銀のみち一条〈上巻〉 | |
クリエーター情報なし | |
新潮社 |
銀のみち一条〈下巻〉 | |
クリエーター情報なし | |
新潮社 |
内容(「BOOK」データベースより)
但馬国と播磨国を分ける山の分水嶺に位置し、千二百年もの間、日本に銀をもたらし富を与えた生野銀山。明治半ば、その町に生まれ合わせた女たち、男たち。東京帰りのハイカラ女学生・咲耶子。町いちばんの美貌の芸妓・芳野。そしてまっすぐな心ばえの女中・志真。彼女たちの瞳の先にいたのは、雷太という数奇な生いたちの、銀山一の坑夫だった―。明治の女たちの葛藤や哀しみを圧倒的な筆致で描き出す恋愛長篇。
『負けんとき』が面白かったので、再び玉岡かおるさんの作品を。
史実、実在の人物に基づいていた『負けんとき』は、実際のことを優先しているために想像が入りこむ余地が少ない部分があったように思えましたが、こちらは舞台は実際の場所としながらも想像上の人物たちが登場者ですので想像で造形されたものはまた読者も想像しやすいのではないかと感じました。
ストーリーはいくつもの支線をはらみ二本、三本と交差していきます。
なかでも“女性”の生き方が印象に残りました。
咲耶子は、生野から東京の師匠のもとで文学を学びますが、男と出奔。結婚は許されず親元に戻されます。
紆余曲折の末、男をあきらめ嫁いだ炭鉱の技師には辛く当られた上に性病をうつされ子どもを産めない体に。これでも女からは離縁できないのです(不名誉なことは公にできないし、ううぅ~、イライラするぅ~と読み進めましたよ)。
一方、芸妓・芳野は幼馴染の坑夫・雷太のことが好きなのですが、家のためにも歳の離れた夫に見受けされる。芳野の覚悟を読んでいるとだんだん艱難辛苦を乗り越えて雷太と再び…とは思えなくなりその身の行く末を見届けたい気持ちになっていきました。
女性が家のものであった時代、また労働者に権利がなかった時代、時代の変革のうねりとそれぞれの生涯。
鮮やかな作品でした。
さて、平安時代に開坑されたといわれている生野銀山(兵庫県)は1973年3月22日、1200年の歴史を閉じたそうです。ちょうど私が生まれた頃です。