「その1」の記事で軽く触れたが、ロンドン五輪後、ルール改正がなされた。
「指導が技のポイントに入らない」「組み手遂行の強化……組み手を拒む行為の禁止(指導)」など、より積極性を重視し、「一本」を取る見栄えのする柔道を目指したもので、評価できる。
しかし、審判の技術が伴わないと意味がない。
Ⅰ 求められる審判の公正さと、試合を見極める技術
「その2」で述べた立ち技からの脇固めの反則を見逃した件や、そのコメントで名無しさんが指摘した疑問の「指導」の多さなど、審判の技術に疑問を感じることが多い(それでも、以前よりはかなり改善されてきている)。
これまでに気がついた判定について、「名無しさん」へのレスで書いたので、それを引用します。
=====================================
地元に甘く、日本に厳しい傾向はあります。女子57kg級決勝、シルヴァ(ブラジル)×マロイ(アメリカ)の試合、試合開始直後、マロイの柔道着を掴んだシルヴァの右手を片手で軽く払っただけで、指導を取られました。確かに、組手を拒むことを厳しく反則を取るようにルールが変更されましたが、試合開始後、いきなりというのは、マロイはリズムが崩れたのではないでしょうか?その40秒後、マロイが不用意に内股に行ったが、シルヴァに小外刈りを合わされて、一本を取られてしまいました
ただ、それ以外にも、疑問の判定が多いです。目についたのは、「その3」で取り上げたサィンジャルガル(モンゴル)に対する判定はやや厳しかった。
あと、抑え込みに入る直前に、それほど時間が経過していないのに、「待て」を掛けられてしまう事も多いですね。
しかし、そういった「甘い」「厳しい」という程度の問題ではなく、「消極性」「掛け逃げ」の解釈や、技の理解を明らかに間違えている審判としては失格の審判もいます。
ロンドン五輪後ルール改正は、柔道の正常化に動いているので、その動きを信じたいです。と言っても、私は長年、「JUDO」には幻滅し続けているので、疑心暗鬼ですが。
とにかく、あの脇固めについては、とことん追求すべきです。
男子81kg級決勝、私が主審なら、優勝したペトリ選手は4回指導で反則負けにします。(実際は指導3回)
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今大会、「指導」の判定で「早過ぎるのでは?」とか「(指導を与える選手が)逆なんじゃないか?」と感じることが多い。上記にもあるが、「消極性」「掛け逃げ(積極性)」の解釈を間違えているお粗末な審判も見かける。
大会5日目の日本女子3選手は、疑問の「指導」が敗れた大きな要因になったと言える。
女子78kg級の佐藤瑠香、2回戦でも不可解な2度の「指導」を取られたが、準々決勝は気の毒だった。
まず、主審の試合の仕切りがおかしい。開始24秒にソル・キョング(北朝鮮)に掛けられた技が、30秒以上経過した後に「有効」を宣告、その他にも意味不明の試合中断もあった。
試合は、佐藤が有効を取り返したが、残り2分にソル・キョングの技を不用意に捌いて「技あり」を取られてしまう。
その後のソルの逃げは露骨だった。引き足ばかりで場外際に逃げ、そこで決める意志のない技を繰り出して時間を稼ぐ。技ありを決めた時点で指導は0だったので、3回は受けても大丈夫の計算だ。
そんな状況が続いた残り1分20秒、場外に出たソルを佐藤が両腕で軽く突き飛ばした。これを主審が注意したのは当然だが、ここで突き飛ばしていなかったら、ソルに「指導」が与えられたのではないだろうか。この後もソルは逃げ続けたが、「指導」は3回で逃げ切られてしまった。
「消極的な試合運びを是正する」がルール改正の主旨に従い、厳しく「指導」を取るとしたら、「掛け逃げ」と「消極性」で10回の「指導」を取って当然だった。
敗者戦では、逆に佐藤は簡単に「指導」を3回取られていたが、先の準々決勝で、この主審だったらどういう判定が下されたのだろう?(日本(佐藤)にだけ厳しいような気がする)
結局、ソル・キョングがこの階級を制してしまった。こういう選手をチャンピオンにしてはいけない。
女子78kg級には佐藤の他に、緒方亜香里も出場している。緒方は2010年世界柔道銅メダル、11年世界柔道銀メダルの実力者。相手はオランダのベルカーク。
この試合、両者、組み手争いが激しく、組み合わない。主審が試合を止め、緒方にだけ「指導」。その少し前に、ベルカークが緒方の腕を強引に振りほどいたにも拘らず。
その次、主審が試合を止め、ベルカークに「指導」(組み合いなさい)を与えたが、ジャッジからそれを取り消し、緒方に「掛け逃げ」の与える指示が出た。
確かにその前に、緒方が「掛け逃げ」に見える状態になったが、それは緒方が掛けた技に対して、ベルカークがそれを防ぐのに突き放した時に、緒方の体勢が前に崩れただけで、「掛け逃げ」の意思は全くなかった。そんなことも見抜けないジャッジ、あるいは、意図的な判定か?
残り2分20秒、更に緒方に消極的な「指導」。これも、ベルカークが緒方に攻められないように先に技を仕掛ける(決める意図はなく、掛け逃げを取られないよう注意して)ので、結果的に緒方が「消極的」と判断されてしまったもの。
その後、疲れの出たベルカークは技を掛けられないだけに注意して動きを落としたが、これに対しては「お構いなし」。
結局、指導の数3-0で敗れた。(技のポイントなし)
女子70kg級の田知本遥も同じような被害を受けた。指導1-2で敗れた(技のポイントなし)が、この試合も、田知本だけに厳しく、相手は「指導」を取られないという不公平な判定だった。
柔道の今後を考えるのなら、きちんと審判の育成をしなければならない。技の有効度合(一本、技あり、有効)の基準、技の解釈、「消極性」「掛け逃げ」「組手拒否」などの指導の解釈をきちんと理解しなければ、適正な判定はできない。
もうこの際、国際審判は日本だけにすればいい。日本は審判員の技術は高いし、贔屓もしない(と思う)。
Ⅱ 技の軌跡も考慮して判定して欲しい
現在の技の効果度の判定基準は、畳についた部位が「背中全体」「背中の一部」「肩、腕など横向きなったか」だと考えられる。
しかし、それだと、何かの拍子で背中がついても「一本」あるいは「技あり」となってしまう。たとえば、技が強引で自ら体勢を崩すのと、受け手の方も技を防ぐため、反射的にリアクションを起こしたのが重なっただけでも「一本」となってしまう。
また、技が段階的になっても技が継続していると考え「一本」や「技あり」と判定されるのもすっきりしない。技が段階的とは、技を掛けて相手が肩などがついて、そのあともう一段階、体を回転させるなどして相手の背中を付けるという状況。
逆に、相手の体を完全に浮かせても、体が畳に付いた状態が腹這いなら有効にもならない。つまり、相手を引き倒すような投げていない技だと腹這いになる余裕がなく、体が浮いた分だけ腹這いになる余裕があるという皮肉な状況である。もちろん、相手の体を浮かせたあと技を決めきれば腹這いに逃げられることはないとも言えるが、釈然としない。
この体のついた部位による判定をするのは、「分かりやすい基準」を求める西洋的発想であるが、技の結果しか見ることができない未熟さとも言える。もっと技の軌跡、満足度、完遂度を評価して欲しいものである。
「一本」についての改正を見ると、「一本については、背中が畳につく際に本当のインパクトがある技の場合のみ一本とみなす」とある。
であれば、現状の技の判定はこれに即していない。誰もが認める気持ちの良い技だけしか「一本」にしないならば、選手自身がインパクトがある技を決めようとし、よりすっきりとした競技、魅力ある柔道となるはずである。
【参照】(過去記事)
その1「この中継も酷いなあ」(第1日)
その2「まさかの…」(第2日)
その3「3日連続ならず?(ちょっと残念?)」(第3日)
その4「えげつない危険な絞め技/女子63kg級金メダリスト・ゲルビ」(第4日)
「指導が技のポイントに入らない」「組み手遂行の強化……組み手を拒む行為の禁止(指導)」など、より積極性を重視し、「一本」を取る見栄えのする柔道を目指したもので、評価できる。
しかし、審判の技術が伴わないと意味がない。
Ⅰ 求められる審判の公正さと、試合を見極める技術
「その2」で述べた立ち技からの脇固めの反則を見逃した件や、そのコメントで名無しさんが指摘した疑問の「指導」の多さなど、審判の技術に疑問を感じることが多い(それでも、以前よりはかなり改善されてきている)。
これまでに気がついた判定について、「名無しさん」へのレスで書いたので、それを引用します。
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地元に甘く、日本に厳しい傾向はあります。女子57kg級決勝、シルヴァ(ブラジル)×マロイ(アメリカ)の試合、試合開始直後、マロイの柔道着を掴んだシルヴァの右手を片手で軽く払っただけで、指導を取られました。確かに、組手を拒むことを厳しく反則を取るようにルールが変更されましたが、試合開始後、いきなりというのは、マロイはリズムが崩れたのではないでしょうか?その40秒後、マロイが不用意に内股に行ったが、シルヴァに小外刈りを合わされて、一本を取られてしまいました
ただ、それ以外にも、疑問の判定が多いです。目についたのは、「その3」で取り上げたサィンジャルガル(モンゴル)に対する判定はやや厳しかった。
あと、抑え込みに入る直前に、それほど時間が経過していないのに、「待て」を掛けられてしまう事も多いですね。
しかし、そういった「甘い」「厳しい」という程度の問題ではなく、「消極性」「掛け逃げ」の解釈や、技の理解を明らかに間違えている審判としては失格の審判もいます。
ロンドン五輪後ルール改正は、柔道の正常化に動いているので、その動きを信じたいです。と言っても、私は長年、「JUDO」には幻滅し続けているので、疑心暗鬼ですが。
とにかく、あの脇固めについては、とことん追求すべきです。
男子81kg級決勝、私が主審なら、優勝したペトリ選手は4回指導で反則負けにします。(実際は指導3回)
=====================================
今大会、「指導」の判定で「早過ぎるのでは?」とか「(指導を与える選手が)逆なんじゃないか?」と感じることが多い。上記にもあるが、「消極性」「掛け逃げ(積極性)」の解釈を間違えているお粗末な審判も見かける。
大会5日目の日本女子3選手は、疑問の「指導」が敗れた大きな要因になったと言える。
女子78kg級の佐藤瑠香、2回戦でも不可解な2度の「指導」を取られたが、準々決勝は気の毒だった。
まず、主審の試合の仕切りがおかしい。開始24秒にソル・キョング(北朝鮮)に掛けられた技が、30秒以上経過した後に「有効」を宣告、その他にも意味不明の試合中断もあった。
試合は、佐藤が有効を取り返したが、残り2分にソル・キョングの技を不用意に捌いて「技あり」を取られてしまう。
その後のソルの逃げは露骨だった。引き足ばかりで場外際に逃げ、そこで決める意志のない技を繰り出して時間を稼ぐ。技ありを決めた時点で指導は0だったので、3回は受けても大丈夫の計算だ。
そんな状況が続いた残り1分20秒、場外に出たソルを佐藤が両腕で軽く突き飛ばした。これを主審が注意したのは当然だが、ここで突き飛ばしていなかったら、ソルに「指導」が与えられたのではないだろうか。この後もソルは逃げ続けたが、「指導」は3回で逃げ切られてしまった。
「消極的な試合運びを是正する」がルール改正の主旨に従い、厳しく「指導」を取るとしたら、「掛け逃げ」と「消極性」で10回の「指導」を取って当然だった。
敗者戦では、逆に佐藤は簡単に「指導」を3回取られていたが、先の準々決勝で、この主審だったらどういう判定が下されたのだろう?(日本(佐藤)にだけ厳しいような気がする)
結局、ソル・キョングがこの階級を制してしまった。こういう選手をチャンピオンにしてはいけない。
女子78kg級には佐藤の他に、緒方亜香里も出場している。緒方は2010年世界柔道銅メダル、11年世界柔道銀メダルの実力者。相手はオランダのベルカーク。
この試合、両者、組み手争いが激しく、組み合わない。主審が試合を止め、緒方にだけ「指導」。その少し前に、ベルカークが緒方の腕を強引に振りほどいたにも拘らず。
その次、主審が試合を止め、ベルカークに「指導」(組み合いなさい)を与えたが、ジャッジからそれを取り消し、緒方に「掛け逃げ」の与える指示が出た。
確かにその前に、緒方が「掛け逃げ」に見える状態になったが、それは緒方が掛けた技に対して、ベルカークがそれを防ぐのに突き放した時に、緒方の体勢が前に崩れただけで、「掛け逃げ」の意思は全くなかった。そんなことも見抜けないジャッジ、あるいは、意図的な判定か?
残り2分20秒、更に緒方に消極的な「指導」。これも、ベルカークが緒方に攻められないように先に技を仕掛ける(決める意図はなく、掛け逃げを取られないよう注意して)ので、結果的に緒方が「消極的」と判断されてしまったもの。
その後、疲れの出たベルカークは技を掛けられないだけに注意して動きを落としたが、これに対しては「お構いなし」。
結局、指導の数3-0で敗れた。(技のポイントなし)
女子70kg級の田知本遥も同じような被害を受けた。指導1-2で敗れた(技のポイントなし)が、この試合も、田知本だけに厳しく、相手は「指導」を取られないという不公平な判定だった。
柔道の今後を考えるのなら、きちんと審判の育成をしなければならない。技の有効度合(一本、技あり、有効)の基準、技の解釈、「消極性」「掛け逃げ」「組手拒否」などの指導の解釈をきちんと理解しなければ、適正な判定はできない。
もうこの際、国際審判は日本だけにすればいい。日本は審判員の技術は高いし、贔屓もしない(と思う)。
Ⅱ 技の軌跡も考慮して判定して欲しい
現在の技の効果度の判定基準は、畳についた部位が「背中全体」「背中の一部」「肩、腕など横向きなったか」だと考えられる。
しかし、それだと、何かの拍子で背中がついても「一本」あるいは「技あり」となってしまう。たとえば、技が強引で自ら体勢を崩すのと、受け手の方も技を防ぐため、反射的にリアクションを起こしたのが重なっただけでも「一本」となってしまう。
また、技が段階的になっても技が継続していると考え「一本」や「技あり」と判定されるのもすっきりしない。技が段階的とは、技を掛けて相手が肩などがついて、そのあともう一段階、体を回転させるなどして相手の背中を付けるという状況。
逆に、相手の体を完全に浮かせても、体が畳に付いた状態が腹這いなら有効にもならない。つまり、相手を引き倒すような投げていない技だと腹這いになる余裕がなく、体が浮いた分だけ腹這いになる余裕があるという皮肉な状況である。もちろん、相手の体を浮かせたあと技を決めきれば腹這いに逃げられることはないとも言えるが、釈然としない。
この体のついた部位による判定をするのは、「分かりやすい基準」を求める西洋的発想であるが、技の結果しか見ることができない未熟さとも言える。もっと技の軌跡、満足度、完遂度を評価して欲しいものである。
「一本」についての改正を見ると、「一本については、背中が畳につく際に本当のインパクトがある技の場合のみ一本とみなす」とある。
であれば、現状の技の判定はこれに即していない。誰もが認める気持ちの良い技だけしか「一本」にしないならば、選手自身がインパクトがある技を決めようとし、よりすっきりとした競技、魅力ある柔道となるはずである。
【参照】(過去記事)
その1「この中継も酷いなあ」(第1日)
その2「まさかの…」(第2日)
その3「3日連続ならず?(ちょっと残念?)」(第3日)
その4「えげつない危険な絞め技/女子63kg級金メダリスト・ゲルビ」(第4日)