世界終末時計が過去最短となる2分前を維持していると報じられた矢先に、アメリカがINF全廃条約の破棄をロシアに通告した。
INF(中距離核戦力)全廃条約には、核弾頭及び通常弾頭を搭載した射程300(500㎞)~3,400マイル(5,500㎞)の地上発射型の弾道ミサイルと巡航ミサイルの廃棄を定められているが、アメリカはロシアの新型巡航ミサイル(9M729)の開発・配備が条約違反であるとともに、INF条約に縛られない中国の急伸長と北朝鮮の核・ミサイルが実戦配備段階にあることから、抑止力としての中距離戦術核の保有が必要不可欠と判断したことによるとされている。世界終末時計委員会はアメリカのINF条約廃棄を予測した上で2分前としたかどうかは分からないが、米中ロの軍拡競争が加速されるのは明白で、更には北朝鮮が中国の鬼子として存在感を増すならば、時計の針が過去最短まで進むのは確実と思う。これを機に世界終末時計について調べてみた。世界終末時計は、日本への原爆下から2年後、冷戦が取り沙汰され始めた1947年にアメリカの科学誌「原子力科学者会報」の表紙絵として誕生したもので、人類の絶滅を午前0時に設定し、その終末までの残り時間を「零時まであと何分」という形で、2345時から0時までの15分間の長針の動きで表示されており、定期的に委員会(委員は各国の有識者とされる)を設けて時刻の修正を行っている。これまで最も時計が進んだのは、米ソが相次いで水爆実験に成功した1953年、北朝鮮の核開発による脅威が高まった2018年1月の2分前で、最も戻ったのはソ連崩壊によって東西冷戦が終結した1991年の17分前である。核を保有していない日本は時計の変化に関係しないと思っていたが、1989年10月からは、核兵器の脅威のみならず、気候変動による環境破壊や生命科学の負の側面による脅威なども考慮して針は動かされているので、兵器開発等の軍事研究には手を染めないとしている日本学術会議会員の研究成果や、日本企業の経済活動も時計の変化に手を貸しているのかも知れない。
アメリカの議会や世論には、INF条約撤廃に伴ってアメリカが中露と無制限の軍拡競争に進む危険性を憂慮する空気が有るものの、トランプ大統領の意志は固く、ロシアは新型巡航ミサイルの配備を継続し、条約に縛られない中国は漁夫の利を拡大していることから、6か月後に米露間のINF条約が失効することは確実と思われる。今後は、米露中の3国間条約締結に動くのか、果てしない軍拡競争に突入して終末時計の針を更に進めるのかは全く不透明である。世界平和危機の程度を測る能力がない自分としては、識者が示す終末時計の指標を利用すべきと思う次第である。