「下流」……
①河口に近い方。川下。
②社会的・経済的に地位の低い階級。下層階級。
タイトルにちょっと引っかかりを感じたので、調べてみました。私の思い込みかもしれませんが、「上流階級」という言葉はよく耳にするけれど、「下流階級」とはあまり言わないような気がします。
実際は、上記のようにしっかり定義されていました。ただ、②の意味だと「下流階級」というと重複表現になるのかなあと思いました。同じような意味の「下層」も「下のほうの階級。下層階級」と定義されています(旺文社「国語辞典」)。ついでに言えば、「下級」も同様な意味・使われ方のようです。
本ドラマの場合、「下層」「下級」より「下流」のほうがしっくり来る気がします。
上流にいても、油断すると流され「下流」になる。また、結局行き着く先は「下流」という意味もあるのかもしれません。
と、いつものごとく、前置きが長くなってしまいました。
実は、この記事を書くに当たって、「いろいろ書くことがあるなあ」と思いつつ、「まとまりそうもないなあ」という危惧もあります。まあ、とにかく書いてみますね。あ、それと、実は、このドラマ、おそらく全体の4割弱しか見ていません。そんな私が記事を書いていいのかなという畏れもあります。
まず、このドラマの
主人公・福原由美子(黒木瞳)について考えてみる。
プライドが高く、自分は上流にいるべき人間で、下流にいるものを忌み嫌い、蔑んでいる。そういう思想を母から教育され、娘や息子にも押し付けてきた。
プライドだけでなく、努力すればそれが結果に結びつくという強い信念を持ち。下級にいるものは努力が足りない結果だと考えている。
ただ、その信念には
「自分たちは特別な上流にいるべき人間で、努力していればその上流にすむことができ、下流にいる人間とは住む世界が違う。下流の人間は努力しても上流にはなれない」という歪みがある。
その歪みが、息子を引き籠もりに追い込み、息子と付き合っていた彼女・宮城珠緒(美波)との結婚も端から認めようとせず、珠緒の家族も全否定だったようだ。
とにかく歪んだ信念・価値観で、更に自己中心。ウィキペディアの
「下流の宴」の項の登場人物の説明では、このドラマの悪の根源のような書かれようである。(福原家の人々は相当ひどく記されているが、由美子は特にひどい)
ただ、部分的にしか観ていないということもあるかもしれないが、私の由美子の印象はそこまでひどくはない。それは、脚本家の腕もあると思うが、演じた黒木瞳さんの演技力……演技力というより、由美子の人格を完全に掌握し、取り込み、それを彼女の個性をフィルターにして昇華させていたからであろう。
私は、黒木瞳さんはタイプではないが(私は女性を「タイプ」とか区別する立場にはないが、女優さんならこういう言い方をしても許されるかもしれない)、そういう自己中心的嫌な女性でも、ユーモラスで憎めず、魅力さえ感じさせてしまうのは、女優黒木瞳の魅力(実力)であろう。
原作者の林真理子さんも、ドラマ化に当たり、「上品な人」を希望したそうで、彼女の出演を非常に喜んだそうです。
もう一人の
ヒロインの珠緒は、由美子にぼろくそに言われるまで、のほほ~んと生きてきたよう。
それが、結婚を反対された由美子に自分を認めさせるため、医大に合格する決意をする。学力と言えるレベルにさえ達していない彼女であったが、意志の強さは人並み以上。かなり険しい道だったが、2年後合格を果たす。
結婚したいという願望と、由美子への意地もあったが、彼女自身は今までしたことのない努力をすることで充実感みたいなものを感じ、頑張った先に何があるのか、頑張ったことで自分が変わり、今までとは違う視界や体験ができるのではないかというようなワクワク感を感じていた。
さて、この二人のヒロイン、翔(窪田正孝)を巡り対立する。もともとは翔と結婚する、認めないという対立であったが、自分の存在の立ち位置(上流か下流か)を懸けた対立でもあった。
まず、自分の立ち位置の対立について。珠緒は1年目は受験に失敗(したらしい)したものの、2年目に見事合格。
この結末は、由美子自身もある程度予測し覚悟していたようで、あれだけ蔑んでいた珠緒に逆に見下される夢まで見てしまう。
これに対し、珠緒は上や下、あっち側こっち側という了見は全く消滅させてしまっていた。「今一番困っている患者さんの役に立ちたい」という思いしかないようで、「住む世界が違う」と蔑まれたことへの復讐の手段としか考えていなかった塾のカリスマ塾長・島田(遠藤憲一)の遥か上の次元になっていた。
珠緒自身は既に「存在の勝ち負け」にはこだわっていないが、この勝負においては珠緒の勝ちで、由美子も珠緒の努力・存在を認め、結婚を許した。
ところが、もうひとつの焦点の「翔との結婚」は果たすことはできなかった。
これには、このドラマのもう一人の重要人物、争点の元と言っていい
翔のぐうたらさによって覆されてしまった。
翔の選択「別れよう」
この翔の選択の解釈は2つできる。
「心から珠緒の合格を喜んでいる。本当にすごい。珠緒は本当に頑張った。でも、それは俺のためではなく、珠緒自身のために頑張ったんだ。
もう俺たち、こんなに離れている。これから、玉緒は医者になるけど、俺はずうっとプーのままだと思う。そしたら、玉緒は俺のこと軽蔑するし、バカにするよ。そういう日が来る。
玉緒は今にきっと、俺に我慢できなくなると思う。
俺の方が、玉緒から離れたいんだ。
俺は、すごく努力したり、すごく頑張る人がダメなんだ。そういう人と一緒に居ると、辛くなってくる。そばにいるだけ、で責められているような気がする。これから、玉緒は医学部に入ってもっと頑張るわけじゃん。そういう仲間も、いっぱいできるわけじゃん。
負け惜しみじゃなくて、そんな風に頑張っている人たちを見て、すごいと思うけど、そうなりたいと思ったことは、ない!。
玉緒と結婚すると、そういう人たちから同情されたり、馬鹿にされたりするわけじゃん。………、そして、玉緒もいつかそういうひとりになる。きっとなるから」
(省きましたが、この間、玉緒は翔の言うことを必死に否定しています)
そして、
「医大なんか行かない。翔ちゃんの方が大事だもん」
とまで言う。
しかし、
「それはダメだ。絶対にダメだよ。そんなの、玉緒が一番分かっているじゃん。玉緒、あんなに頑張ったんだから」
(しばし沈黙)そして、ふうっと大きなため息をついた後
「珠緒はもうあっち側のメンバーなんだ。おれは、ずう~とこっち側だ」
その言葉を聞いて、玉緒は翔の決心が固いことを悟り、
「今までありがとう」とキスをして、走り去る。
翔の真意は?
①言葉通り、玉緒が自分の苦手な人間になってしまい、今後の苦痛が耐えられなくなることを予想して別れた。
②玉緒はずっと変わらず自分を愛してくれるだろう。それ故、自分の存在が玉緒を苦しめ、足を引っ張ってしまうのではないかと危惧した。
最初は①だと思い、玉緒に蔑まれるようになっても、それを甘んじて受け、振られるまで彼女とずっと一緒に居るのが、彼の役目だと力説するつもりだったが、これを書くに当たって、今一度考えると、②のように思えてきた。表情や言葉の間の空き方などに、彼の辛さを感じる。
それに、
「珠緒はもうあっち側のメンバーなんだ。おれは、ずう~とこっち側だ」という台詞は、翔が一番嫌いな言葉なはず。
彼女の純粋さも彼が一番知っているし、玉緒の頑張りを一番感じたのは翔であり、それで彼が変わらないのだったら、あまりにも虚しい。
最初、私が①だと判断した理由は、合格祝いの場で、翔と玉緒のいきさつを説明する際、
「この子は変わりません。この子には分からないんです。自分の人生を切り開くとか、もっと高いところに登ろうとか、そういう一切の努力に意味があるって、思えないんです。
多分、そうさせたのは私です。でも、この子はこの子なりによく頑張った。私は誉めてあげたい。
誰にも心を開かなかったこの子が、玉緒さんにだけは心を開いて、ふたりで手を取り合って、翔は本当に玉緒さんを医大に合格させてあげたかったんだと思います。それが翔の精いっぱいの愛情でした。
それ以上の見返りなんて、この子は欲しがらない。そういう子なんです。
私、やっと分かったんです」
という言葉。これは、後半(合格させてあげたかった)部分は合っている。それ故、私は①だと思ったが、由美子の前半の言葉を聞く翔は非常に悲しそうだった。それは、なじられている悲しさや、そういう自分への悲しさではなく、自分を理解してくれていない母への悲しみのように思えた。
真意はどうであり、息子に対する言葉はひどい。
愚かな母だと思う。息子を理解はしたかもしれないが、あそこまで見切りをつけるのは最低に近い。
結局、息子はフリーター、亭主はリストラで平社員に降格、長女は玉の輿に乗るも結婚が上手くいかず子連れで出戻りと負け組状態。
節約の質素な食卓……下流の食卓……であるが、これはこれで悪くはない様子。
しかも、長女の連れてきた赤ちゃんに将来を託している様子。逞しい。
九州に出かける前の玉緒と由美子が街でばったり会い、口撃の応酬。
由美子「合格おめでとう」
玉緒「ふふっ、それ絶対に嘘でしょう。私のこと、おめでとうなんて思ってないでしょう」
由美子「まあね」
玉緒「(やる気なさそうにしているという翔の様子を聞いて)そういう翔ちゃん、大好きでした」
由美子「うちの翔は、あなたみたいなガツガツした(私のような)女、嫌いだから」
玉緒「二人とも、振られちゃいましたね」
由美子「あなたもよくわかったでしょ。人に頑張らせるのって、自分で頑張るより、よっぽど大変なのよ」
玉緒「ほんと、そうですね」
由美子はもう少し、自分が頑張るべきだと思うが。
(孫に)「あのお姉ちゃんみたいに、しっかり勉強するのよ。人間はね、10努力したら20にも30にもなるの」
変わらないねえ(多少変わったが)。でも、逞しい。
番組ホームページでのメッセージ
理想の家庭を築いたはずが、気がついたら崖っぷち。夫は左遷。娘の就活は失敗。
そしてフリーターの息子が「下流」の娘と結婚宣言!
愛する息子を取り戻すため、「中流家庭」を守るため、専業主婦・由美子の戦いが始まる!
あれだけ努力を強調して、目指すのは「中流」なの?
まあ、もともと、上流には見えないけれど。