(前の記事からの続き)
クリストフは 自分が作曲した作品を 発表します。
その初演の日です。
「 当日になった。
クリストフは なんらの不安も いだいてはいなかった。
自分の音楽で あまり頭が いっぱいになっていたので、
それを批判することが できなかった。
ある部分は 人の笑いを招くかもしれないと 思っていた。
しかしそれがなんだ!
笑いを招くの 危険を冒さなければ、 偉大なものは書けない。
事物の底に 徹するためには、 世間体や、 礼儀や、 遠慮や、
人の心を 窒息せしむる社会的虚飾などを、 あえて 蔑視しなければいけない。
もし だれの気にも逆らうまいと 欲するならば、
生涯の間、 凡庸者どもが同化し得るような 凡庸な真実だけを、
凡庸者どもに与えることで 満足するがいい。
人生の此方に とどまっているがいい。
しかし そういう配慮を 足元に踏みにじる時に 初めて、
人は偉大となるのである。
クリストフは それを踏み越えて 進んでいった。
人々からはまさしく 悪口されるかもしれなかった。
彼は 人々を無関心にはさせないと 自信していた。
多少無謀な 某々のページを開くと、
知り合いのたれ彼が どんな顔つきをするだろうかと、 彼は面白がっていた。
彼は 辛辣な批評を期待していた。
前からそれを考えて 微笑していた。
要するに、 聾者ででもなければ 作品に力がこもっていることを 否み得まい
--愛すべきものか あるいはそうでないかは どうでもいい、
とにかく 力があることを。
……愛すべきもの、 愛すべきものだって!?
……ただ力、 それで充分だ。
力よ、 ライン河のように すべてを運び去れ!……… 」
(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/56997746.html
〔 「ジャン=クリストフ」 ロマン=ロラン (岩波文庫) 豊島与志雄 訳 〕