中東で大量発生したバッタがアジアを窺っているようである。
バッタの襲来は「飛蝗(ひこう)」と理解していたので中国の専売品かと思っていたが、今回のバッタ災害は些か異なるので勉強した。今回の飛蝗は、中東のイエメン・サウジで昨年に大量発生した「サバクトビバッタ」が東アフリカ~インドの地域に拡大したもので、東南アジアを経由して中国に至ることも予想されている。サバクトビバッタは、体長5cmほどで、寿命は3ヶ月ほど、卵は2週間で孵化し6週間で成体になるため、現在4000億匹と推計されているが、このまま繁殖が続けば200兆匹にまで増える可能性があるとされている。また、サバクトビバッタは、1日で海抜2000m以下の地域を150㎞近く移動するが、気温が22℃を下回ると歩くことしかできなくなり飛蝗は終息するともされている。サバクトビバッタに依る蝗害のまとまった資料は見つけられなかったので中国の蝗害(飛蝗)について勉強した。中国の飛蝗は「トノサマバッタ」によるもので、有史以来度々発生して大規模な農被害を与えているために蝗害は天災の一つとされ、餓死者の大量発生はもちろん、人肉を食うといった事態も多発し、国家や地方政権に与える影響も当然大きく、それまで続いていた戦争が勝敗・優劣に関係なく停止したり、時に民衆暴動が起こり王朝が崩壊する場合もあったとされている。【蝗(いなご)】の字の由来は、農作物を襲う蝗の惨害をどう防ぎ・救うかに皇帝の命がかかっているという意味から、虫へんに皇と書くともされていた。飛蝗は歴史上の出来事ではなく、1942年(河南旱魃)、1958年(大躍進政策で四害駆除運動を推奨しスズメを大量に駆除した結果)、2005年(海南省)で発生しており、殺虫・防疫方法が進化した現在でも起こり得るものであるらしい。
今回の飛蝗が日本に達することはあるかと云えば、サバクトビバッタの特性から黄砂やPM2.5のように高層の偏西風に乗って一挙に日本に達することは出来ないため中国本土~台湾~沖縄列島という飛び石経路で飛来することも考えられるが、その可能性は極めて低いとされている。生物学的には、イナゴは直翅目・バッタ亜目・イナゴ科、バッタはバッタ目バッタ科に分類されるが、素人目には外形が近似しているためにひっくり返して観察しないと区別できないとされていた。イナゴは、日本では稲を食べる害虫とされると同時に水田から得られる重要なタンパク源として佃煮等に調理されて多くの地域で食用とされるが、バッタはイナゴと違ってあまり美味しく無いようである。サバクトビバッタが中東で大量発生したのは、異常気象の影響による中東地域での記録的な降雨が原因とされている。人間にとって恵みの雨は昆虫にとっても恵みの雨であろうが、恵みの雨がもたらした厄災。生態系のバランスは儚いシーソーで保たれているのかと実感。