理解し難い殺害動機だった……
直近の“夜明け前の殺人”……朱美の叔父・陽平(大高洋夫)が殺害
2年前の“黄昏岬殺人事件”……朱美が慕っていたピアノ講師・夕雨子が殺害
6年前の“真夜中の放火犯”……朱美の伯父・庄太郎が焼死(殺害された?)
これら3つの事件はつながっている(そう考えたくなるが、根拠は特に示されなかったような…)
今回のミソ(制作サイドの“イチ押し”)は、『夕雨子が二度殺された理由』と『夕雨子の死亡推定時刻の限定』『フェイクの朱美』『“夜明け前の殺人”の火村への罠”』『オレンジ恐怖症の克服』(「“イチ押し”なのに2つある」という突っ込みは却下)
1.夕雨子が二度殺された理由
「夕雨子殺害の依頼者が衝動的に撲殺してしまい、その後、殺害請負者が予定通り石を投げ落とした」というのが真相
これが「2度も殺害行為をしたという謎」を引き起こした。一般的に、「被害者が複数の傷(たとえば殴打された後、絞殺)は同一人物によるもの」と考えてしまい、複数の人物によって殺傷されたという可能性が見えなくなってしまう。(この現象は『科捜研の女』でよく利用される)
でもね、≪崖の上から石を落として殺害する≫なんて相当不確実でもいいところである(的中の可否、致命度の深さ)。
さらに、夕雨子の殺害動機が理解不能だった。真犯人・六人部(山本博典)は朱美のことを“純粋に”好きだったが、夕雨子の誘惑にクラッとしてしまった。そんな自分をどうしても許せず、衝動的に夕雨子を撲殺。…えっ?何?この動機?
有栖川が「きみは自分の心が壊れてしまうことを恐れて、夕雨子さんを殺した…」とフォローしたが、全くフォローしきれていないよね。
犯行に加担していない正明(鈴之助)は真知(高橋ひとみ)は容疑者扱いされたうえ、わざわざ黄昏岬や別荘に呼び出され、芝居がかった火村の推理ショーに付きあわされたのだから、怒っていいはず。夕雨子が悪女だったわけでもないし。
一万歩譲って、衝動的な殺害動機を理解したとしても、夕雨子の殺害を他人に依頼するなんてあり得ない。殺害を依頼するということは、熟慮した上での決断で、≪自分の不純さを許せずにその原因となった夕雨子を殺害する無茶苦茶さ……上述したように衝動的なら辛うじて理解できるかも≫≪他人に殺害を依頼することのリスク≫≪不確実過ぎる殺害手段≫など、“夜明け前の殺人”とは天と地ほどの計画性の違いだ。
2.夕雨子の死亡推定時刻の限定
トラックの影が夕雨子にとって日除けになっていたことが、死亡時刻の絞り込みの根拠になったというのは、推理としては面白い。(≪今回の現場の検証は冬季、事件当時は夏季で、あまりにも太陽高度が違う≫という突っ込みは野暮ということにしておこう)
しかし、鍋島刑事(生瀬勝久)が緒方刑事(阿南健治)の刑事魂にちぃて何度も追想していたので、緒方の捜査ノートを基に、詳細にアリバイ検証をすべきである。崖の上のサスペンス・クライマックス寸劇を2度流したり、火村の推理ショーに力を入れるくらいなら……。執念の捜査ノートが“チラ見せ”だけとは、緒方刑事も浮かばれない。
それにしても、今回、“犯人からの挑戦だ”とか“私をここまで悩ませた犯人に敬意を表する”とか、寝坊して人を待たせたりとか、火村の“鼻持ちならなさ”が不愉快だった。
3.フェイクの朱美
「“黄昏岬殺人事件”の犯人X“ロッド”は6年前の放火殺人を目撃していた」とのべ、あたかも≪朱美が犯人≫
であるかのように思わせる。夕雨子殺害時刻のアリバイもなかったし。
この辺りは、うまく演出していたと思う。しかし、六人部も放火殺人を目撃していたという根拠もそれらしき言動も全く描写なしというのは、反則に限りなく近い。
さらに、そもそも朱美が、放火殺人の証言をしていれば、後の2事件は起こらなかったはず。このことを素通りした火村は主人公失格である。(右京なら、ネチネチ指摘したか、相手によっては激昂するかも)
朱美は放火殺人犯の陽平を慕っていたというが、事業に失敗し庄太郎に厄介になっており、そのことでいびられたとは言え、焼き殺すという陽平の残虐な行為、さらに、放火殺人で脅されたとは言え、殺害を請け負い実行……放火事件の時に朱美が幼少ならともかく、高校生だったのだから、現実に向き合えると思うが。
4.“夜明け前の殺人”の火村への罠”
前回のトリックが不確定要素が多く、失敗の可能性が高かったという欠点は、六人部の嘘ということで解消された。
「きみは私に挑戦状を送り、自らに疑惑を掛け、それを私に解決させ、容疑者圏外に出ようとした。
まさに捨て身の見事な作戦だ。ブラボー!」
というものだったが、あまりにも六人部の出番が(心情描写)が多く、演じるのが山本裕典なので、怪しさ満杯だった。(前回、「犯人に仕立て上げられそうになった六人部だが、狂言かもしれない」と書いておいてよかった)
5.オレンジ恐怖症の克服
回復の兆し……「良かったね」としか言うことがない。
「火村の異常性」「異常者が溢れている世の中」の強調が鬱陶しい。
原作はどうなのだろうか?
【ストーリー】番組サイトより
朱美(山本美月)の叔父・陽平(大高洋夫)が殺害された“夜明け前の殺人”、2年前に朱美が慕っていたピアノ講師・夕雨子が殺害された“黄昏岬殺人事件”、6年前に朱美が遭遇した未解決の放火事件“真夜中の放火犯”。朱美の周りで起きた3つの事件はつながっていると考えた火村(斎藤工)は、アリス(窪田正孝)らとともに黄昏岬へ向かった。
火村とアリスは、鍋島(生瀬勝久)ら警察と協力して黄昏岬殺人事件の手がかりを探す。夕雨子は、崖の下で撲殺された後、さらに崖の上から石を投げ落とされるという、残忍かつ不可解な方法で殺されていた。火村たちは、夕雨子が殺された時に現場近くにいた吉本(平泉成)に話を聞きに行く。吉本は、かつて京都府警の刑事だった。
火村は朱美に話を聞き、6年前の放火以来、彼女がずっと悩まされている悪夢に秘められた深層心理を解き明かそうとする。朱美の夢に出てくるのは、放火で亡くなった庄太郎(田口主将)にガソリンを浴びせる陽平の姿だった。彼女は、自分が庄太郎を憎んでいたと火村に打ち明ける。火村は、朱美の夢の光景が実は夢ではなく、現実に見たものなのではないかと指摘する。
朱美、朱美の従兄弟・正明(鈴之助)、正明の母・真知(高橋ひとみ)、正明の後輩・六人部(山本裕典)。火村は、すべての事件関係者を黄昏岬に呼び出す。彼は、事件関係者の中に犯人がいると断言し、まだ正体を現さない犯人に向けて“挑戦状”を突き付ける。
これまで得た手がかりから、思考をめぐらせる火村。3つの事件のつながりの謎を紐解いていくにつれ、朱美への疑惑がどんどん深まっていき…。その結果、火村自身が戸惑うほどの思いがけない結論にたどり着く…。
原作:「朱色の研究(KADOKAWA)」収録
脚本:佐藤友治
演出:明石広人
直近の“夜明け前の殺人”……朱美の叔父・陽平(大高洋夫)が殺害
2年前の“黄昏岬殺人事件”……朱美が慕っていたピアノ講師・夕雨子が殺害
6年前の“真夜中の放火犯”……朱美の伯父・庄太郎が焼死(殺害された?)
これら3つの事件はつながっている(そう考えたくなるが、根拠は特に示されなかったような…)
今回のミソ(制作サイドの“イチ押し”)は、『夕雨子が二度殺された理由』と『夕雨子の死亡推定時刻の限定』『フェイクの朱美』『“夜明け前の殺人”の火村への罠”』『オレンジ恐怖症の克服』(「“イチ押し”なのに2つある」という突っ込みは却下)
1.夕雨子が二度殺された理由
「夕雨子殺害の依頼者が衝動的に撲殺してしまい、その後、殺害請負者が予定通り石を投げ落とした」というのが真相
これが「2度も殺害行為をしたという謎」を引き起こした。一般的に、「被害者が複数の傷(たとえば殴打された後、絞殺)は同一人物によるもの」と考えてしまい、複数の人物によって殺傷されたという可能性が見えなくなってしまう。(この現象は『科捜研の女』でよく利用される)
でもね、≪崖の上から石を落として殺害する≫なんて相当不確実でもいいところである(的中の可否、致命度の深さ)。
さらに、夕雨子の殺害動機が理解不能だった。真犯人・六人部(山本博典)は朱美のことを“純粋に”好きだったが、夕雨子の誘惑にクラッとしてしまった。そんな自分をどうしても許せず、衝動的に夕雨子を撲殺。…えっ?何?この動機?
有栖川が「きみは自分の心が壊れてしまうことを恐れて、夕雨子さんを殺した…」とフォローしたが、全くフォローしきれていないよね。
犯行に加担していない正明(鈴之助)は真知(高橋ひとみ)は容疑者扱いされたうえ、わざわざ黄昏岬や別荘に呼び出され、芝居がかった火村の推理ショーに付きあわされたのだから、怒っていいはず。夕雨子が悪女だったわけでもないし。
一万歩譲って、衝動的な殺害動機を理解したとしても、夕雨子の殺害を他人に依頼するなんてあり得ない。殺害を依頼するということは、熟慮した上での決断で、≪自分の不純さを許せずにその原因となった夕雨子を殺害する無茶苦茶さ……上述したように衝動的なら辛うじて理解できるかも≫≪他人に殺害を依頼することのリスク≫≪不確実過ぎる殺害手段≫など、“夜明け前の殺人”とは天と地ほどの計画性の違いだ。
2.夕雨子の死亡推定時刻の限定
トラックの影が夕雨子にとって日除けになっていたことが、死亡時刻の絞り込みの根拠になったというのは、推理としては面白い。(≪今回の現場の検証は冬季、事件当時は夏季で、あまりにも太陽高度が違う≫という突っ込みは野暮ということにしておこう)
しかし、鍋島刑事(生瀬勝久)が緒方刑事(阿南健治)の刑事魂にちぃて何度も追想していたので、緒方の捜査ノートを基に、詳細にアリバイ検証をすべきである。崖の上のサスペンス・クライマックス寸劇を2度流したり、火村の推理ショーに力を入れるくらいなら……。執念の捜査ノートが“チラ見せ”だけとは、緒方刑事も浮かばれない。
それにしても、今回、“犯人からの挑戦だ”とか“私をここまで悩ませた犯人に敬意を表する”とか、寝坊して人を待たせたりとか、火村の“鼻持ちならなさ”が不愉快だった。
3.フェイクの朱美
「“黄昏岬殺人事件”の犯人X“ロッド”は6年前の放火殺人を目撃していた」とのべ、あたかも≪朱美が犯人≫
であるかのように思わせる。夕雨子殺害時刻のアリバイもなかったし。
この辺りは、うまく演出していたと思う。しかし、六人部も放火殺人を目撃していたという根拠もそれらしき言動も全く描写なしというのは、反則に限りなく近い。
さらに、そもそも朱美が、放火殺人の証言をしていれば、後の2事件は起こらなかったはず。このことを素通りした火村は主人公失格である。(右京なら、ネチネチ指摘したか、相手によっては激昂するかも)
朱美は放火殺人犯の陽平を慕っていたというが、事業に失敗し庄太郎に厄介になっており、そのことでいびられたとは言え、焼き殺すという陽平の残虐な行為、さらに、放火殺人で脅されたとは言え、殺害を請け負い実行……放火事件の時に朱美が幼少ならともかく、高校生だったのだから、現実に向き合えると思うが。
4.“夜明け前の殺人”の火村への罠”
前回のトリックが不確定要素が多く、失敗の可能性が高かったという欠点は、六人部の嘘ということで解消された。
「きみは私に挑戦状を送り、自らに疑惑を掛け、それを私に解決させ、容疑者圏外に出ようとした。
まさに捨て身の見事な作戦だ。ブラボー!」
というものだったが、あまりにも六人部の出番が(心情描写)が多く、演じるのが山本裕典なので、怪しさ満杯だった。(前回、「犯人に仕立て上げられそうになった六人部だが、狂言かもしれない」と書いておいてよかった)
5.オレンジ恐怖症の克服
回復の兆し……「良かったね」としか言うことがない。
「火村の異常性」「異常者が溢れている世の中」の強調が鬱陶しい。
原作はどうなのだろうか?
【ストーリー】番組サイトより
朱美(山本美月)の叔父・陽平(大高洋夫)が殺害された“夜明け前の殺人”、2年前に朱美が慕っていたピアノ講師・夕雨子が殺害された“黄昏岬殺人事件”、6年前に朱美が遭遇した未解決の放火事件“真夜中の放火犯”。朱美の周りで起きた3つの事件はつながっていると考えた火村(斎藤工)は、アリス(窪田正孝)らとともに黄昏岬へ向かった。
火村とアリスは、鍋島(生瀬勝久)ら警察と協力して黄昏岬殺人事件の手がかりを探す。夕雨子は、崖の下で撲殺された後、さらに崖の上から石を投げ落とされるという、残忍かつ不可解な方法で殺されていた。火村たちは、夕雨子が殺された時に現場近くにいた吉本(平泉成)に話を聞きに行く。吉本は、かつて京都府警の刑事だった。
火村は朱美に話を聞き、6年前の放火以来、彼女がずっと悩まされている悪夢に秘められた深層心理を解き明かそうとする。朱美の夢に出てくるのは、放火で亡くなった庄太郎(田口主将)にガソリンを浴びせる陽平の姿だった。彼女は、自分が庄太郎を憎んでいたと火村に打ち明ける。火村は、朱美の夢の光景が実は夢ではなく、現実に見たものなのではないかと指摘する。
朱美、朱美の従兄弟・正明(鈴之助)、正明の母・真知(高橋ひとみ)、正明の後輩・六人部(山本裕典)。火村は、すべての事件関係者を黄昏岬に呼び出す。彼は、事件関係者の中に犯人がいると断言し、まだ正体を現さない犯人に向けて“挑戦状”を突き付ける。
これまで得た手がかりから、思考をめぐらせる火村。3つの事件のつながりの謎を紐解いていくにつれ、朱美への疑惑がどんどん深まっていき…。その結果、火村自身が戸惑うほどの思いがけない結論にたどり着く…。
原作:「朱色の研究(KADOKAWA)」収録
脚本:佐藤友治
演出:明石広人