触法精神障害者の刑事責任能力について 書いてきましたが、
発端は 裁判員制度で扱われた 代理ミュンヒハウゼン症候群でした。
読売新聞の医療ルネッサンス 「痛み こころ」 に、
これに関わるような記事がありました。
B子さん (43才) は、 中学生のころ 急な腹痛に襲われ、
それ以来、 年に数回、 お腹がちぎれるような 激痛に苦しんできました。
30代になると 痛みは全身に広がり、 歩けなくなったそうです。
30以上の病院を 受診しましたが、 原因不明とされました。
九州大学の心療内科の診察室で、 医師は B子さんの話に 耳を傾けました。
幼いころ、 B子さんの弟が 台所で大火傷を負い、
母親は弟ばかりを 可愛がるようになりました。
ところが B子さんが 痛みを訴えるようになると、
冷たかった母親の 態度が変わり、 必死に病院を探してくれたのです。
会話のなかった父も、 自分も若いころ 同じ痛みに苦しんだと 共感してくれました。
「痛みがあれば 両親の愛情を得られる。」 と B子さんは感じたといいます。
医師によると、 痛みがあると 周囲が自分を認めてくれると 脳が記憶し、
それが 痛みを長引かせる原因に なっていたというのです。
これは ミュンヒハウゼン症候群の 原因のひとつと同じです。
ミュンヒハウゼン症候群は、 子供のころ 病気や怪我をしたとき、
周囲が大事にしてくれた経験から、 大きくなっても 周りの関心を得ようとして、
偽りの病気を 装う疾患です。
そのために、 健康な体を 害することさえ厭いません。
しかし B子さんの場合は、 無意識的に 体が痛みを作り出し、
周りの注意を 引いていたことになります。
心とは それほど不思議なもので、
孤独から 自分を守るために、 体を痛めつけることさえするわけです。
〔 読売新聞 「医療ルネッサンス」 より 〕
(次の記事に続く)