これまで世論調査の不思議さについて複数回にわたって書いた。
不思議と感じていたのは、世論調査の結果が調査する報道機関の報道姿勢と驚くほど似通っていることで、調査対象者選定や調査時間において恣意的な操作があるのではと感じていた。各社の調査方法は大同小異で、コンピューターが無作為に抽出した1000件程度の固定電話による調査とされているが、固定電話を持たない階層が増えていること、コンピュータに定期購読者のデータから抽出させる、有職者不在の可能性がある平日の勤務時間に電話する等を作為すれば、相当な確率で調査機関の希望する結果に導くことができると思っていたためである。今回明らかにされたのは、産経新聞を中核とするFNN(フジ・ニュース・ネットワーク)合同調査で、業務委託先の下請け会社が実際の電話をかけずに、担当者がデータを勝手に入力していたもので、何をか況やの状況である。世論調査結果は調査時点の世相を伝える以上に、付和雷同者を糾合して特定の潮流に導く”雪崩現象”を起こさせることは、民主党政権誕生にも示されている。この不祥事に対して産経新聞は、不正があった世論調査結果に基づいて報道した過去14日・86件の記事を取り消すとしたが、一旦生じた世論調査結果に対する不信感を払拭することは出来ないように思う。統計学に暗いため、現在の世論調査方法での許容誤差はどの程度か判らないが、例えば「内閣支持率」を問う各社の世論調査結果に於いて、数%、時によっては10%近い差が出ることがあるが、これを有権者数に換算すると5百万~1千万人に相当するもので、国政選挙に影響する雪崩現象の引き金としては十分な数字であろうと思う。
かっては、米国のギャロップ社と各国のギャロップ・インターナショナルの調査結果と予測が正確であるとして確固たる評価を得ていたが、近年は政治的な偏向が顕著な調査結果が散見される等、信頼が揺らいでおり、予測に関しては各国のブックメーカー(賭け屋)のオッズ(倍率)の方が当たるとされている。ブックメーカーのオッズも独自の世論調査を基に決められていると思うが、金銭(利益)が絡むので真剣にならざるを得ないのだろう。日本でも帝国データバンクに代表される経済・市場の調査会社はあると思うが、世論調査専門企業があっても企業としても成り立つのではないだろうか。今回のFNNの不祥事は、一人FNNだけの問題ではないように思うので、各社の世論調査が眉唾視されることは避けられない。現在、世論調査を行っているNHK・朝日・毎日・産経・日経・共同通信が現有資産を出し合って新たな機関を作ることを考えて欲しいと願うところである。