もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

空母ルーズベルト元艦長のその後

2020年06月22日 | アメリカ

 米海軍は、空母「F・ルーズベルト」元艦長(クロージア大佐)の復職を認めないと発表した。

 クロージア大佐が艦長職を解任されたのは、艦内の中国コロナ感染者の救護要請を上級司令部と部外に同時発信したことに依るもので、さらに、本人の聴取もされないままに発信3日後には解任されるという、問答無用・電撃的な処置で、解任を命じた海軍長官代行が「彼は艦長になるにはあまりにも世間知らずか、バカだった」とまで酷評した。しかしながら、解任されるに至った行動は「乗員の生命を救うための処置」であるとして、艦長の復職を求める請願が退役軍人から寄せられていることも報じられていたので、今回の発表はそれに対する回答の意味もあるのだろう。4月9日付のブログでクロージア大佐に対する米海軍首脳の人物評価を考察した上で、彼の復権はもとより今後においても部隊指揮官となることは無いだろうと書いたが、まさに今回の発表でも「今後も艦隊や部隊の指揮を執る立場に置かない」と断言されている。そこには強健な組織には隷下の各単体を含めた全ての指揮官が健全であることが不可欠であるとともに、指揮官に任命された者は要求された使命を果たすことを義務付けられるという明確な考えが見て取れる。翻って日本の現状は、任務を果たすことができなかった児童相談所にあっても所長は極めて軽微な行政処分に留まり、糾弾・批判されるのは「任命責任」という摩訶不思議な責任を負わされた首長である。生涯雇用が原則の日本社会にあっては、地位は能力で獲得するものでは無く年功に応じて与えられるという風潮があるように思うので、元艦長に対する米海軍の姿勢とは明らかな差異があるように思える。

 能力に対して地位(階級)を与えるという考えは戦時の米軍では一般的で、将官は全て少将(准将)としてプールされ能力を評価されて大将の職に任命された場合は中将を飛び越えて大将に任命される。キンメル少将は太平洋艦隊司令長官に任命されて大将になったが、真珠湾攻撃の責任を問われて解任され少将に戻り間もなく予備役に編入されている。キンメル提督に変わって太平洋艦隊司令長官に補されたニミッツ提督も少将から一足飛びに大将となったが、1944年12月に元帥の称号を与えられたために死ぬまで海軍大将・元帥であり続けた。ウィキペディアの記事で知ったことであるが、太平洋艦隊司令長官を解任(更迭)されたキンメル提督には、上・下院で名誉回復決議が採択されたが、クリントン大統領は署名を拒否、以後の大統領も署名をしていないので真珠湾敗戦の汚名を被ったままとなっているらしい。真珠湾攻撃が米海軍とアメリカにとって稀有の敗戦であるとする視点・思想は今もって生き続けているようである。