透明な気圏の中から

日々の生活の中で感じたこと、好きな作家についての思いなどを書いてみたいと思います。

『沈黙の春』その4

2014-02-08 15:35:15 | 日記

『沈黙の春』の第一章は「明日のための寓話」だ。こういうお話がまったくのフィクションだとも言い切れない現実が怖い。引用が長くなるが、しばし、お付き合いを。

 「アメリカの奥深くわけ入ったところに、ある町があった。生命あるものはみな、自然と一つだった。町のまわりには、豊かな田畑が碁盤の目のようにひろがり、穀物畑の続くその先は丘がもりあがり、斜面には果樹がしげっていた。春がくると、緑の野原のかなたに、白い花のかすみがたなびき、秋になれば、カシやカエデやカバが燃えるような紅葉のあやを織りなし、松の緑に映えて目に痛い。丘の森から狐の吠え声がきこえ、シカが野原のもやのなかを見えつかくれつ音もなく掛けぬけた。

 道を歩けば、アメリカシャクナゲ、ガマズミ、ハンノキ、オオシダがどこまでも続き、野花が咲きみだれ、四季折々、道行く人の目をたのしませる。ー中略ーむかしむかし、はじめて人間がここに分け入って家を建て、井戸を掘り、家畜小屋を建てた、そのときから、自然はこうした姿を見せてきたのだ。

 ところが、あるときどういう呪いをうけたのか、暗い影があたりにしのびよった。いままで見たこともきいたこともないことが起こりだした。鶏はわけのわからぬ病気にかかり、牛も羊も病気になって死んだ。どこへ行っても、死の影。農夫たちは、どこのだれが病気になったというはなしでもちきり。価値の医者は、見たこともない病気があとからあとへと出てくるのに、とまどうばかりだった。そのうち、突然死ぬ人も出てきた。何が原因か、わからない。大人だけではない。子供も死んだ。元気よく遊んでいると思った子供が急に気分が悪くなり、二、三時間後にはもう冷たくなっていた。

 自然は沈黙した。うす気味悪い。鳥たちは、どこへ行ってしまったのか。みんな不思議に思い、不吉な予感におびえた。・・・・・」

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする