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もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

イージス・アショア配備断念に思う

2020年06月16日 | 軍事

 政府は秋田(新屋演習場)・山口(むつみ演習場)のイージス・アショア配備を断念すると発表した。

 断念の理由は、迎撃ミサイル発射後に分離されたブースタロケットが演習場外に落下する危険性を除去するためのハード・ソフトの改修に巨費と時間が必要なためとしている。両演習場への配備に関しては、射界制限の評価を誤ったこと(秋田)、施設運用のための生活水の確保が不透明なこと(山口)などの問題点が取り沙汰されていたものの、百歩譲れば計画策定に不慣れな防衛官僚・施設庁の不手際と考えることもできた。今回のブースタロケットの落下範囲予測については陸自専門家であれば当然考慮したであろう問題で、今更の感が深い。尖閣諸島・台湾・南シナ海に対する中国の尖鋭化、南北連絡事務所の破壊を示唆した北朝鮮の姿勢、G7ロビー参加に秋波を送る一方でTHAAD配備と対日GSOMIAを政治的に弄ぶ韓国の動向等を見ると、イージス・アショア配備計画の断念には別の理由があるのではと思う。イージスアショアはイージス艦とリンク(リアルタイムな情報共有)できることと、長距離弾道ミサイルから巡航ミサイルにまで幅広く対処できるという大きな利点がある一方で、固定基地であるために柔軟性・基地防空に劣り第一次被攻撃の残存性に問題があるとともに、秋田・山口の2基地で日本全域をカバーできるとしているものの日本海側からの脅威対処に偏重していたのではないだろうか。喫緊の問題は尖閣諸島に対する中国の脅威対処であると思うが、山口のイージス・アショアと八重山のPAC3だけでは心もとないようにも思う。となれば低空を飛翔する対地(艦)ミサイルは汎用護衛艦とPAC3で、巡航ミサイルにはイージス艦で、長距離弾道ミサイルにはTHAADで対処するという構想が想像できる。THAADについては過去に政府が導入を検討したが、イージス艦とのリンクを重視したために断念してイージス・アショア導入を決定した経緯がある。THAADは移動式であり、10連装ミサイル発射機と1,000km以上の探知距離を持つフェーズドアレイレーダーで構成されており、イージス艦等とのリンクが断たれた場合にもスタンドアローン的に迎撃能力を維持できると考えられる。また、イージス・アショア計画の断念は、アメリカ海兵隊が恒久的な大規模基地よりも小規模基地(といっても自衛隊の主要駐屯地に匹敵)を分散配備する「前方展開前線基地(EABO)構想」に変化したこととも無縁ではないようにも思える。

 イージス・アショア計画のドタバタを見るにつけ、日本には軍備や兵器体系の整備については一貫した思想が薄く、世界情勢の変化に対する即応性が鈍いように思われる。北朝鮮が核とその運搬手段の開発に血眼となってることを知った後も、中国が尖閣諸島を版図に組み込む野望をあからさまにした後も、自衛隊の対応能力整備に着手したのはそのことから10年以上も経過した後である。10年間も何をしてきたかと云えば、バカの一つ覚えに「遺憾」を繰り返してきただけである。キティちゃんの模倣にも遺憾、領海侵犯にも遺憾、日韓合意違反にも遺憾、日本の主権が侵害される程度に応じて言葉を使い分ける術すら知らないのだろうか。過激な言葉を使用する中国や北朝鮮は別にしても、諸外国は事の軽重に応じて抗議の程度を明確に表現している。一貫した思想に支えられた軍備整備と、怒りの度合いを示す遺憾以外の言葉を使用できる政府であって欲しいと願うところである。