(前の記事からの続き)
○東央大病院・ カンファレンスルーム
淳一 「移植して 寿命が一年延びたの 二年延び
たのって 大騒ぎしても」
緒方 「現在 世界の肝移植の成績は、 一年生存
率が80%、 五年生存率が70%にも 達し
てる。 五年を無事に過ぎれば、 あとは安定
した状態が 期待できるということなんだ
よ」
淳一 「拒絶反応で結局 前より大変な思いする
ことだって あるんでしょ?」
緒方 「最近 FK506 〔*〕 という 強力な免疫
抑制剤ができてね、 拒絶反応の頻度は 40
%以下に抑えられるんだ」
〔*FK506 …… 免疫抑制効果は 従来の
シクロスポリンの 数十倍から百倍と言
われる。 わが国では 生体肝移植で緊急
避難的に 厚生省が使用を認めたが、
腎移植についての治験が 行われているだ
けである。〕
淳一 「でも人間て どれだけ生きたかじゃなく
て、 どうやって生きたかが 大事なんじゃな
いですか?」
美和子 「患者さんに一日でも長く 生きてもら
うために、 私たちがどれだけ 苦労してると
思うの?」
淳一 「オレは 他人の物もらってまで 生きたい
とは思わない。 人間は自分に与えられたも
ので 精一杯生きればいいんだ」
多佳子 「(小さな声で) …… あたしは ……」
淳一 「? …… (多佳子のほうを向く)」
多佳子 「あたしは …… 今の生活と さよならで
きるんなら、 どんなことだって ………」
多佳子の母 「多佳子 ………」
淳一 「………」
緒方 「平島さん、 膵臓の移植は とても難しく
て、 万が一には 手術が成功しないこともあ
る。 でもうまくいけば、 透析からも解放さ
れるし 皆と一緒に 学校へも行ける。 将来は
就職や結婚だって。 我々は全力を尽くしま
す。 それに懸ける 意思がありますか ?」
多佳子 「(か細い声で) はい ………」
美和子 「平島さん、 大切なことですよ。 しっ
かり答えて」
多佳子の母 「多佳子、 どうなの ……?」
緒方 「我々を 信じてもらえますか?」
多佳子 「(泣きそうな顔をして) …… あたし、
治りたい ……… 普通の生活がしたいの ……
… !」
多佳子の母 「(多佳子の手を握り) やって
いただこうね」
多佳子 「……… お願いします! (はっきり
と)」
緒方、 力強く頷く。
美和子 「ジュンには 平島さんの勇気が」
淳一 「……… オレは …… (多佳子のほうを見
る)」
淳一と多佳子、 目が合う。
多佳子 「……… あなたは、 ずいぶん元気そう
だけど ………」
淳一 「………」
多佳子 「(腕をまくり、 痛々しい 透析の針の
跡を 見せる) こんな透析、 死ぬまで続ける
なんて …… ! 透析で 成長ホルモンだって
止まっちゃうんだよ …… ! (悔し涙)」
淳一 「……… (困惑)」
多佳子 「あたしの気持ちなんか 人には …… !
あたし幾つに見える !? これでも17よ…
… !! (泣きだす) …… くれるって言う人が
いるなら、 あたし何だってもらいたい ……
… !!」
淳一 「……… (目頭が熱くなる)」
多佳子の母 「多佳子 …… ! (涙が滲む)」
美和子・ 世良 「…………」
(次の記事に続く)