「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

脳死判定実行 …… 「生死命(いのち)の処方箋」 (49)

2010年11月29日 20時14分02秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/61349260.html からの続き)

○ 東央大病院・ ICU

  美和子と世良、ベッドで眠る安達を しばし

  見つめる。

美和子 「 …… どうみても切迫脳死 …… 」

世良 「 …… 」

美和子 「世良さん、 あたしが判定をしてみ

 る」

世良 「え ?」

美和子 「あたしでも 正確に判定できるという

 ことを 見せてあげるわ。 その目でよく見て

 いて」

世良 「そ、 そりゃ俺だって、 記者として 

 脳死というものを 見てみたいよ。 でも美和子の

 権限では …… 」

美和子 「もちろん できる立場じゃないけど、

 あとで正式に判定するときの 参考にでもな

 れば」

世良 「しかし …… 」

  美和子、 判定の準備をする。

世良 「アルコールの影響は 大丈夫か?  

 泥酔によって 脳死と同じ状態になるんだろう

 ?」

美和子 「この人が発見されてから 6時間経っ

 てるから、 心配ないわ」

  脳波計を観る美和子。

美和子 「まず、 脳波は平坦」

世良 「 ……… 」

  美和子、 安達の目に 光を当てる。

  安達の瞳孔は 開いたまま。

美和子 「対光反射なし」

  美和子、 安達から人工呼吸器を外す。

世良 「あ …… 」

美和子 「驚かないで。 自発呼吸の有無を 調べ

 るの (腕時計を見ながら)」

世良 「本では読んだけど、 こうして3分間も

 放っておくなんて、 生きた心地がしない

 な」

美和子 「これが一番 厳格な方法なのよ」

  3分間、 安達の自発呼吸はない。

美和子 「(呼吸器を着けなおし) 自発呼吸停

 止」

  美和子、 脱脂綿の先で 安達の目に触れる。

美和子 「こうすると、 普通なら反射的に 目を

 閉じるはずだけど」

  安達の目は 開いたまま。

美和子 「角膜反射なし。 …… 今度は 気管粘膜

 を刺激してみる」

  美和子、レスピレーター (呼吸器) の

  チューブを抜き加減にし、 それをキュキュ

  ッと 揺すってみる。

世良 「生きていれば、 咳をするはずだな …

 …」

美和子 「咳嗽 (がいそう) 反射もない。 

 どの項目も ちゃんと基準どおり チェックできる

 でしょう ?」

世良 「ああ、 今のところ」

美和子 「痛み刺激を 与えてみるわ」

  美和子、 安達の乳頭を 強くつねる。

  安達の反応はない。

  ボールペンの先で、 安達の爪の根元を

  ギュッと圧迫する美和子。

世良 「(顔をしかめて) 結構 きついことをす

 るんだな」

美和子 「本人は 全く感じていないのよ。 わず

 かでも意識があれば、 ぴくっとでも 動くも

 のなんだけど」

  ぴくりともしない安達。

美和子 「これが 生きた体に見える?」

世良 「何だか、 モノをいじってるみたいだ …

 …」

(次の記事に続く)
 

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