12月26日、第三者委員会(委員長・但木敬一弁護士)による三浦九段の将棋ソフト使用疑惑に関する調査結果が報告された。
さらに、25日には三浦九段と将棋連盟の記者会見が行われた。
三浦九段に対する処分の出し方など、連盟の対応の
拙さ酷さ(
「その1」、
「その2」、
「その3」)に、がっかりし呆れ、更に怒りを感じていた。
その怒りのレベルはかなりのモノだと思っていたが、この二日間で倍増してしまった。
調査の事項は2点。1.「不正の有無」と2.「三浦九段に対する処分の妥当性」
1.三浦九段が不正行為(対局中における将棋ソフトの使用)を行ったかどうか(公表された報告書とは項目の順序が違っています)
調査対象の対局は
・対久保九段戦(2016年7月26日)、竜王戦 決勝トーナメント ……以降「対局1」と記す
・対丸山九段戦(2016年8月26日)、竜王戦 挑戦者決定戦第2局 ……以降「対局2」と記す
・対丸山九段戦(2016年8月8日)、竜王戦 挑戦者決定戦第3局 ……以降「対局3」と記す
・対渡辺竜王戦(2016年10月3日)、名人戦 A級順位戦 ……以降「対局4」と記す
【検証1】不正行為の可能性を思わせる不審な行為(離席など)の有無
★対局風景映像が残されていた対局1、対局2、対局3の映像を分析
疑惑の根拠とされた対局1での夕食休憩後の30分の離席については、その事実は確認されず、その時間以外の対局1~3においても、不審な行為は確認されなかった
★対局2、対局3においては、夕食休憩後の三浦九段の所作を連盟理事が監視
三浦九段の不審な行為は確認されなかった
【検証2】三浦九段が提出したスマートフォンやパソコンなどの電子機器の解析
三浦九段が不正行為に及んだことをうかがわせる痕跡は確認できなかった
【検証3】技巧の指し手と三浦九段の指し手の一致率
対局1~4について各10回技巧を使って一致率を計測したが、その都度バラつきがあり、一致率を不正の根拠にすること自体、困難と感じたとのこと。
念のため、棋士10名(タイトル保持者)について計測したが、三浦九段の一致率と差を感じられなかった。
要するに、技巧との一致率は、不正の根拠とはならない。
【検証4】棋士への聞き取り調査
★「三浦九段の実際の指し手や感想戦で示した指し手が、“自力で指したとは考えづらく、不正行為の根拠となる”という理事会の主張しており、その件について連盟棋士へのヒアリングを行った。
多くの棋士が、三浦棋士が将棋ソフトの助けを借りずに、自力で指した指し手としては不自然ではない。離席の長さやタイミング自体が不正の直接の根拠とはならないなどの見解を呈した。
対局2、対局3の対戦相手の丸山九段も疑念を持たなかったと証言している。
【検証1】~【検証4】において、三浦九段が不正行為に及んでいたと認めるに足りる証拠はないと判断
2.三浦九段に対し、2016年10月12日から12月31日まで出場停止にした処分の妥当性
報告書では、
「将棋連盟の連盟所属棋士に対する規律の在り方」を力説している。
要約すると………
将棋連盟は単に、公式戦を主催・運営するだけではなく、将棋の技術向上や普及(海外普及も含む)することにより、伝統文化の向上発展に寄与するのが目的と述べている。しかも、本旨は「伝統文化の向上発展の為に、公式戦を運営している(公式戦を運営は手段)」と述べている。
そして、所属棋士は高い棋力を保持するのみならず、連盟の目的である伝統文化の向上に賛同したものに限られる。
その伝統文化の向上の為、その手段である公式戦の信頼を維持する為、更に、公式戦の共同主催者との良好な関係を維持するため、運営に支障をきたす事態を防ぐため、所属棋士を律する権利を有する。場合によっては、公式戦の運営(対局規定や条件)を常務会が決定することができる。
所属棋士は、連盟の目的遂行に重大な支障をきたす場合は、連盟の規律(決定)に従わなければならない。
ただし、連盟が所属棋士を律する権限は無制限ではなく、処々の事項を総合的に考慮して、慎重に決定しなければならない。
また、所属棋士は、「将棋連盟と連盟所属棋士の利益が背反する場合でも、将棋連盟の目的達成を優先しなければならないこともあり得る」を、受け入れているべきというべきである。(受け入れなければならない)
さらに、棋士が不正行為をした場合はもちろん、不正行為の疑いがあり、その棋士が対局を行うことによって、連盟や棋戦の信頼が損なわれると判断された場合は、その棋士の公式戦への出場を停止することも、将棋連盟の規律として認められる場合があるというべきである。
まあ、簡単に言うと、
「将棋連盟は伝統文化の向上という重大な責務があり、その達成の為の棋戦運営において、いろいろな決定権を持っている。
所属棋士は、当然、連盟の規律に従うべきであり、自己の利益より連盟の利益を優先しなければならず、不正行為の疑いを掛けられただけの場合でも、出場停止を受け入れなければならない」らしい。また、
「共催者(スポンサー)と仲良くするのも大切である」とも述べている。
こういう論理(暴論)を謳っておいて、
「今回の出場停止処分の妥当性」を考慮、言及している
まず、現時点では三浦九段の不正行為を示す根拠は薄弱であり、出場停止処分の妥当性には疑念が生じるが、処分を下す時点においては、三浦九段の不正行為の疑惑が強く、そのまま三浦九段が竜王戦七番勝負に出場した場合、大きな混乱を生じ、将棋連盟や将棋界への信頼やそれらの権威が大きく傷つく事が容易に想像できた。
しかし、時間的に余裕がなく、連盟が対処する手段が限られており、三浦九段の出場停止処分と、挑戦者を丸山九段に差し替えた措置は、
“将棋連盟の所属棋士及び公式戦に対する規律権限”の範囲内にあり、当時の判断としてはやむを得ないものである。
………三浦九段の不正行為の有無については、真正面から取り組んだように感じられる。
しかし、出場停止処分の妥当性に関しては、相当苦心して連盟を擁護したように思われる。
三浦九段の潔白を完全に立証はしていないが、不正行為を示す証拠はないとして、将棋連盟の決定的ダメージを避けつつ、三浦九段の身分や信用を取り戻すような判断を下した。
さらに、連盟の措置は“やむを得ない判断”として擁護した。
相反する三浦九段と将棋連盟の主張を両方立てようと、苦心して着地地点を見出した感が強い。
しかし、やはり、“将棋連盟の所属棋士及び公式戦に対する規律権限”を捻り出して、連盟の措置がやむを得ない判断としたのは強引である。
不正行為の確たる証拠なしに、三浦九段を出場停止したのはあまりにも暴挙で、不正行為のイメージを世間に定着されたうえ、竜王戦挑戦権を剥奪されたほか、順位戦などの不戦敗(連盟は三浦九段の来期A級在籍を保証)などの実利面の被害も多大なものである。とても“やむを得ない”と言えるような措置ではなかった。
この第三者委員会の報告の翌日の将棋連盟の会見内容は開いた口がふさがらない内容で、次記事で言及するつもりであるが、とにかく、第三者委員会についての連盟のファンに対する説明する気持ちは全くない。
これまでの連盟のサイトでの提示は、
『第三者委員会の設置のお知らせ』(2016年10月27日更新)
過日発表の通り、当連盟常務会では10月12日付で、三浦弘行九段を出場停止(2016年10月12日~12月31日)の処分と致しました。
本件につきまして10月24日に理事会を開催し、第三者により構成する委員会を設け、調査することを決定しました。委員長には但木敬一氏(弁護士、元検事総長)が決まりました。出場停止処分の妥当性、三浦九段の対局中の行動について、調査を要請しました。
『第三者調査委員会の開催について』(2016年11月04日更新)
三浦弘行九段に対する出場停止処分の妥当性や、三浦九段の対局中の行動について調査する第三者調査委員会(但木敬一委員長=弁護士、元検事総長)は本日、初会合を開催しましたので、お知らせします。
なお、初会合開催に先立ち、永井敏雄氏(弁護士、元大阪高等裁判所長官)、奈良道博氏(弁護士、元第一東京弁護士会会長)の2人が新たに委員に選任されましたので、あわせてご報告いたします。
『第三者調査委員会による調査結果について』(2016年12月26日更新)
本日、日本将棋連盟は三浦弘行九段の件による第三者調査委員会の調査結果のご報告をいただきました。
≪谷川浩司会長コメント≫第三者委員会の先生方には綿密な調査をして頂き、厚く御礼を申し上げます。明日、理事会を開催いたしますので、その場で将棋連盟の方針を決定いたし、改めてお知らせいたします。
調査の詳細はまったく提示されず、いつ報告がまとまるのかも不明だった。(竜王戦が終了し成立するのを待っていたという噂も)
この調査報告に関しても、翌日、記者会見を控えているとはいえ、あまりにも簡単であった。
せめて、第三者委員会が公開した報告書の全文ぐらいは載せるべきである。毎日新聞のサイトが掲示したPDFファイルしか閲覧できなかった。画像が不鮮明で読みづらいうえ、弁護士独特の言い回しのため、私には非常に難解であり、解読するのに苦労した。
記述(言い回し)が丁寧というか、くどいため、却ってわかりにくいが、それゆえ、誤解釈を生じない隙間のない記述だと感心した。(それにしても、「~等」という表現が好きだなあ)
【追記】
「休場届の不提出」を処分理由にした点についても、言及して欲しかった。