( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/56935211.html からの続き)
クリストフの作品は さんざんな酷評を受けて、
演奏会は 大失敗に終わります。
「 クリストフは落胆してしまった。
彼の失敗は しかしながら、 何も驚くには当たらなかった。
彼の作品が 人に喜ばれなかったのには、 三重の理由があった。
作品はまだ 十分に成熟していなかった。
即座に理解されるには あまりに新しかった。
それから、 傲慢な青年を懲らしてやることが 人々にはきわめて愉快だった。
--しかしクリストフは、 自分の失敗が 当然であると認めるには、
十分冷静な精神を そなえていなかった。
世人の長い不理解を 経験することによって、 心の静穏を
真の芸術家は 得るものであるが、 クリストフにはそれが欠けていた。
聴衆にたいする 率直な信頼の念と、
当然のこととして 造作なく得られるものと思っていた
成功にたいする 信頼の念とは、 今や崩壊してしまった。
敵をもつのは もとよりであると思ってはいた。
しかし彼を 茫然たらしめたのは、
もはや一人の味方をも もたないことであった。
(中略)
彼は憤慨した。
滑稽にも、 自分を理解させようとし、 説明し、 議論した。
もとより なんの役にもたたなかった。
それには時代の趣味を 改造しなければならなかったろう。
しかし彼は 少しも狐疑しなかった。
否応なしに ドイツの趣味を清掃しようと 決心していた。
しかし彼には 不可能のことだった。
自分の意見を 極端な乱暴さで 表白する会話などでは、
だれをも 説服することはできなかった。
ますます 敵を作り得るばかりだった。
彼が なさなければならなかったことは、ゆっくりと 自分の思想を養って、
それから公衆をして それに耳を 傾けさせることであったろう……。 」
(中略)
「 彼は人間の賤しさを どん底まで感じてみようとした。
『 俺は 遠慮する必要はない。
くたばるまでは 何でもやってみなけりゃいけない。 』
一つの声が 彼のうちで言い添えた。
『 そして、 くたばるものか。』 」
(次の記事に続く)
〔「ジャン・クリストフ」ロマン・ロラン(岩波文庫)豊島与志雄訳〕