務所に保管されている棋譜ファイルをそっと見て、対局中の戦型の参考にしたことが以前にあった。ほんの1、2分の短時間なので、許容範囲だろうと思った。
携帯電話に順位戦の棋譜を検索できる機能が付いたころ、対局の昼食で外出したときに1局だけ見たことがある。そのときは少しばかり後ろめたい気がした。
年をとると記憶力が落ち、自分の将棋さえ忘れてしまうことがよくあるが、ある局面や指し手がわかると思い出せるものだ。
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心の揺れが感じられる文章です。
「許容範囲」だと述べていますが、その一方で「そっと」「ほんの1、2分」という「後ろめたさ」がにじみ出ています。
実際、「参考にした」や「ある局面や指し手がわかると思い出せるものだ」と、その行為によって対局のプラスになっていると自ら認めています。
「許容範囲」としていますが、試験で1、2問カンニングしてもいいわけありません。バスケットボールの「トラベリング」などの「バイオレーション」や、「プッシング」などのファールとは次元が違うのです。ドーピングと同類の不正行為なのです。
また、「年をとると記憶力が落ち」と述べていますが、先達の棋士も年齢による衰えと相対してきたはずで、何の弁明にもなっていません。
さらに、
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対局中に棋譜を調べることは、倫理的に好ましくない行為だと思う。ただ、連盟が定める対局規定では、禁止事項になっていない。それから将棋雑誌を読んだり、他者の棋譜を眺めるのまでは規制できない。棋士たちの良識に任されているのが実情である。
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「倫理的に好ましくない行為」の範疇を超えて、「不正行為」でしょう。
「対局規定では、禁止事項になっていない」って、「書かれてなければ何をしてもいい」と解釈できるということなのでしょうか?「ごみを捨ててはいけない」と書かれていないからといって、ごみを捨てればいいのでしょうか。
電子機器が発達して規制の必要性が出てきたのは、ここ数年のことなので、それに対応しないのは、対局規定の不備なだけです。元理事の言葉とは思えません。
「将棋雑誌を読んだり、他者の棋譜を眺めるのまでは規制できない。棋士たちの良識に任されているのが実情である」
規制は可能でしょう。「その類のことを禁止する」と明文化すればいいだけです。明文化するのが、棋士のプライドを損ねるのなら、総会で確認するだけでもいいと思います。棋士の良識に任せても、確認すれば、自分に対しても、他者に対しても、律しやすくなるはずです。
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対局中に何らかの方法でこうした電子機器を利用できたら、とても力強い武器になる。
電子機器の不正使用は、棋士の存在価値を貶めて自殺行為に当たる。
実力のある棋士や研究熱心な棋士は、そんな手助けが必要ないことは言うまでもない。
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第1文と第3文を合わせて読むと、「電子機器は力強い武器だが、二流の棋士は、力強い武器を使用して、ようやく一流棋士と伍して戦える」と解釈すればいいのでしょうか。(この部分を取り上げたのは、あとの文章に関連します)
「棋士の存在価値を貶めて自殺行為」としていますが、甘いです。「棋士失格」と断言してほしいです。
電子機器ではありませんが、似たような問題はかなり前から存在していたようです。
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約40年前、あるA級棋士と若手棋士の対局で、相矢倉の流行型となった。すると若手棋士は席を外してある棋書を探し当て、トイレの中でひそかに読んだ。その棋書には対局中の戦型が詳細に解説されていた。そして実戦も同じように進み、若手棋士が快勝した。
この「トイレ棋書」の一件は、棋士たちの間にすぐ知れ渡った。大方の騎士は若手棋士を冷やかしたが非難しなかった。そんなことで負けたA級棋士がだらしない、という見方をしたものだった。
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私の誤解かもしれませんが、どうやら、A級棋士と一般棋士とでは、歴然とした実力差があることを、ある年代以上の棋士は認めていて、A級棋士は下位棋士の尋常でない手段に対しても揺るがない存在で、裏を返せば、下位棋士はA級棋士に対しては、ある程度の卑怯な手段は許されると考えていたようです。
さらに
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26年前、連盟理事会は対局中の外出禁止規則を実施した。
食事で外出した若手棋士たちが対局中の局面について、指し手のことでよく話している。将棋会館の近くに住んでいる棋士が対局の昼休みに、自宅で棋譜を調べている。
こうした指摘や噂が、内部から流れた。前者は助言行為、後者はカンニングに当たるというのだ。
私は取るに足らない話だと思った。しかし、理事会は、棋士からの指摘なので無視できなかった。そこで具体的な方策として、対局中の食事は出前か館内食堂でと限定した。対局者の行動を制限することで、疑いをなくそうとした。
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「取るに足らない話」というのは、棋士がそんな卑怯なことをするはずがないからなのか、そんなことでは勝敗に影響があるはずはないというからなのでしょうか?
たぶん、前者だと思いますが、田丸八段もその後、同類の行為を行っていますからね……。
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この外出禁止規則は棋士たちにかなり不評だった。休憩時間に外で食事したり散歩したりして、気分転換を図る棋士が多いからだ。
それから1年後に外出禁止規則は解除され、現在に至っている。
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気分転換などの理由から不評だという気持ちは理解できます。しかし、そういう制限は当然のような気もします。
結局、1年で解除されたわけですが、それでも、「棋士の良識」に任せるのではなく、一度、はっきり制限したのは、そういう行為を実行、あるいは、考えたものにとっては、「してはいけないこと」ということを意識付けるという効果はあったはずです。
あまりがんじがらめで、拘束するのも、対局に影響が出るかもしれませんし、現在では意味のない制限ですね。外出して相談、あるいは棋書を調べるより、電子機器を使った方が、リスクは少ないし、実戦へのプラス作用も大きいからです。特に、詰みに関しての検証能力はかなりの武器です。
やはり、携帯電話を含む手荷物の管理は、連盟職員等が行うべきかもしれません。
また、棋士の良識を信頼するのもいいと思います。その場合は、不正行為が発覚した場合は、厳重な罰則の規定を設けておけばいいと思います。
それにしても、棋士(将棋連盟)は甘いというか、古風というか、それが将棋界の良いところかもしれませんね。
でも、田丸八段は自分を含めて棋士仲間(A級棋士を除く)対して少し甘いと思います。
特に、「1、2分なら許容範囲」「倫理的に好ましくない行為」という言葉は同意できません。