英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

第76期名人戦(2018年)第1局 その2

2018-05-16 18:11:43 | 将棋
「その1」の続きです。


 羽生竜王の突っ張った感がある▲2六飛に対して、後手の佐藤天名人が角交換から△4四角と大決戦を挑んだ第2図。
 △8八角成を決行したのが11時46分。△4四角と打ったのが11時53分。1日目の午前中で超急戦に突入の気配だ。
 
 この△4四角では△2二銀もあるが、6二玉とのバランスが悪いらしい。ただし、それで後手が悪いかは微妙。今後、△4四角の決戦策が悪いという結論が出れば、△2二銀が掘り下げられるであろうし、悪いという結論が出ていなくても、大決戦を避けて△2二銀を選択する棋士は多いのではないだろうか?

 第2図で▲2一飛成と桂を取りながら成り込むのは、「△8八角成▲同金△同飛成で先手が悪く、▲2四飛と婉曲的に指す手が有力」と見られていた。以下①△8八角成▲8四飛△7八馬▲8一飛成は先手良し。②△8八飛成▲同金△同角成▲8二歩(▲8四飛)、あるいは③△2三歩▲4四飛△同飛(△同歩)は難解らしい(『将棋世界』観戦記(小暮克洋氏)より)
 これらの3手段以外にも△2二銀や△3三桂なども考えられ非常に難解な局面だが、第2図で▲2四飛も有力だったようだ。
 羽生竜王は▲2一飛成を決行。当初、悪いと言われていた手だ。
 確かに、△8八角成▲同金△同飛成と進めば先手が悪いが、「激しく▲2一飛成△8八角成▲9五角と踏み込む手もあるようだ。角を取らずに▲9五角は第74期順位戦C級2組▲阿部光六段-△遠山五段(段位は当時)戦を応用した手筋で、以下△8五飛には▲7七桂から飛車を追い、△9五飛なら▲8八金で先手は竜を主張する(段位は当時)」【棋譜中継解説より引用】と控室の見解も変わってきていた。


 実戦も△8八角成に▲9五角と打ち、△8九馬▲8四角△7八馬と進んだ。


 
 △7八馬は14時13分の着手。まだ、1日目の昼過ぎである。ここまでの消費時間は、▲羽生2時間17分、△佐藤1時間38分。
 互いに大駒が成り込み、玉は囲いに入っておらず、金銀のお供がそばにいるだけで、敵に斬り掛かられても不思議でない状況。分岐点がいくつかあったにもかかわらず、それほど時間を使わずに、超急戦に踏み込んできているのは、事前の研究の範囲内と言うことなのだろうか?(先手の羽生竜王は▲3六飛に14分、▲2六飛に23分、▲2一飛成に45分。後手の佐藤天名人は△6二玉に11分、△8四飛に24分、△8八角成に45分と小考は重ねてきているが、大長考ではなく、読みを確認している感じだ)
 この点について、木暮氏の観戦記に興味深い記載がある。
『村山七段に話を聞いた。「(少し省略)…△6二玉以下(羽生竜王が後手)は▲3六飛△8四飛▲3八金△9四歩から息の長い将棋に進んだんですが…(少し省略)…そういえばその時の感想戦は、一通り終盤まで調べてから「ところで序盤はどうだったんですかね?と抽象的な質問が飛んできた記憶があります』
 名人戦を意識しての戦型選択だと思われるが、直近の公式戦なので村山戦を土台にして秘策を練ったとは考えにくいが、佐藤名人が△6二玉を2局指し手いるのを知っていて、他人の将棋観、つまり≪村山七段なら△6二玉に対してどう指すのか?≫、≪▲3八金で▲2六飛はないのか?≫などを確かめたかったのではないだろうか?
 もちろん、≪名人戦で戦うことになるであろう横歩取り戦の感覚を磨こう≫という目的だけだったかもしれないが、△6二玉~▲2六飛のコースは研究テーマの一つだったように思える。


 観戦記では、佐藤名人についても興味深い情報があった。
佐藤は△6二玉の段階で、この過激な変化に進む予感もあったという。「そんなに自信があったわけではないが、仕込みの段階で幾多の激しい変化と対峙した末に、そのどれかに成算が持てないというだけでやってみないのはもったいない。…以下省略」』

 どの変化に成算が持てなかったのかは気になるところだが、第2図の局面は羽生竜王も佐藤名人も視野に入れていたようだ。


 探究心旺盛なふたり。      「その3」に続く
コメント
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